第28話 [フォレスト]空港ターミナルビルお披露目
『皆さん……!遂に……遂に……我々は到着しました‼︎ 見えて……いますでしょうか?我ら、フォレストドワーフが待ち望んでいた、万物の樹のお姿を……‼︎」
フォレストドワーフの女性リポーターも魔導ビデオカメラを回しているフォレストドワーフの男性カメラマンも、涙を滝の様に流しながらも仕事にプロ根性を見せる姿に、尊敬の眼差しを向ける俺。
そう、今俺達は[フォレスト]空港開通後の初乗客となり、万様のいるエリアに戻って来ている。
そんな俺の周りでは、感動の余り涙で前が見えないフォレストドワーフの各区域の長達や族長、そして跪き祈り出す護衛の兵士達や抽選で選ばれた街の市民達が歓声をあげて万様を讃えている。
あ、勿論俺の他にガロ爺やリーフ、ウーグラフにジュードも乗って帰ってきているぞ。
「ほっほっほ、なんともまあ面白いもんだったわい」
「これでタクトに頼らなくてもいつでも来れるな、ジュード」
「ウーグラフ様は執務を終えてからですぞ!」
もはや慣れているガロ爺はともかくウーグラフもジュードも二度目ともあって、現在普通に立っているのは俺を含めてこの四人。
おもてなし精神旺盛なリーフはと言うと……
「グググウ!」
「ピイッピピ!」
着いた途端屋敷に戻り、せめてもの歓迎の為レインを連れて来たらしい。
それでまた俺達の周囲では、感動の歓声が上がっている。
([万物の樹]空港ターミナルビルのマスコットキャラになるんじゃね?あの二匹……)
万様から離れないレインは勿論、リーフもまたフォレストドワーフにとっては憧れの存在。
今は、女性リポーターの側で二匹が愛嬌を振りまいている。
「しかし、[フォレスト]空港ターミナルビルに、まさか光のドームの様な選別の機会があるとはなぁ……」
「あれは驚いたの。だが、ここが騒がしくなるよりいいじゃろう」
「ああ、アレは助かる。此処に着くまで期待しすぎる事もなく、心から万物様を拝見出来るからな」
俺の呟きに、頷くガロ爺に「まあ、[フォレスト]空港が混雑するのは目に見えているが」と今から頭を悩ますウーグラフ。
そう、俺達以外の此処にいる全員試してみたが、[フィトンチッドの雫]を新たに手に入れた人物はいない。
そういう意味でも、この場で涙を流しているドワーフもいる事だろう。
「まあ、こっちにも光のドームもあるからのう。諦めの悪い奴は此処で諦めも着くじゃろうて」
ガロ爺が呆れて言っているように、正に今、試している兵士がいるぐらいだ。
……フォレストドワーフ達は、本当に万様に仕えたい者ばかりらしい。
「でもさ、万様空港はいいとしても、フォレスト空港はこれから大変だろうなぁ」
「……言うな、タクトよ。万物様の気遣いとは言え、仕事が増えるんだ……!今から逃げ出したいわ」
「全くですぞ……!」
既にげんなりしているウーグラフとジュードは、[フォレスト]空港の事を思うと表情が青ざめていく。
それもそのはず……
「まさか[フォレスト]空港が全部手動で、空のテナントもあるとはなぁ……」
そうなんだ。[フォレスト]空港ターミナルビルは入り口の自動扉を潜るとこんな感じだったんだ。
[フォレスト]空港ターミナルビル フロアマップ
1F チケットカウンター
チケットロビー
手荷物受取所
到着ロビー
[フィトンチッドの雫]認証検査機
コインロッカー
男女別トイレ
中テナント(空き2)
2F 出発ロビー
搭乗待合室/男女別トイレ/ウィケットカウンター
個人/特別待合室
大テナント(空き2)
小テナント(空き3)
兵士詰め所
3F 屋上庭園
事務所/会議室/スタッフルーム
男女別トイレ
まるで地方の空港ターミナルビルなんだよ。因みにウィケットカウンター(搭乗改札口)って俺も初めて知ったけどさ。
ん?今回はどうしたかって?
全員で[フォレスト]空港ターミナルビルの入り口に入った途端、「グーググーウ♪」と走り出したリーフと追いかける俺。
するとチケットカウンターで、「グーグーググウッ!」と今回の人数の分のチケットを用意するリーフ。
「ほっほっほ、これが『チケット』ってものらしいの。皆、一枚ずつリーフから受け取っておくれ」
俺が理解するよりも先に、リーフの通訳をするガロ爺。
ガロ爺に言われた通り皆が受付カウンターに並び、一枚ずつリーフから手渡しで渡されるのを待っていた時……
「なあ、タクト。これ[フィトンチッドの雫]に見えるんだが……?」
待っている間、暇だったウーグラフが見つけちゃったんだよ。[フィトンチッドの雫]認証検査機を。
勿論、リーフが説明したのをガロ爺が通訳して判明したんだけど、その後が凄かった。
我先にと手を差し出すフォレストドワーフの圧に押された俺の代わりに、見かねたウーグラフがまとめ上げてくれたんだが……
『皆さん、信じられますか?誰でも手を所定の場所に置くと、あの[フィトンチッドの雫]が与えられるかもしれないんですよ⁉︎ ハッ、こうしちゃいられません!私もまた挑戦して参ります‼︎』
リポーターが鼻息荒く魔導ビデオカメラに詰め寄ったかと思いきや、ダッシュで列に並ぶ姿(カメラマン役もちゃっかり次に並んでいた)は、フォレストドワーフ達の思いの丈が伝わってきたんだよなぁ。
結果、見事に全員が惨敗して、葬式か?ってぐらい落ち込まれたのには参ったけどさ。
リーフが全員の足をポンポン叩いて労って回ったら、全員すぐ回復したから助かったよ。
そこからはリーフが「グーグー」と内部を説明する度に、ガロ爺やウーグラフが通訳に回り、そしてテナントという店が開ける事を知った時には……
『皆さん⁉︎ 聞きましたか⁉︎ ええ、聞き逃した方の為にもう一度お伝え致します!万物様がご用意したこの[フォレスト]空港ターミナルビルに、なんと店を構える事ができるのです!
