第27話 『虹の橋』

『[万物の樹]空港ターミナルビルを設置しました。異空間国際線を開通可能です。


 異空間国際線開通候補:[ フォレストドワーフの街]

 開通条件: ギア・メインポートで開通候補地に赴き、建設予定地に虹色の種(異空間国際ターミナルビル)を植え【グロウアップ】を唱える。注意: 追加MP10,000 必要 』


 (え?マジでみんなここに呼ぶの?)


 「ほっほっほ、こりゃまた騒ぎになりそうじゃの」


 「グーグ!グーグ!」


 俺がまた更なる問題が出て来た……!と思ったのと同じようにガロ爺も感じたらしい。


 ただリーフだけは積極的に俺のズボンを引っ張って、行こう!と言っているようだった。


 「うーん、ともかく万様に聞いてみていいか?」


 「ググウ……」


 引っ張るリーフにどうしても乗り気じゃない俺は、そのままウーグラフの屋敷に戻る前に万様に聞いておきたかった為、リーフに断りを入れる。


 「なあ、万様。コレを設置するのって問題が更に大きくなるんじゃないかって思うんだ。それでもやるべきか?」


 俺がリーフを撫でながら質問すると、万様が俺の頭の中に映像を流し込んできた。


 映像には、万物の樹が復活したと心から喜ぶフォレストドワーフ達の街の様子や、小さな子供までもが花を飾り、家族の無事を感謝している姿。


 感謝の祭りを始めようと笑顔で準備をするフォレストドワーフ達の姿。


 そしてそれらの映像が万様に吸い込まれていって、光出す万様。


 そこで映像が切り替わり、今度はフォレストドワーフの街の外、苔の大岩の側に立ち、虹色の種を植え何かを唱える俺の姿が見える。


 すると、街の外側に出来た異空間国際ターミナルビル。


 そこから万様の光が飛び出し、フォレストドワーフの街をすっぽり緑の透明な光が覆いはじめた。


 街の中はまるで万様エリアと一緒の雰囲気が伝わってくる。


 穏やかな気候。

 豊かに育まれる食物。

 爽やかで安らぐ空間。


 更に画面が切り替り、ターミナル内部ではチケットを買ったフォレストドワーフ達が、乗り物に乗り込む姿が映し出される。


 フォレストドワーフ達が乗り物から降りて建物の外にでると、そこは万様エリアの光のゲートの外側だった。


 チケットを持ったフォレストドワーフ達は、ゲート内には入れないが、実物の万様を見る機会が与えられていた。


 そして[フィトンチッドの雫]を持った者だけがゲート内に入り、多くのフォレストドワーフ達が街へ行き来出来る姿が映し出されてーーー


 映像が途切れた。


 「……エアポートターミナルを通して、万様の力があちらの世界にも届くって事か?」


 「ほっほっほ、そのようじゃのぉ。しかも緑のドームとはやりおるわい。万物はフォレストドワーフを種族ごと守ると言っておる。緑のドームは安全を意味するからのぉ」


 俺が思わず呟くと、それに同意し捕捉情報をくれるガロ爺。


 そして、俺の足を伝って登って来たリーフが「グーグー!」と言って俺の胸元のコンパスガイドを叩いている。


 「ほっほっほ、タクトよ。胸元の[フィトンチッドの雫]を改めて見てみい。万物は更にタクトを守るそうじゃよ?」


 言われて胸元を見ると、虹色の[フィトンチッドの雫]の周りに出来ていた緑のリーフサークル。


 (なんだ……やっぱり万様にはバレていたか)


 公になればなるだけ行動する俺の危険が大きくなると考えていた、自分本位の俺の考え。


 そんな臆病な俺の考えをお見通し万様がとった策は、どうやらステータスに加護の補強をすること。


 それで、今の俺のステータスはこうなったんだ。


  タクト・ハザキ 22 男性 人間(標準)

 保有体力(HP) : 2,000/2,000

 保有魔力(MP) : 500,000/500,000

 保有スキル : エア・ポート 

 保有ギフト : 万物の樹(仮契約状態)

 称号・加護 : 万物の樹の守り人・万物の樹の加護/保護←!

 保有従魔 : リーフ(リードミアキャット/希少種)

       レイン(レインボーバード/希少種)

 虹色の種 : ×1

 スイッチパスワード : 《ギア》声紋認証済み

 マスターパスワード : 《メイン》声紋認証済み 』


 そう、新たに[保護]がついたんだ。詳細を見たくてタップしてみると……


 『[万物の樹の保護]

 使用MP0で[万物の樹]空港ターミナルへの緊急避難【リターン】可能。1日の使用限度回数3回。タクトが触れている物や人も同時に帰還出来る。注意:同時帰還可能なのは[フィトンチッドの雫]を持つ者だけに限定される』


