第23話 一時の休息
俺達がフォレストドワーフの街に戻った頃には、とっぷり日が暮れていたけれど、魔導乗用カートにもライトがついていた為無事に到着。
街の門は閉まっていた為、ひっそり上空からウーグラフ様のお屋敷に飛んで入ったんだけど……
「お帰りなさいませ!ささ、まずはこちらで汗をお流し下さい。すぐに入れるように既に整えております!」
応接室にある門に行く前に、執事のフォーに捕まりウーグラフ様のお屋敷で汗を流す事になった俺達。
フォーやメイドさんがグイグイくるから、甘える事にしたけどさ。
「なんか、俺達に対する態度に拍車がかかったような気がする……」
「ほっほっほ、そうじゃろうて。おそらくこの屋敷の者にはウーグラフがフィトンチッドの雫の話でもしたじゃろう。特にフォーは願いもあるじゃろうしの」
脱衣場で自分の服を脱ぎつつリーフの防具を外している俺に、既に準備が終わったエランを肩に乗せたガロ爺が、浴室の扉を開けながら教えてくれた。
すぐに俺とリーフも準備を整えて洗い場で合流すると、身体を洗っていたガロ爺が懐かしそうに話し出す。
「フォーをはじめここにおるメイドや執事は、儂の代から支えてくれた忠臣の子供や孫達じゃ。皆一様に万物の樹に会うのが夢での。おそらく選別の機会を得たいんじゃろ」
「んー?でも俺そんなに人入れるつもりないんだけど……」
「良い良い。気にせず、タクトの思いのまま進めばよい。ただこれからこの世界と接点を持つという事は、そうした思いを持つ者と接する機会が増えるという事じゃ。迷う事も多くなるじゃろうて」
俺は黙って身体を洗いながら、ガロ爺の言葉を頭の中で復唱していた。
(機会が増える……かぁ。確かになぁ。まずは俺が許可を出すんだよなぁ。全員に許可出してたらMPすぐなくなるだろうし、そもそもそもそれやるつもりないしなぁ。かと言ってなぁ……)
「ほっほっほ、タクトや。今、考えんでも良い。タクトにあった感性の持ち主に会った時で良いじゃろ。さ、しっかり浸かって疲れをとるんじゃ。おそらく明日は動いて貰わねばならんじゃろ」
「あー……うん」
こう言っちゃなんだが、流石年の功。サラッとアドバイスをくれる。
「俺、今初めてガロ爺尊敬したわ」
「ほっほっほ、もっと尊敬しても良いんじゃよ?」
「それは無理」
たっぷりのお湯が入った大きな湯船に浸かりながら、ほう……っと息を吐く。
目の前ではゆった桶の中で浸かっているエランと、同じ桶の中で気持ち良さそうに伸びているリーフ。
その様子を見て流れに任せてみるかと、肩の力が抜けた俺。
その後ゆっくり身体をほぐした俺達が脱衣所に入ると、用意されていた下着と部屋着に着替え、次に案内されたのは立派なダイニングルーム。
「疲れたろう。ピオールとクーパーが腕によりをかけて作った食事を用意している。まあ、食べながらゆっくり話しを聞かせてくれ」
既にテーブルに着いていたウーグラフとジュード。どうやらマリー達は既に万様のお屋敷で食べて、今は休んでいるらしい。
(キース達は早寝だもんなぁ)
レインもカゴの中でぐっすり寝てるだろう、と思いながら席に着くと、メイドさん達が運んできてくれた料理はコース料理。
メニューはこんな感じだった。
*本日のメニュー*
苔野菜と生ハムとチーズのカルパッチョ
白身魚のテリーヌ〜苔葡萄ソース添え〜
ルーメリア湖産シーフードスープ
ルーメリア湖産シュリンプピザ
ローストボア〜赤ワインソース添え〜
苔桃シャーベット
「凄えな、ピオールとクーパー。こんな本格的な料理も作れるのか!」
味にうるさい元日本人の舌をも唸らせる味付けに感心する俺の横では、口にいっぱいに料理を頬張り幸せそうなリーフ。
エランは綺麗に食事をしているが、久しぶりのクーパーの料理をじっくり味わっているようだ。
ウーグラフとジュードも先に食事をしていたようで、ワインとつまみで付き合ってくれている中、ウーグラフがさっきから黙っているガロ爺に目を向ける。
