第22話 『震える鉱山』

  ゆっくり家の内部を見たかったけどなぁ……


 今更ながらそう思う俺が運転する魔導乗用カートには、俺の他に防具を着込んだリーフとエラン、そして……


 「ガロ爺?こっちでいいんだろ?」


 「そうじゃ。タクト見えるかの?正面のあの三角の赤茶色の山じゃが」


 「お?おお、見えた!」


 「あそこの麓まで行くと、鉱石が手に入るんじゃ」


 「ん?なんだ採掘に行くんだったのか」


 「ほっほっほ、採掘とはちょっと違うのぅ」


 「ん?まあよくわかんねえけど、行きゃわかるんだろ?」


 「そうじゃのぅ。ま、楽しみにしておくんじゃ」


 そう言うガロ爺は、普段と全く変わらない服装のままだから、余計に何するのかがわからん。


 けど、ガロ爺の力は凄いって事はすぐわかった。





 「ググーグ!グウ!」


 「後方に5匹!アンバージャッカル!」


 俺の膝の上で《サーチコンパス》を使い周囲を警戒するリーフに、俺にわかるように通訳をするエラン。


 「ほっほっほ。エラン、回収は頼むの」


 俺が対応する前に、手を液体魔法銀化させたガロ爺。姿を現したアンバージャッカル五匹に向かって手を伸ばすと……


 「「「「「ギャウウッッッ‼︎」」」」」


 瞬時に指がアンバージャッカルの魔石を貫き、一撃で倒してしまった。


 「ほっほっほ、魔石がある生き物は楽じゃわい」


 そんな呑気なガロ爺だが、戦闘の様子を見ていたエランの解説によると……


 「ガロ様が狙いをつけると、糸のように細くなった鋼鉄化された指が、的確に標的の魔石の位置へ向かって行くんだ。それは一瞬で魔石に到達し、魔石を粉砕している」


 だそうだ。


 エランは魔物を収納した時、その魔物の内部の状態までわかるらしい。だからこそ、魔物を最小限の攻撃で仕留めたガロ爺を尊敬の眼差しでみている。


 エランの手放しの褒め言葉に「魔石は駄目にするがのぅ」とちょっと照れているガロ爺。


 移動中は運転に集中したい俺としては、不安定な後方を委ねられる存在にかなり助かっている。

 

 「グーググウ♪」


 「いやいや、それほどでもあるわい」


 俺の肩から顔を出して前足でサムズアップしているリーフからも褒められて、満更でもない様子を隠そうとしないガロ爺に笑いながらも、着いた先はーーー


 「これ、廃坑か?」


 入り口から見ても、もはや長年人の手は入っていない様子の洞窟。放置された機材は錆だらけ、照明も点滅しているのが良い方で、ほとんど機能していない。


 「ほっほっほ、そう見えるじゃろ?だが此処はの、『生きた鉱石』が手に入る場所じゃ。別名『震える鉱山』と言ってのぅ。ま、平たくいえば鉱石しか出ないダンジョンじゃの」


 「は? ダンジョン⁉︎ なんで、んな危険なとこに連れて来てんだよ‼︎ ……って、もしかして……!」


 「そうじゃよ、タクトのレベルアップの為じゃて。大丈夫じゃ、此処は儂の庭のようなものじゃから、安心してレベルアップに専念出来るぞい」


 ほっほっほと呑気なガロ爺に、しゃがみ込み頭を抱える俺。


 (マジか……!レベル10まで上げろって事だよな……⁉︎こちとらようやく魔物を見るのが慣れて来たばかりだってーのに……!)


 そんな後ろ向きな俺の前では、リーフはサーチコンパスが洞窟でも使えるか入り口まで行って確認する姿や、その横でエランが望遠鏡で中の様子を窺っている姿が見える。


 「グーググウ!」


 「成る程……洞窟内も行き先を磁針が教えてくれるとは、なんて便利な!」


 「グ。グウグー?」


 「磁針が紫?ああ、紫の鉱石の魔物がいるのか。紫の鉱石といえばボスンジャク石……か」


 「グーググウグーグ♪」


 「万物様の栄養になるのか!是非ともお土産に沢山持って行こう!」


 (ああ……あっちはもうやる気かぁ……(遠い目)。……仕方ねえ!ウダウダ言ってないでやってみるしかない!)


 「うっし!じゃ、行くか!ガロ爺、魔導乗用カートで移動でもいいんだろ?」


 気合いを入れて膝を叩き、立ち上がるまで俺を待っていてくれたガロ爺に、念の為移動の手段を確認する。


 「そうじゃの。むしろその方が移動が早くていいわい。初心者は疲れやすいからのぅ」


 「よっしゃ!じゃ、ガロ爺を信じてっからな」


 「ほっほっほ、大丈夫じゃて。但し、レベルアップが目的じゃから援護だけだがのぅ」


 「十分だ!リーフ、エラン出発するぞ!乗れ!」


 「グーグ♪」


 「ああ!」


 


 そう言って意気揚々とダンジョンに乗り込んだのはいいんだが……



 

