第20話 クーパーとピオール
「おお……!これが『万物の樹』本体様……!」
「なんと言う荘厳さ……!伝承通りだ……!」
現在、万様通路にて平伏中のウーグラフ様とジュードの二人。感激の余り涙まで流している。
万様はいつも通り、サワサワと風に揺られ穏やかな陽の光を俺達にそそいでいる。
(こりゃ時間がかかりそうだな……)
そう思った俺達は、屋敷に一度戻って遅れて来るであろうクーパーとピオールさんに会うように、ガロ爺に送りだされた。
「ああなったら、長いからのぅ。エルダードワーフもフォレストドワーフも『守れなかった』事を悔やんでおるからの……まあ、儂がおるし、今度は上手くやっておくわい。安心せい」
ガロ爺曰く、ドワーフ達の忠義は厚く、ずっと《万物の樹》が戻って来る事を願い続けていたそうだ。
その思いは今も街全体に浸透しており、子供達も生まれた時から聞かされて育つらしい。
そして万物の樹には、守り人がいる事も正確に伝わっている数少ない種族だそうだ。
(守り人がいる事を知っている……?という事は、二千年前にも守り人がいたって事か……⁉︎)
その事をレインを肩に乗せているガロ爺に聞いたら「すまんのぅ。それは万物の樹から直接聞いておくれ」と珍しく申し訳なさそうに謝られた。
一応万様に触ってみるも映像は現れない。
リーフまで俺のズボンを掴みフルフル首を振っている為、今はまだ話せないものと理解した。
(話す事が出来る時期ってあるもんなぁ)
少し残念に思いながらも、今度はリーフとエラン達家族伴って応接室に戻ってきた俺。
「な、何と!本物のリードミアキャット⁉︎っでは貴方様が守り人様⁉︎」
応接室で待機していたフォーが、やはりリーフを見て俺を守り人と認識したんだよ。
その後の展開はウーグラフ様達と一緒。とにかく普通に接してくれと願い倒し、何とか頷いてくれたけど恭しさが半端ない。
それでも、この屋敷で働くドワーフ達には伝達が行ったらしく、皆通常通り接してくれる事になったけど……
(身バレしたらしたで大変だ……!)
街に繰り出すのを楽しみにしていただけにどうすっかなぁ、と考え出す俺。
美味しそうに出されたお菓子を頬張るリーフを見て、思わずリーフの頬を指で突つく。
「グッ!グーゥウ⁉︎」
「お前は気楽で良いなぁって事だよ」
モグモグしながら俺を見上げるリーフの頭を撫でる俺。リーフ自身は、頭に疑問符を浮かべたように首を傾げている。
そのリーフの横では、家族会議中のエラン達。
「まあ!クーパーが見つかったの⁉︎」
「誰の事?」
「クーパーさんって?」
涙声で驚くマリーとは違い、キースとレナは初耳だそうだ。
「お前達が生まれる前だからなぁ。クーパーはマリーの弟で私達の恩人だ。私とマリーとクーパーで旅をしていた時、魔物に襲われた私達の盾になって逃してくれて以来、音沙汰がなかったんだ。正直、名前を聞いて驚いたよ」
「ああっ……!もう、クーパーったら!すぐに合流するようにあれだけ言ったのに……!」
説明するエランの腕の中で、涙を流しながらも嬉しそうなマリー。
(……エラン達の事も、そういえば深くは聞いた事なかったからなぁ。今度じっくり聞いてみるか)
そう考えてお茶を飲みながら待っていると、コンコンとノックの音が聞こえる。
『タクト様、ピオールとクーパーが到着しました』
フォーの声が聞こえて部屋に入る許可を与えると、フォーと共に入って来たのは、緊張した表情のコック服姿の筋肉質のドワーフとそのドワーフの肩に悠然と座っているコック姿のミニコロボックルの青年。
「こ、この度は!守り人様にお会いできるとは思わず、こんな格好で大変失礼致しました!街の食堂で料理長をしているピオールと申します‼︎以後、よろしくお願い申し上げます‼︎」
俺と目が合った瞬間、頭を90度下げて大声で自己紹介をするピオールの声量に驚いていると、トコトコと俺の目の前に現れたミニコロボックルの青年。
「あー……すんまっせん、守り人様?ピオールの奴緊張してああなってますけど、ちゃんとフォーさんから聞いてるっすから。普通に話して良いんすよね?俺、クーパーって言うっす。これから宜しく頼んます」
「普通の態度は助かるけど……え?もう一緒に来てくれるのか?」
「当然っす。と言うか……」