「なあ、親父。何かあっただろう?」
「ほっほっほ、流石は我が息子。よくわかったのぅ」
「親父が静かな時は、何かあるに決まっているんだ。で、何があった?」
「ほっほ。なに、おそらくジャックリザードのキングが出ただけじゃて」
「は⁉︎ キングが出たのか⁉︎」
ガロ爺の言葉にガタッと立ち上がるウーグラフにみんなの視線が集中する。俺もキングという言葉に引っかかり、ウーグラフに聞いてみた。
「なあ、ガロ爺はそんなに大事じゃない言い方してるが、キングって不味い状況なんじゃないか?」
「ああ……‼︎ 親父を基準にしたら駄目だ! キングは魔法鉱石を体内で育成し魔法を使ってダンジョンから出て来れるように変化している。十年前は街まで被害が及び、総がかりでやっと倒せた魔物だ!まさかもう誕生するとは……!」
項垂れるウーグラフに場は静まりかえるが、そんな中でもほっほっほと笑い声をあげるガロ爺。
「今回は大丈夫じゃて。タクトと儂がおる。明日片付けてくるわい」
「ウグッ!え、俺⁉︎」
ガロ爺に名指しされて吐き出しそうになる俺に、みんなの視線が集まるが俺はそんな自信ははっきり言ってない。
「ほっほっほ、タクトや。ここらで一つ100%を試してみるのもよかろうて」
「げ!あれか……⁉︎」
(確かにワイバーン戦以降、エアジップトレースを50以上にした事はないが、結構トラウマになっているんだよなぁ)
考えるだけで青ざめる俺に、そんな力があるとは思ってなかったウーグラフ。驚くのは一瞬で、すぐに頭を下げてきたんだ。
「タクト……!頼りっぱなしですまないが、どうか助けてくれないだろうか⁉︎ 親父の力を跳ね返すだけの力を持つキングだ。おそらく前回よりも強い奴だろう……!」
ウーグラフの苦しそうな声がダイニングルームに響く中、リーフが俺の腕をポスポス叩き俺に呼びかける。
「グ!ググウグーウ!グーグー!」
「タクト。リーフが一緒に行くから大丈夫って行ってるぞ?勿論俺も一緒に行くからな」
胸を張って前足でポンポン自分の胸元を叩くリーフに、置いて行くなよ?と通訳をするエラン。
「ほっほっほ、タクトや。リーフとエランは行くそうじゃよ?」
俺の答えはわかっているだろうに、わざわざ確認するガロ爺。
「わかってるよ!ったく、せっかくガロ爺を尊敬しかけてたのに、ここで壊すなよなぁ」
「わしゃ、尊敬なんぞいらんもん」
「ま、ガロ爺らしいっちゃらしいか……!」
雰囲気を柔らかくしたガロ爺やリーフやエランに感謝しつつ、俺もまた覚悟を決める。
「わかった、もう一回行って来るよ。どうなるかわかんねえけどさ」
俺の言葉に「グーウ♪」「ヨシ!」と言ってハイタッチするリーフとエラン。
ガロ爺は「ほっほっほ。そんな気負わんでもええじゃろ」と呑気にワインを飲み始める。
ジュードはそんなガロ爺に「ガロ様、その辺で終わりですぞ」と相変わらずガロ爺の世話を焼き、未だ俺達に施政者として頭を下げるウーグラフ。
その場の雰囲気は明るくなり明日へと英気を養う為、食事後すぐに客室へと案内された俺達。
今日はこのままメイドさん達が準備してくれた部屋で休み、朝一でまた出かける予定で就寝したんだ。
……だけど相手はどうやら待ってくれなかったらしい。
ガンガンガンガンガンガン……!!!!
真夜中に響く見張り台からの警告の鐘。
「みんな!地下へ避難しろ!」
「寝ている奴は起こせ‼︎」
「近所同士声をかけろ!」
「ウーグラフ様の屋敷に向かえ!」
静かだった街が喧騒に包まれる中、ドオオオン!と門に何かがぶつかった音が響く。
グガアアアアアアアア!!!
薄暗い闇の中、警戒体制を取りつつ見張りの者が目にしたのは……
門の外で雄叫びを上げたキングジャックリザード率いるジャックリザードの群れだった。
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