ーーーご覧下さい!この立派な建物!そして、思い描いて下さい!万物様へ会いに行ける事が出来るこの建物に、万物様が私達の為にご用意して下さったこの建物に貴方の店が出せる事を!!!!』
女性リポーターが魔導ビデオカメラに向かって熱弁を振るう中、徐々に顔色が悪くなっていくウーグラフとジュード。
「……ウーグラフ様、これまずいですぞ……!」
「見ていない者がいる事を期待するだけ無駄だな……」
ボソボソと二人で話し合っている中、当然のようにカメラのレンズはウーグラフを捉える。
『ウーグラフ様! この施設の利用者はどのようにお決めするおつもりですか⁉︎ いつから利用出来ますか⁉︎いえ、そもそも先に名乗り出たものからというのであれば、是非この新設された報道局に権利を是非…… 』
『あー、現在検討中‼︎ 詳細は近日中に発表するっっ!』
『なんと!近日中に発表ですってっっっ⁉︎ 皆さん!動き出す方は今すぐに動き出して下さい!勿論、我が報道局も立候補致します!では、今すぐ気になる店舗の全貌を一緒に確認致しましょう!』
そう言って取材に入るリポーターや、兵士の駐屯所を見に行く兵士達、リポーターについて行く一般市民の皆さんを宥めて連れてくるのには、本っっっっ当に苦労した。
そしてウィケットカウンターを全員に通らせる事に成功し、通路を歩くと見える飛行船の様な乗り物。
但し、内部は飛行船の様なものではなく、豪華客船ばりの調度品にゆったりとした座席。大型トイレは勿論、バーカウンター、ドリンクコーナー、ファミリールームまで完備。
『………!!!なんという事でしょう!今日という日は我が報道局始動初めにして最高の日です!ええ、皆さんも気になるでしょう!一緒にこの最高の乗り物を探索しようではありませんか‼︎』
こうなったら、もはや止められないのは今日一日だけでも十分味わっている。
(仕方ない……!しばらく自由にさせるしかないか……)
何故か同じテンションになっているリーフをサブレポーターにして、機内を取材し始めた女性リポーター。
なんとなくリーフの言っている事が理解出来るのか、疎通ができているのがすごい。
説得を諦めた俺達は精神的に疲れた為、ゆったり座席に腰掛ける。
(うっわ……!すっげえ、座り心地いいわ……!)
見渡すと満足気なガロ爺やウーグラフ、ジュードに至っては目を閉じて幸せそうだ。
すると、流れ出したクラシック曲のような音楽。そのすぐ後に、女性の声でアナウンスが流れ始めた。
『ご搭乗ありがとうございます。当機[エアプレーン]号は皆様を[万物の樹]空港ターミナルビルまで安全・快適にお連れ致します。ーーー間もなく出発致します。皆様座席に着き、出発までのお時間は当機のガイドマニュアルをお楽しみ下さい』
すると、スライドが天井から現れ、映像と共に音楽と音声による案内が始まった。
これにはすぐに反応し、全員が座席につく。
映し出された映像は、機内の案内・今後の飛行予定時間・注意すべき危険行為・無料サービスに至るまで幅広く、誰でも理解しやすい構成だった為搭乗初心者でも安心して乗れるだろう。
勿論、その画像にリーフとリポーターは大はしゃぎ。兵士達は一時の休息、一般の乗客は映像に観入っていたし、ガロ爺やウーグラフもいつの間にか眠っていた。
移動時間はおよそ1時間。
出発すると、窓はない為外の景色は楽しめないが、それぞれスクリーンや機内を存分に探索し、満足して[万物の樹]空港ターミナルビルに到着。
『大変お疲れ様でした。[万物の樹]空港ターミナルビルに到着致しました。お降りの際はお忘れ物の無いようお願い致します』
出発と同じようにアナウンスが流れ、万様空港について降りても一悶着あったけど、今回は割愛。
(もう色々ありすぎて疲れたんだよ……!)
そんな疲れた俺とは違い、元気一杯なフォレストドワーフ達。
ようやく目的地の外に出て、万様と初対面を果たしたところだったんだよ。
「ウーグラフ、帰りは任せても大丈夫そうか?」
「まあ、リーフ様がいるからな。……悪いな、フォレストドワーフは体力はあるんだ。まあ、タクト今日はこのまま休んで、明日からは覚悟しろ。……此処まできたら、手伝ってもらうからな」
ニヤっと笑うウーグラフにもはや遠慮は無い。
ガロ爺は「ほっほっほ」と笑って誤魔化しているし、ジュードは「迎えにきますぞ!」と服の袖を捲って力付くでも連れていく気だ。
リーフは女性レポーターと仲良くなっているし、ちゃっかりフォーはいるし……
ま、俺は俺で出来る事をしますか。
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