第48話 竜人の迎え方 3

 「いや〜あれだけいい反応があると、見応えがあります♪」


 ラスタがスクリーンを見ながらホクホクしている。それもそのはず、竜人達のリアクションが大きいからだ。


 「今のところ、[フィトンチッドの雫]保持者は2名ですか……」


 チェックがジッと確認する映像の中では、フィトンチッドの雫を手にしたバル団長とラヴィ副団長が兵士達に囲まれている。


 そう、今[フィトンチッドの雫]認証検査機前はちょっとした騒ぎになっている。


 『くっそー!やっぱり駄目かぁ!』


 『わかる、わかる!俺だってそうだったんだから』


 『だけど、つい期待してしまったからなぁ』


 『ああ、連続で[フィトンチッドの雫]を目にすりゃ、誰でもそうなるわ』


 『団長、副団長すげえなぁ……!』


 [フィトンチッドの雫]認証検査機の前で兵士達が悔しがる声が上がる中、既に検査済みの兵士達が輪になって見守っていた。


 認証は一瞬で終わる為、後は残り数人ってところだろうか。


 一人また一人と試して行き、最後の一人になった時に『『『おおおおお!!』』』と叫び声が上がる。


 すかさず祝いの言葉を贈るラスタ。


 「おめでとうございますー!新たな[フィトンチッドの雫]所有者が誕生しました!そして、これで全員が試し終わりましたね!ではリーフ様……って、ああ!」


 ラスタが悲鳴をあげた映像が映し出しているのは、積み上げられた果物と料理の数々を頬張るリーフ。


 「あ、ケイトさん!駄目ですって!こっちでも用意しているんですから!……え?ピオールだけズルい?あー、今回は譲ってくれたはずでしょう!……あーあー、リーフ様いっぱい頬張っちゃってまあ……」


