第24話 キングジャックリザード討伐戦

  「くっそお!来るなら予告して来い!」


 さっき寝たばかりの感覚の俺は、寝不足も相待ってかなり苛立っていた。


 そんな俺が運転する魔導乗用カートが街の上空を飛ぶ中、肩の上で俺の言葉に真面目に突っ込みを入れるエラン。


 「いや、予告されても困るだろ……」


 「いや、エラン。俺の気持ちの問題だ!」


 「ググウグーウ!」


 「リーフが構わずやってやれって言ってるぞ?」


 「リーフ……お前、寝起きなのに元気だなぁ」


 魔導乗用カートには勿論リーフも乗っている。俺の膝に乗ってハンドルに捕まっている状態で、前足を上げてグーグーと騒ぎ、妙にハイテンションだ。


 (リーフ、まだ寝ぼけているんじゃね?)


 「タクトや。まずは、あの辺りに打ち込んでもらえんか?威力を見てみたいんじゃ」


 リーフに寝ぼけ疑惑を抱く俺の後ろでは、冷静に試し打ちを勧めるガロ爺。


 「わかった!まだ誰も門の外に出てないな⁉︎」


 「ググウ!」


 俺の確認に膝の上でサーチコンパスを覗くリーフが、頷きながらいい返事で答えてくれる。


 門の城壁では、上からバリスタで攻撃をしつつ、街を守る人達の姿がある。


 そしてそのバリスタは流石フォレストドワーフの街製。どうやら魔導カタパルトなのか、発射時に光る高速の矢が次々と打ちだされている。


 「おおー!凄え!俺達行かなくても大丈夫じゃね?」


 そう思うくらい魔導バリスタの攻撃力は高く、[紫]でさえ数発で倒している。


 「いや、ダメじゃ。キングがいる限り、ダンジョンから無限に呼び出しおるからの。こちらには数に限りがあるわい。それより、ほれほれ、勿体つけずにはよせい」

 

 「わかってるよ」


 俺達の姿を見てざわめく門の上空までくると【エアジップトレース】を唱え、最大の100%にまで上げて、照準を合わせる。


 照準スコープ内は暗視スコープ搭載で昼間のように見える為、後方でゆったり構えているキングの姿もはっきり捉えられる。


 (今、その余裕を無くしてやるよ……!)


 そう思ってタップすると……


 キュウウウウウウウウ……!と急速に何かが集まる音がしたかと思うと、ドキュゥゥゥゥッッッ!!と発射されたエアジップトレース。


 余りの音に驚いていると、その直後ーーー


 ドゴオオオオオッッッッッッ‼︎という爆音と共に風圧が襲ってくる。


 眼下では城壁に捕まり損なって、街に飛ばされた門兵達の姿も見えた。


 俺達は【クリエイトエア】で空気の膜を作っていた為大丈夫だったが、それでもビリビリビリ……!と振動音は聞こえてきていた。


 (ちょ……!やばすぎるだろ……!)


 照準スコープを覗くと地面に大穴を開ける程の衝撃。だけど……


 (……な⁉︎ [紫]を盾にして生きてやがる!しかも軽い傷だけって……!)


 どうやら即座に[紫]と共に地面に逃げ込んだキングジャックリザード。地面にボコッと穴が開いたと思うと、そこから[紫]のジャックリザードの遺体を抱えたキングが出て来て、スコープ越しに俺と目があったんだ。


 ニヤッと笑い、グガアアアアアッッッッ!と叫んだ途端に現れ、補充される大量のジャックリザード達。


 「くっそ!アレでも駄目なのかよっっ!」


 「グウウウ!!」


 「また補充されてしまったか……!」


 悔しがる俺やリーフ、そして冷静に数を確認するエランの後ろでほっほっほ、とマイペースのガロ爺。


 「こりゃ凄いのぅ。タクトや、これだけの威力があれば十分じゃ。それに奴も呼吸は肺呼吸じゃよ?何やら奴らの言葉で呪文を唱えておるようじゃった。ワシが奴の注意を引いておくからの。キングを任せるぞい」


 そう言って、いつもと変わらない口調でヨッコラセっと飛び降りて行くガロ爺。


 「【制限解除】、【硬質化】」


 ジャックリザードの中に飛び降りていくガロ爺の魔法銀化し手が、一瞬で重量比を増したデカい真四角の形になってジャックリザード達の真上に落ちる。


 ズドオオオオン……!


