第21話 万様の答え
クーパーとピオールに俺が声をかけた時、既に異変を目にしていた俺達。
「な、なんだ⁉︎ 万物の木の根が変形していくぞ!」
「なんすか、あの形⁉︎ しかも木の根元が変化して行ってるっすよ⁉︎」
二人が驚愕しながら叫んでいるのを横目で見ていた俺は、この木の根の動きは覚えがあった。
(万様、また変形させてる……!リーフ、中でこけてなきゃいいけど……)
そう、最初に秘密基地が出来た時と同じ動きをしていた万様の根。根が落ち着いた頃には、やっぱり建物の外観が変わっていたんだ。
「……すっげえっすわ!一瞬で豪邸に変わるなんて⁉︎」
「万物の樹の名に相応しい……!」
クーパーやピオールが感激しているように、秘密基地の木の温もり溢れる建物から、バロック様式の大きな洋館へと変化した万様の根本。
更に、クーパーが何かに気づいたらしい。
「……アレは……‼︎」
クーパーが指差す先には、万様を覆う程大きな光のドームが出現していたんだ。
「さっきまであんなん無かったけど……?」
疑問に思って俺が首を傾げる横では、クーパーとピオールが顔を見合わせて頷いている。
(二人は何かわかっているのか……?)
何か確信を持ったクーパーを手の平に乗せて、光のドームの前まで歩いて来たピオール。
「同時に行くっすよ」
「ああ」
二人は互いに光のドームに触れる位置まで来ると、同時に手を伸ばし光のドームに触れる。
すると、一瞬ドームが虹色に光出し、いつのまにか二人の手には雫の形をした虹色の鉱石が握られていたらしい。
恐る恐る手の中に鉱石がある事を確認した二人。
「やったぞおおおお!」
「認められたっすよおお!」
右手を空に向かって突き出し叫ぶピオールに、ぴょんぴょん飛び跳ねながら踊り出すクーパー。
(俺には何が何やら……?)
喜ぶ二人に水を刺すのも悪いが、どうにも気になって聞いてみたところ……
「まさか目の前で[光のゲート]が作られるとは!」
「しかも、[フィトンチッドの雫]が自分の手にあるんすよ!」
(うん……二人共興奮して、説明になってねえ)
とりあえず落ち着くのを待って聞いてみると、こういう事らしい。
《万物の樹》から恩恵を更に受けられる証の[フィトンチッドの雫]は、[光のゲート]を触った時、万物の樹に認められた者しか与えられないという。
そもそも[光のゲート]は、この世界にあった《万物の樹》も人が増え出した時に出現させた、防衛と選別を兼ねた光のドーム。
そして[フィトンチッドの雫]は《万物の樹》に認められた者しか持てない通行許可証。しかもこれを所持する者には、回復力増進/悪意を跳ね除ける力も付与されるもの。
「だから正直、さっきはなんで[光のゲート]がないのか不思議だったっすよ」
「ああ、伝承と違ったからなぁ。ただ、万物の樹は本物だって事だけは最初から確信持っていたがな」
あ、それでしばらく立ちつくしていたのか、とちょっと納得した俺。
まあ、ついでに言えば……
ウーグラフ様とジュードの時は俺に対する不敬の方が気がかりで忘れていたのと、エラン達の時は人が少ないからまだ必要ないのか、と納得していた事を後から聞いた。
そうそう、守り人の俺は当然の如く何の変化も無くスッと通り抜けられたんだけど、その時から胸元のコンパスガイドに[フィトンチッドの雫]が浮き出て来たんだ。
(お、出た出た)
やっぱりみんなが持ってる通行許可証を俺だけが持っていないっていうと格好がつかないと思っていた俺は、ちょっとホッとしたんだよなぁ。
嬉しそうに通り抜ける二人を伴って、早速改装したばかりの洋館へと歩き出すと……
「グウグー」
玄関扉から、リーフが運転する御自慢のマイカーが出て来たんだ。