 そう、待っている間暇を持て余したリーフは、ケイト食堂のケイトさんから色々差し入れをもらっていたらしい。


 ……リーフよ、お前は王様か?ってくらいアクア人に上げ膳据え膳をして貰っている。


 竜人達もリーフの様子にほっこりとしつつもその匂いに惹かれたらしい。よだれを袖で拭いている姿も見える。


 「ハイハイ、そこまで。ケイトさん片付けお願いしますねー。さ、リーフ様搭乗手続きですよー。宜しくお願いしますねー」


 『グ?』


 ラスタの声に出番だと気づいたアクア人達から口や手を拭かれているリーフ。


 『グーフー……ググウ!グーグーググウ♪』


 『お待たせいたしました。リーフ様の後に続いて、一人ずつチケットをお持ち下さい』


 パンパンッと両手を叩き満足したリーフは、そのままトコトコとチケットカウンターに歩いて行く。


 アクア人の通訳により、竜人達もチケットカウンターに列をなす。


 一応言っておくが、チケットカウンターにもフォレストドワーフのスタッフもいるが、リーフから手渡しされた方が嬉しいだろう、という配慮らしい。


 配置についたリーフから一人一人チケットを受け取り、その後アクア人の案内で二階の搭乗待合室に行って貰うと……


 『うおお!これ、すげえ!全部最新式だ!』


 『流石フォレストドワーフ……!魔導具に関しては我が街の性能を超えている……!』


 『なんだ?この四角い魔導具?現在1番人気って書いてるが?』


 『おい、この魔導カメラってすごいぞ!わざわざ記録せずとも派遣先の様子を見れるかもしれない!』


 全員が揃うのを待機している間、二階の大テナントのヴェルの魔導具工房が大賑わいだった。


 とにかく見習いも増え、素材も潤沢、それでいて俺の知識も渡している為、ヴェルは最近家に帰らず工房に篭りっきりで制作中。


 おかげでヴェル魔導具店の魔導具は品切れる事はない。


 ただ、心配したウーグラフの指示によって、メイド達に引きづられて屋敷に連れ帰る姿を従業員達はよく目撃しているらしい。


 ……まあ、俺もあったらいいな、とついヴェルに相談に行くのが悪いのかもしれないけどさ。


 現代人だった俺にとってみれば、やっぱりあれば楽なんだから仕方ないよなぁ。


 そうしているうちに搭乗開始のアナウンスが流れる。


 リーフは先導してウィケットカウンターに竜人達連れて通り、慣れたファーストクラス席にちょこんと座る。


 くわあ…と欠伸をして早速寝る体勢になっているリーフの後ろで、アクア人達や搭乗スタッフが竜人達を席に案内している。


 リーフと同じファーストクラス席には、バル団長とラヴィ副団長そして……


 『あの……自分ここにいていいのでしょうか……?』


 場違い感を感じているのか、遠慮気味にスタッフに聞く新人君。名前をイアン君と言うらしい。


 『イアン、構わない。お前も万物様に認められたんだ。もっと誇れ』


 『団長〜お。無理ですって!自分、まだ入ってニ年経ってないんですよぉ!』


 『イアンの評判は最初から良かったからな。お前、竜人にしては腰が低いし、多種族にも評判良かったし。』


 『確かに。期待の新人でしたからね。我々も嬉しいですね、団長』


 『ああ。まあ、イアン。覚悟を決めて今のうちに慣れておけ』


 『ううう……はいぃ……!』


 そんな感じで、なかなか微笑ましい映像がスクリーンには映し出されていた。


 関係者全員が乗り込み出発のアナウンスが流れる様子がスクリーンで映し出されると、よっこいせと言いながら席を立つガロ爺。


 「ほれ、タクト。我らも行くぞい」


 「ん?出迎えるのか?」


 「ここまで来れる奴らじゃからの。それにリーフが寂しがっておったじゃろう」


 「楽しんでいたようにしか見えなかったけどな……ハイヨ」


 そう言って俺が立つと、行ってらっしゃいと手を振るエランとクーパー。


 「あれ?エランとクーパーはいかねえの?」


 「俺っちは料理の下準備あるっすから」


 「俺はここで家族全員で迎えたいからな」


 どうやらクーパーは料理に、エランは歓迎準備にかかるそうで、エバーグリーンに残るらしい。


 そしてフォーもまた「歓迎会の最終確認をしておきます」と言いながらきっちりお茶セットを片付けていた。


 俺とガロ爺が「じゃ行って来る」と言い、ルーフバルコニーを出ようとすると……


 「あー!待って下さい!私達も行きますって〜」


 「ハイ、準備オッケー!」


 スクリーンを見てたはずのラスタとチェックが俺達の後を追いかけてきた。


 ラスタはインカム付魔導ヘッドホンを、チェックは最新式魔導カメラを持ってしっかり歓迎の様子も伝えるつもりらしい。


 「感動の場面を逃しちゃ報道局の名が廃ります!」


 「任せて下さい!ズーム機能でいい表情を逃しません!」


 そんな感じでやる気に燃える二人と話ながら、拠点を後にして空港へ向かう俺達四人。


 実は、拠点から空港へは歩いて10分程。


 目的地まで[フィトンチッドの雫]を持つ住人がいつも手入れしている、ドリームロードと言われる花や緑が咲き誇る道を通る。


 万様が悠然と後ろに構えるこの景色はまた圧巻なんだ。


 今ではラスタ達がここの景色を放送している為、[フィトンチッドの雫]を持った人は、万様に会う次にここを見るのを楽しみにしているらしい。


 その道をゆったり歩いて空港へ入ると……


 『ポーン……フォレスト→万物の樹行き到着まで後10分です』


 館内に入ると、わかりやすく魔導電光掲示板がお知らせをしてくれる。

 

 「お。まだ時間あるし、マリーの店に顔出すか」


 俺は一階にあるマリーの店を覗こうと思ったら、今日はシャッターが降りていた。


 すると、ガロ爺がすぐ理由を教えてくれる。


 「ほっほっほ、マリーもエバーグリーンに戻っておるよ」


 「あ、そっか。でもギフトショップクイニーは開いてるな……ってあんなもんあったっけ?」


 「あ、そうなんです!新しい万物の樹空港の新商品にして、すでにお土産売り上げ一位なんですよ!」


 「ラスタ。ちゃんと毎日の数に限りがあるって言わないと」


 「あ、そうだった!」


 隣の店のギフトショップクイニーを見ると、俺が知らない新商品が目に入る。


 「タクト様、今日の分は買い占めできますよ?どうします?」


 俺達の声が聞こえたのだろう。店の奥からフォレストドワーフのクイニーが出てきた。


 話を聞くと、今日は万物の樹空港も竜人訪問で貸切の為、今日の分の限定品をどうしようと思っていたらしい。


 流石は商売人。客は見逃さないなと感心しつつも、俺はそれを全て買い上げる事にしたんだ。


 ……それが思いもよらない効果があるとは知らずに。

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