第49話 竜人を歓迎しよう

 ポーン……

『フォレスト空港発→万物の樹空港着一便、只今到着いたしました』


 (お、来たな?)


 到着ロビーの席を立ちガロ爺やラスタ達が準備に入ると……


 「…………ゥ…ゥゥゥゥウウウウウ!!!」


 珍しく四つん這いで走ってくるリーフが俺に向かって突進してきた。


 「グウウっ!」

 

 ジャンプして俺の腕の中に飛び込んでくるのを、しっかり受け止めると、俺にスリスリしながら「グーグ♪」とご機嫌な様子でガッチリ俺の服を掴んでくる。


 「ははっ、リーフお疲れさん」


 俺がリーフの毛並みを撫でていると、ゾロゾロと竜人達が姿を現す。


 『はーい!皆さん、ようこそ万物の樹空港へ!私が司会のラスタでーす!で、相方のチェック。ここからは私達が案内しますよ!』


 ラスタがノリノリで飛び出し自己紹介をする中、竜人達の目は俺達の後ろの万様へと目がいっているようだ


 『皆さんが目にしている悠然と聳え立つ巨木こそが、本物の万物の樹ですよー!私達は万物様や万様って呼んでいます』


 そう、到着ロビーからも万様の姿が見えるようになっているんだ。ここは吹き抜けになっていて、一面ガラス張りに変わったからな。


 そして、大概ここに来た最初の人達がなるように、竜人達も圧倒されて沈黙している。


 あちこちで感動の涙や、歓喜の叫びが上がる頃までにはかなりの時間を要したけどさ。


 その間チェックは忙しく竜人達の表情を撮るため動き回っていたのが、俺は地味に面白かった。


 そして、切りの良いところを感じ取ったラスタが、その場の雰囲気を切り替えるため声を上げる。


 『さあ!十分堪能しましたね!さあ、此処からは[フィトンチッドの雫]を持つ3人とは別行動になりますよー!団長さん、この後兵士の皆さんは、このラスタに任せて貰えますか?』


 「あ、ああ。構わない。この後はキャンプ地設営の予定だけだからな」


 『まーた、何を仰っているんです?我々の空港を見くびっちゃいけませんよぉ!兵士の皆さん!美味しいお酒は飲みたくないか⁉︎』


 ラスタにいきなり振られてザワザワし出す兵士達。中にはノリのいい竜人ももちろんいて「飲みたい!」「飲ませてくれ!」とチラホラ声が上がる。


 『元気がないぞー!もう一度聞こう!美味しいお酒に、美味しい料理!疲れをほぐす温泉に入った後は、フカフカの布団で眠りたくはないのかぁぁ!』


 期待を煽るラスタの声に、うおおおおおおおおと耳を塞ぐ程の歓喜の声を上げる竜人達。


 『ならば案内しようじゃないか!行こう!万物の宿へ!』


 更に声を上げる竜人達を引き連れて、ラスタとチェックが先導して二階に上がっていく中、アクア人が[フィトンチッドの雫]を持つ3人を上手く分離させて俺達の側に連れてきてくれた。


 異様な盛り上がりを見せる団体が過ぎ去り、残った3人は俺とガロ爺を見て不思議そうにしている。


 その様子を見たブレスが、3人に俺とガロ爺を紹介し始める。


 「お三方は初めてお会いする事でしょう。こちらがかの有名な魔法銀のガロ様、そして万物の樹本体の守り人のタクト様です」


 俺達の紹介が済むと驚愕の表情を一変させて、スッと跪くバル団長とラドゥ副団長。二人に遅れて慌てて跪く兵士のイアン。


 「気付くのが遅れて大変失礼致しました!まさか……かの有名なガロ様と守り人様とは知らず、不敬な態度をとってしまい申し訳ございません!この不始末は、私バルの身一つで………!」

 