 ギア・メインポートと同じMP0だから用途によっては有り難い。


 ……正直言って不安はまだあるけどさ。でもそれ言ってたらキリが無い。


 「……どこに基準を置くかって事になるからな」


 そう、未だ見ていないだけの人間や多種族に怯えるよりも、今俺に寄り添い力をくれる万様の存在を重点に置くのが絶対いい。


 「ほっほっほ、どうじゃ?もういけそうかの?」


 黙って様子を見ていたガロ爺が声をかけてくる頃には俺も納得し、さあ行こうとした時……


 「失礼致します。タクト様、ガロ様、リーフ様。急に出来た建物について一同驚いております。どうかご説明のお時間を取って頂けますでしょうか?」


 ルーフバルコニーの入り口で俺達の話が終わるまで待っていたフォーが、リビングルームで待機している他のみんなの代表で呼びに来たらしい。


 俺とガロ爺は顔を合わせ苦笑いをすると、説明する為みんなのもとに急いだんだ。


 そして全員に[万物の樹]異空間国際ターミナルビルの話を説明すると……


 すぐに見学に行こうと言う話が出たが、それはまずウーグラフにも話をしてからという事になったんだ。


 「では今日は、全員にしっかりこの屋敷について覚えて頂きましょうか」


 すかさずスーパー執事のフォーが、これから共に働き出す使用人達の教育をにこにこ笑って提案する。


 フォーの教育を知っているヘゼルとティナは青ざめていき、ミニコロボックル達やピオール達は何をするのかとキョトンとしていた。


 その様子に笑いだしたガロ爺。


 「ほっほっほ。フォーよ、ほどほどにするんじゃよ?」


 ガロ爺が一言忠告したおかげで助かった、と後からクーパーやピオールに聞かされた俺は、この屋敷で敵にまわしちゃいけないのはフォーだな、と頭に刻みこんだ。


 そして、ようやくウーグラフにこの話を持っていった時には……


 「うおおおおお!」


 「流石、万物様!」


 会議中だったにも関わらず、泣きながら俺に抱きついてきたウーグラフとジュード。よっぽど板挟みになっていたんだなぁ、と少し同情した俺。


 そんな俺を改めて見た各区域の長と族長は、俺に敬意を込めて跪き感謝を始める。


 ウーグラフ達に抱きつかれたまま跪かれるというなんとも微妙な俺の姿に、笑うガロ爺に胸を張るリーフ。


 俺はなんとか通常の話し合いの雰囲気に場を戻すと、先程までとは打って変わってどんどん話しが進んでいく会議。


 そして、どうせなら街全体をあげて開通式をやろうという事になりーーー


 『それでは、これから開通式が始まります。皆さんこの貴重な機会を是非目に焼き付けましょう』


 あれから数日経った俺の目の前では、ニュースキャスターさながらのフォレストドワーフの女性がレポートしている。


 すげえんだぜ。街の外に全員が出るのは危ないからどうするか、って議題が出た時、魔導TVやビデオカメラってねえの?って俺が意見を言ったのが発端で完成した魔導ビデオカメラと魔導スクリーン。


 しかも職人達が徹夜して2日掛かりで作り上げたんだ。おかげで今、ウーグラフ家にかけられた巨大スクリーンの前には、街中の人が集まって貴重な瞬間を見逃すまいとしているらしい。


 「ほっほっほ。フォレストドワーフの執念じゃの」


 俺の横で呑気に様子を見ているガロ爺も、今日ばかりは正装をして画面に映っている。


 そういう俺もマリー作のスーツを着ているが、流石はマリー。着せられている感もなくフィットして動きやすいスーツを作ってくれたんだ。


 それに……

 

 「グーグ♪」


 リーフの上着も俺とお揃いで作ってくれたマリー。その服を着てからリーフの尻尾はブンブン動きっぱなしだ。


 『ウーグラフ様、貴重なお言葉ありがとうございました。さあ、皆さん!遂にお時間になりました!この奇跡の瞬間を共に見届けようじゃありませんか‼︎』


 ウーグラフの有り難い言葉の撮影が終わり、リポーターが俺に向けて手を伸ばす。


 それが合図の手筈になっていた為、コンパスガイドから虹色の種を取り出し、指定された場所に植え込む俺とリーフ。


 そして全員距離を取り、俺が「【グロウアップ】」と唱えた瞬間、種から出てきたのは、絡み合いながら次々と出てくる大量の太い木の根。


 その木の根がフォレストドワーフの街を覆っている苔の大岩にまとわりつきすっぽり覆い尽くすと、万様からの光が届きーーーー


 眩い光が収まった時には、既に設置されていた苔の壁の[フォレスト]空港ターミナルビル。


 設置直後、ターミナルビルから発せられる緑の透明なドームが徐々に街全体を包み込んで行く際に同時に現れた巨大な虹。


 その瞬間、地割れするかと思うほどの歓声が、街の中から外から俺たちに降り注いだ。


 それは、フォレストドワーフ達に取って後世に語り継がれる『虹の橋』の一幕になったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る