 大きな揺れを起こし着地したガロ爺の大きな手の下には、恐らく潰された大量のジャックリザードの死骸がある事だろう。


 (うおおお……!ガロ爺、結構エグい……!)


 俺がつい様子を見ている間も、ガロ爺はすぐに攻撃に移っている。


 シュッと形を戻したかと思ったら、湯気を出しながらハリネズミのように細長く伸ばした針を辺りにいるジャックリザードに刺し通し、徐々にジャックリザードの数を減らして行くガロ爺。


 その姿に城壁から歓声が上がり、援護の魔導バリスタが城壁から大量に打ち出される。


 (ガロ爺に刺さっても溶けるだけだからなぁ。こりゃ凄えわ……!)


 俺もガロ爺に触発されて、キングに照準を合わせるが……


 (同じ事をやってもまた逃げられる……!なら……!)


 「【ギア・エアパウチ】」


 レベル9になったエアパウチは、エアパウチの更なる硬質化が可能になっている。但し硬質化の場合、可能範囲は半径1m以内になり、MPは一発2,000だ。


 さっきのエアジップトレースも、実は100%にすると一発2,000MP持っていかれる。


 まだMPには余裕があるとはいえ、ムダ撃ちは避けたい。


 (それに、アイツ万様に与えたら《胡桃マーケット》面白そうなんだよなあ……)


 照準を合わせたまま周囲を見ると、ガロ爺が戦いながらキングに近づいていた。


 (っし!今だっ!)


 ガロ爺に注意がいっているキングの顔を覆うように照準を合わせ、タップすると……


 キングの首の周囲の空気が固形化し、更に硬質に変化する。


 「!!!!!?」


 顔を透明で固い膜に覆われて戸惑うキングの様子を見て、俺は思いっきり叫ぶ。


 「ガロ爺ーーー!頼んだっっ‼︎」


 すると、キングに出来た隙を見たガロ爺が、魔法銀化した手をナイフのように成形し、ザシュッとキングの上半身と下半身を斜めに切り分けたんだ。


 この時の事をガロ爺が言うには……


 声は聞こえなかったが俺が作ったチャンスを理解し、即座に切る事は切ったが、とにかくスキルで固めた所が堅かったらしい。


 「やれやれ、年寄りに無理をさせるわい」


 合流した時にそんな愚痴を言われたが、ガロ爺様さまだったので甘んじて受けておいた。


 そして、厄介なキングが片付くと後は撲滅戦。


 街門から出て来た大勢のフォレストドワーフの兵士達の援護に回った俺は、通常の【エアパウチ】をジャックリザードに連打しまくった。


 [紫]はガロ爺がほぼ切っていたが、他の[緑]や[青]や[水色]はドワーフ達だけで倒しまくっていた。


 兵士達は魔導バリスタの矢が切れたら出陣予定だったのが、俺とガロ爺の戦いを見て、それを早めたらしい。


 そして最後の一匹をガロ爺が仕留めた時、戦場と城壁から勝ち鬨の叫び声が上がる。


 その様子に俺の肩の上ではふうっと安堵のため息を吐くエランと、膝の上で何やら拗ねているリーフ。


 「グウウウウ……」


 エランによると、役に立たなくてガッカリしていたらしいリーフの考えでは、戦闘中は運転をリーフがして俺が射撃に集中する図が出来上がっていたらしい。


 (いやいや、リーフよ……お前の短い足で、アクセル踏めないだろうが……)


 それでも、リーフのボケ(?)で肩の力が抜けた俺達。


 笑いながら回収(主にエランが)に協力し、後部座席に乗ったガロ爺と一緒に街門を潜り街に戻ると、街の人達に大歓声で迎えられたんだ。


 「我が街の英雄様ー!」


 「ガロ様ー!」


 「守り人様ー!」


 「リードミアキャット様ー!」


 ……ガロ爺はいいとして、歓声の中に聞こえた言葉にギョッとする俺。


 リーフに至っては喜んで手を振っているが、思わずエランと顔を合わせてしまったんだよなぁ。


 焦る俺達にほっほっほと笑い「仕方ないのぅ」と呑気なガロ爺に向かって、大歓声で俺達を褒め称えるフォレストドワーフ達。


 そんな様子の中、街をそっと出て行く一つの影には誰も気付かずにーーー

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