 「だー!待った、待った!そういうのが苦手で、あえてラスタに他のみんな連れて行って貰ったんだって!」


 「ほっほっほ、そうじゃの。儂らはただのジジイと若者じゃて。気にしないでほしいの」


 「グウウ♪」


 またいつもの一連の流れで、不敬だの何だのって話になるところを割って入る俺と、更に緊張感を取る言葉を言うガロ爺とついでにリーフ。


 「しかし……!」と頑なな姿勢を崩さない3人を何とか説得をして、ようやく立ち上がらせる。


 「タクト様もガロ様もリーフ様も困らせるよりは、喜んで貰える行動を取るのが従者ではありませんか?」


 3人共アクア人ブレスの言葉が1番効いたのか、以降はその件に触れずにいてくれたものの……


 「なあ、気軽に接してくれないか?」


 「とんでもございません。こればかりはご容赦下さい」


 団長が率先して俺達を敬うもんだから、副団長のラドゥも堅い感じで兵士のイアンに至ってはカチコチだ。


 ガロ爺と顔を見合わせて仕方ないと諦めると、今後の予定を伝える俺。


 「えーとそうすると、3人は万様がいるエバーグリーンで休んで貰う予定なんだ。で、万様が会話したいって待ってる」


 「「「は⁉︎」」」


 まさか万様が待っているとは思わなかったんだろう。グリーンロードの途中でピタッと止まる3人。


 バルとラドゥ(俺はこう呼ぶよう言われた)は顔を見合わせて固まっているし、イアンに至ってはオロオロしている。


 仕方なく俺がバルとラドゥの背中を押して歩かせて、リーフがイアンのズボンを引っ張り連れていく事に。


 そんな感じでエバーグリーンに到着し、ミニコロボックルのエラン家族勢揃いの歓迎と、レインの歓迎を受けた3人。


 「は……はは。ラドゥ……これ夢じゃないんだな」


 「団長……いい加減驚くのに慣れてきましたね……」


 「副団長……俺トイレ休憩ほしいです……!」


 驚きすぎて落ち着きを取り戻したバルとラドゥに、緊張が高まりすぎてトイレに行きたくなったイアン。


 そこからは我らが万能執事フォーとメイドの出番となり、俺達は先に万様の下に戻る事にしたんだ。


 「ふぅ、やっぱ万様の側って落ち着くよなぁ」


 「グーフゥ……♪」


 「ほっほっほ、そんな贅沢なため息吐けるのはタクトくらいじゃて」


 「ガロ爺だってそうじゃん」


 「儂は前からじゃし」


 「なんだそれ」


 万様がいるルーフバルコニーで、ガロ爺はお気に入りのロッキングチェアに揺られながら、俺とリーフはと言うとガーデンディベッド(円形マットレス、4個のクッションとサイドテーブル付きのリゾート感覚満載のガーデン家具)で足を伸ばしている。


 しばらくお茶をしたり目を瞑って休んでいると、フォーが3人を連れてきてくれたらしい。


 「タクト様、ガロ様。お待たせ致しました。御三方の準備が整いましてお連れ致しました」


 フォーの言葉に視線を向けると、そこにはかっちり正装に着替えた3人が立っていたんだ。


 「んん?バル、何で正装しているんだ?」


 「我々にとってはこのくらい重要で希少な機会なのです。竜人の代表としてこの場にいるようなものですから」


 かなり男前になったバルとラドゥ。イアンは着せられている感が強いけど、それなりにかっこいい。


 3人はフォーの案内によって万様の側まで行き、スッと跪く。


 「どうぞ、万物様。我らにお話下さい。我らは貴方に忠誠を誓う者」


 バルが代表して言葉を発すると、万様は枝を伸ばして3人の肩に触れる。


 すると枝から光が出て、万様が3人に何かを伝えたらしい。


 俺とガロ爺はかなりゆったりとした姿勢で、その光景を見ていた。


 しばらくすると、スルスル……と枝が元に戻って行き、ただ跪く3人だけが残される。


 だが、一向に動く気配がない3人。


 「ん?終わったんだよな?万様なに伝えたのさ?」


 緊張感のない俺に万様が伝えてきたのは、俺が一番最初に見た世界の画像と明日の朝もう一度伝える事があるというもの。


 (特に変わった事言ってないけど……)


 そう思って動かない3人を見ると、3人が3人共跪いた体勢のまま号泣していた。


 「我らは……間違っていたのか……」


 「闘う事に慣れて忘れていたんだな……」


 「なんて優しい……!なんて温かな思い……!」


 正直、同じもの見たんだよな?と疑問に思ってしまったが、万様は少し竜人達に万様の思いを届けたらしい。


 その思いに感動して男泣きをしている3人の気が済むまでそのままにしていると……


 「タクト様、ガロ様。どうか我らもお連れ下さい」


 「これからの旅に決して邪魔にはなりません」


 「どうか!俺も連れて行って下さい!盾は多い方がいいでしょう!」


 ……とまあ、暑苦しい忠誠心をこちらにも向けてきたんだよなぁ。


 「ほっほっほ。儂はタクトに任せるぞい」


 逃げるガロ爺に「グーグ♪」と頷くリーフ。


 ……人間領にも行くんだぞ?不味くないか?


 と困惑する俺に強い目力で見つめる3人。


 それで結局どうなったかと言うと、日本人は押しに弱いって事を痛感させられたよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る