 「グーググウ‼︎」


 「タクト![紫]のジャックリザードが前方から三体!」


 「ああ![紫]はこれか!【エアジップトレース(40%)】‼︎」


 青光のする広い洞窟の中、奥に進んだ途端に次々と現れるジャックリザードの群れ。


 【エアジップトレース】の40%でようやく倒せる硬い奴らが終わったと思えば、すぐまた別の色のジャックリザード達が現れる。


 因みに、今俺らが戦っているジャックリザードの詳細はコレ。


 『名称: ジャックリザード[紫] Cランク

  ルーメリア鉱山(ダンジョン)の主な魔物、体長2mのトカゲ。雑食。主にボスンジャク石等(魔法鉱石の原料)の鉱石を主食とする。他に[水色/緑/青]のジャックリザードが生息。[紫]は頑丈、[水色]は滑りのある鱗、[緑]は苔が生えた鱗に覆われ、[青]は俊敏という特徴がある。稀に様々な鉱石を食べて魔法で攻撃する成体もいるので注意。素材は全て鉱石に変化する』

 

 とりあえず一撃で倒せるよう頭を狙っているが、エアジップトレースは一発200MPの為、MPの減りも早い。


 (帰りの事もある……!残りMPが3分の2を切ったら戻ろう……!)


 リーフとエランの指示の下奮闘する俺の後ろで、「ふむ……?」と考えながらもサポートに徹してくれるガロ爺。


 特に、素早い[青]の時はガロ爺が足を拘束して時間稼ぎをしてくれるからありがたい。


 そんなベテランのガロ爺でさえ、魔物出現数に違和感を覚える今回の探索。


 「タクトや。こりゃ、一旦立て直した方が良さそうじゃ」


 奮闘する俺の後ろからヒョイっと地面に飛び降りたガロ爺が、スッと全身を魔法銀化させたと思うと……


 「【制限解除】じゃ」


 そう唱えた途端、魔導乗用カートごとガロ爺だった魔法銀がすっぽり覆い、瞬く間に出口へと俺達を連れ出してくれたんだ。


 外に戻るとすぐに魔法銀化を解いたガロ爺。


 「うーむ……こりゃ、ちと不味い状況じゃの」


 そう言いつつも「ヨッコラセ」と後部座席に乗り直すガロ爺に、なにが起こったのかわからず、唖然としていた俺達。


 その空気の中、一人興奮したエランがガロ爺に確認する。


 「ガロ様!今のが、かの有名なガロ様の制限解除したお姿だったのですね!」


 「ん?エランは知っとったか。まだ半分も力は出しとらんがの。とりあえず後続は全部倒して、ドロップした鉱石も拾っておるがのぅ」


 そう言って魔法銀化した手の平から四種類の鉱石を出すガロ爺の体の中には、大量の鉱石が入っているという。


 「まあ、戻るまで儂の身体の中に入れておいて、万物の樹に戻った時に出せばよかろう」


 「なんて素晴らしい!銀ボックスの噂も本当だったのですね!」


 「ほっほっほ、噂になっとったか。エランはそんな昔の事よく知ってるのぅ。それより、タクトや。急ぎ戻ってウーグラフに伝えたいことが出来たんじゃ。今日のところは一旦戻って良いかの?」


 「あ、ああ。わかった」


 ともかく、急ぎ門のあるフォレストドワーフの街まで戻る事にした俺達。


 帰りの道中、俺はガロ爺に色々聞いてみたんだ。


 「……しっかし、ガロ爺って凄えんだなぁ」


 「ほっほっほ。ただの普通の爺さんじゃて」


 「普通の爺さんは身体が魔法銀化なんかしねえっての。そんな事より、最後どうやって俺達を連れ出したんだ?俺達の周りをすっぽり爺さんが覆うから何やってたかわかんねえんだけど」


 「グーググウ」


 俺と一緒に不思議がっていたリーフも興味深そうな声をあげる中、エランがまたもやガロ爺に確認する。


 「ガロ様、私も答え合わせをしたいのですが……全てが溶解する温度まで魔法銀化されたのでしょうか?」


 「ほっほっほ。エラン、ほぼ正解じゃ」


 どうやらガロ爺の説明によると、【制限解除】を唱えると魔法銀を無限に排出出来るようになり、その際、魔法銀の外側のみを銀の溶解温度まで引き上げ洞窟いっぱいに流し込んでいたという。


 それに触れた大半のジャックリザードは、即座に鉱石にドロップしたが奥に進むに連れて、とある場所で弾かれたらしい。


 不思議に思いつつも俺達の安全を優先させたガロ爺は、その場所からは鉱石を取り込みつつ戻ってきたそうだ。


 「分解された鉱石を再構築するのは簡単じゃし、むしろそれをやる事で魔法鉱石に出来たりするんじゃよ」


 ほっほっほと鉱石を見せながら笑うガロ爺を、尊敬の眼差しで見るエランと、「グウウ?」と前足を組んで首を傾げるリーフ。


 (リーフよ……気持ちわかるぞ……!)


 まあ、考えても仕方のない事は色々あるが、また一つこの世界で不思議な存在を見つけた気がする俺。


 そんな俺のエア・ポートスキルのステータスは、現在レベル9になっていた。

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