「おお!かっこいいっす!」
「グウグ♪グーググウ?」
「お、いいっすか?じゃ、早速」
どうやらクーパーを迎えに来たらしいリーフ。ちゃっかりキースとレナも後ろに乗っている。
「送迎車とは豪勢じゃねえか、クーパー」
そう言いながらリーフを撫でるピオール。リーフも目を細めて「グウウ♪」と嬉しそうな声を出している。
「なかすっごいよ!」
「タクト!リーフが案内するって言ってる!」
興奮気味のレナと通訳のキースの胸元にも[フィトンチッドの雫]がちゃんとあり、リーフに至っては毛で埋もれていて気が付かなかった。
キース達に聞くと、[光のゲート]が出た瞬間に中にいた全員の手の中にあったそうだ。もちろん[フィトンチッドの雫]は各種族ごとの大きさで現れている。
ペンダントにしたのはマリー。すぐに全員分加工したらしい。流石は女性ミニコロボックル。
「グーグ‼︎ グーググー!」
「「うん!しゅっぱーつ!」」
「おお!動いたっす!」
立ち止まっていたら待ちきれ無かったリーフが、さっさと車を走らせてしまった為、その後をゆっくり歩いてついて行く俺とピオール。
リーフの後に続いて入っていくと……
白いタイルに吹き抜けのある広いエントランスが俺達を迎える。天井を見ると、そこには豪華なシャンデリアが設置されている。
(万様、張り切ったなぁ)
ほお、と感心して口を開けていると、リーフが前足でエントランスの両脇の扉を指差し、何かを説明している。
「グーググーグウグ、グーグググー」
「ひだりはおトイレとおっきなおふろだって」
「右は応接室と多目的室だよ!」
「へえ!中見たいっすね!」
リーフが本当にそう言っているのかわからんが、よく短いセンテンスでそれだけ伝えれるもんだ、と変な感心をしていたらまた「グウグ!」と言って階段に向かって行くリーフ。
(ゆっくりは見せてくれないのね……)
横を見るとピオールもそう思ったらしく、二人顔をあわせて苦笑しながらついていくと、目の前にはスロープ付きの大階段。
真ん中に踊り場があって左右に直階段がある階段だ。
そこを「グーグ♪グーグ♪」とご機嫌にあがって行くリーフの後をついて行くと、2階には扉が沢山あったんだ。
「グーググーググウググーググウウウウグ♪」
「ここはーおしょくじところとかりょーりするとこだって」
「後は、ピオールおじさんの家族の部屋もあるって」
「⁉︎もしかして既にシーラさんやロウとミイの許可も取れているっすか?」
「グーググウ♪」
「ピオール!家族でここに来れるっすよ!」
「なんと!万物様の寛大な心に感謝を……‼︎」
突然の嬉しい報告に、感動の余り移動中に膝をついて祈りだすピオール。
気持ちはわからないでもないが、リーフがさっさと先に行くのでなんとか立たせて追いかけると、1番奥の大きな扉が開いている部屋に入っていったリーフ達。
「ほっほっほ、来たかの」
「お先頂いているぞ」
「ピオールとクーパーもやはり来れたか」
中ではゆったりとしたソファーでお茶をしているガロ爺やウーグラフ様、お茶を淹れているジュードの姿があった。
「ああ!ジュード様、そんな事はこの俺が!」
「良い良い、ピオール。いつもの事だからの。それより皆座ってお茶にしようではないか」
俺をみても普通に接するジュードとウーグラフ様に、万様が何か言ってくれたのか、と感謝しつつ席に着く。リーフはちゃっかり俺の膝の上に座ってきた。
席について改めて部屋を見渡すと、このリビングルームはサンルームのように大きなガラス張りの部屋になっていて、万様と一緒にお茶をするような雰囲気だったんだ。
(こりゃ、いいね。万様が近い)
そう思っているのは俺だけじゃないようで、ピオールもクーパーも外の万様に釘つけだった。