「守り人様‼︎どうか、どうかこのピオールもお連れ頂けないでしょうか⁉︎料理は勿論、戦闘も鍛えております!我が伴侶は掃除が得意ですし、子供達は癒しとなります!どうか長年の我が思いを叶えて頂けないでしょうか⁉︎」
「って言うピオール家に救って貰った身っすから、ピオール家と一緒ならって事になるっすけど。どうっすかね?」
今度は膝をつき最敬礼の格好で俺に願うピオールとのんびり口調の糸目のクーパー。
この展開は予想していなかった俺が戸惑っていると、走り出してクーパーに抱きついたマリー。
「っクーパー!クーパー!無事で、無事で良かった……‼︎」
クーパーをぎゅっと抱きしめて泣きながら無事を確認するマリーに、クーパーも苦笑しながら答える。
「姉さんも元気そうで良かったっす……!エラン、姉さんを守ってくれてありがとうっす」
「こっちが礼を言わなきゃいけない立場だぞ、クーパー!お前こそ無事で良かった……‼︎」
マリーに続いて近づいて行ったエランがマリーごとクーパーを抱きしめている。
「クーパー叔父さん?」
「おじさんなの?」
キースもレナと手を繋いでクーパーに近づくと、垂れた糸目を更に垂れさせて笑顔になるクーパー。
「そうっすか……もう、それくらい時間が経ったんすね。心配かけて悪かったっす……!」
「っ!いいの!無事ならそれで……!」
「ああ、また会えただけでも十分だ!」
キースとレナも巻き込んで抱きしめあう感動の再会シーンが俺の目の前で繰り広げられる中、俺と言えば……
(うーん……この調子で守り人って明かしていくと、第二第三のピオールが出てきそうだよなぁ。かといって、断るには惜しい人材。どうすっかなぁ……)
正直言って困っていた。
とりあえず、ピオールをそのままにさせておくのも申し訳ないし、ウーグラフ様達の様子も気になる俺は、一旦ピオールとクーパーも万様の元に連れていく事にしたんだ。
「ピオール、とにかく顔を上げてくれないか?それで一緒に万様に顔合わせに行こう」
「……ばんさまとは……?」
「ああ、万物の樹のことだよ。俺は万様って呼んでいるんだ」
「なんと!万物の樹に直接お会いできるとは!身に余る特権を既に授けて下さるのですか⁉︎嗚呼!なんて素晴らしい日だ!」
今度は拝み出したピオールに頭を抱えていると、いつの間にかエラン達の輪から離れてピオールの肩にいたクーパー。
「おいコラ、この馬鹿」
冷静にバシバシとピオールの頬を叩くクーパーに、ハッと気づいたピオールが食ってかかる。
「なあにぃ!守り人様の前で馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」
「馬鹿っすわ。普通にして欲しいって言ってる守り人様を困らせてるってのに……いい加減、普段の物言いに直したほうがいいっすよ」
「し、しかし……!」
「しかしも何もあったもんじゃねえっすよ?守り人様からの願いだって言ってるっす」
「っ‼︎ そうか! そうだな! 失礼した、守り人様!」
「お、そっちのほうが助かる。……あんな堅っ苦しい態度苦手でなぁ。俺のことはタクトって呼び捨てでいいからさ。そのままで頼むよ」
「ああ、わかった。タクト」
「じゃ、俺っちもタクトって呼ばせて貰うっすね」
「俺もピオールとクーパーって呼ばせて貰うよ」
こんな感じであの面倒な態度から変わってくれたピオール。改めて、リーフやエラン達にも紹介して、クーパーとピオールに滞在許可を出すとーーー
「これが本体様っすか……⁉︎」
「本物の万物の樹……‼︎」
門を潜った瞬間はどうしても皆同じ反応をする為、先にリーフとレインにエラン達を連れて行って貰い、ガロ爺達の様子を見に行かせたんだ。
感動の余り放心状態に陥ったクーパーとピオールが正気に戻るまで、俺は万様の根本に腰をかけて待っていると……
(ん?みんなリビングに集まっている?)
万様から映像が送られてきて、その映像の中でみんなが何かに驚いていたんだ。
気になった俺がピオールとクーパーに声をかけて、秘密基地へと案内した先で待っていたのは……
万様からの答えだったんだよなぁ。
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