テーブルの上にもミニコロボックルサイズのテーブルとソファーがあり、そこにキースやレナも腰掛けている。
マリーやエランも既に座って待っていて、クーパーもその横に座り、レインはというと気に入ったのかガロ爺の肩の上に止まっている。
ピオールも俺の横に座り、全員にお茶が行き渡るとウーグラフ様が話し始めたんだ。
「さて、ここにいる全員が幸運にも[フィトンチッドの雫]を持ち、万物様に認められた。だからこそ情報は共有しておきたいが、その前にタクト」
「ん?いや、失礼。はい?」
「いや、タクトは守り人だ。私に対しても敬語を使う必要はない。むしろ我らが使いたいぐらいだが、万物様にも普通に接するように言われたからな。この態度に慣れて欲しい」
「いや、こっちはそれで助かるよ。じゃ、俺もウーグラフと呼ばせてもらうな」
「ああ、それでいい。そして今後の方針として聞いておこう。タクト達はこの世界の《万物の樹》の場所へと向かっていると聞いた。そこでどうだろう?我らフォレストドワーフの街も全面協力をしていきたいと思うが、タクトはどうだ?」
「………協力は有り難い。でも、守り人とバレる度に態度を変えられるのは結構キツイな。それに、余り大勢人に万様の存在を知らせるのは、今はまだ早いと考えているんだ」
「ふむ……同じ考えのようで安心した。ここにいる我らもその考えに同意している。だから、今は本当に信頼できる人物のみに知らせる事にするつもりだ。その上でタクト、此処へ繋がる門を我が屋敷に設置する事を依頼したい」
「それは……無理じゃねえかな。そうすると、移動距離が制限されるからなぁ」
頭を掻きながら断る俺に、意外そうな顔をするウーグラフ様。
「ふむ?万物様はタクトなら出来ると言っていたが、違うのか?」
(ん?万様が出来るって言った?)
正直現状は、【ギア・メインポート】の門だけだと考えていた俺。
どう考えても難しいだろ、と思っていた俺の膝で、リーフは何かに気づいたらしく、ウーグラフ様の前にトコトコ歩いていった。
「グウウ?グーググウグ?」
「まあ、あるにはあるが……そんなところへ行ってどうする?」
「グ!グーググウグ、グウウグー!」
「ふむ、タクトの為……か。
リーフに何か言われて悩み出すウーグラフ様。ミニコロボックルのみんなはクーパーに「それって何処?」と聞いている。
どうやらリーフの言葉をわかるのは、エルダードワーフとミニコロボックルだけらしい。
フォレストドワーフのジュードやピオールも不思議そうにしているからな。
そんな中悩み始めたウーグラフ様の様子を見たガロ爺が、呑気な声で話し始めた。
「ほっほっほ。何を悩んでいるんじゃ、ウーグラフ? 儂が一緒に行けば解決じゃろう?」
「……そういえば今は親父が居るんだったな。……よし!それで行くか」
「ほっほっほ、タクトや。早速行くぞい」
そう言うとすぐに動き出したガロ爺に、俺のズボンを引っ張るリーフ。
その様子を見てエランはレインに頼み、レインタクシーで部屋から飛んで出て行く。
「頑張れー!タクト!」
「行ってらっしゃい」
「きをつけてねー!」
「無事を祈っているっす」
ミニコロボックル達からは何やら不穏な事を言われ、ウーグラフ様はジュードとピオールに説明を始めていた。
「え?本当、何処行くんだよ?」
「グーグググー♪」
俺といえば、疑問に思いながらもご機嫌なリーフに引っ張られるまま部屋を後にしたんだ。
この時は、行き先がまさかあんなとこだとは思っても見なかったんだよなぁ……ったく!
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