第50話 万様の予言
まあ、なる様になれ……
諦めつつ対策を取る事にした今後については後で考えるとして。
あの後は、ある意図から3人をもてなす側に回った俺。
ガロ爺は笑いながら傍観してたけど、リーフが一緒にもてなす側に回ってくれたんだ。
一緒に行動するなら、普通に接して貰いたいからな。
フォーにも頼んで俺が付きっきりで色々3人の世話をしていたら、あっちが先に折れた。
「分かりました!いや、分かったからタクトも普通にしてくれ!」とげんなりしたバル。
「折角の上手い料理と温泉も堪能した気がしない……!」と頭を抱えるラドゥ。
「アハハハ……」と乾いた笑いをするイアン。
……どーだ!変に敬われて困る俺の気持ちが分かったか!と満足するも、フォーに釘を刺された俺。
「良いですか?主たるものどっしりと構えているものです。以後従者の仕事を取る真似はお控え下さいませ」
笑顔で圧をかけてくるフォーに震えながらも、後悔はしてないぞ。今後の対応がかかっているからな!
とまあ、なんだかんだで気合いの入ったフルコースを食べ、ゆったり湯船に浸かった3人はその後フォー達からももてなされまくったそうで……
「身体が軽い……!」
「朝風呂癖になりそうだ……!」
次の日朝からマッサージで凝りをほぐして貰ったバルに、朝早くから鍛錬した後温泉に浸かったラドゥ。イアンに至っては朝練の後の温泉が気持ち良かったのかリビングで二度寝してたなぁ。
堪能してくれたようで何よりだった。
そしてビュッフェ形式の朝食を食べた後、全員でまったりと万様の居るルーフバルコニーに集まったんだけどさ。
「あ、そういや……万様、なんか昨日伝えたいことあるとか言ってなかったか?」
思い出したように万様に尋ねる俺の言葉に、お茶を飲む手が止まる一同。
万様はルーフバルコニーにあるスクリーンに枝を伸ばし、そこに映像を映し出した。
映し出されたのは竜人国ハジャフールの映像。これは映った途端にバル達が教えてくれたからな。
そして映像が次に映し出したのは、その後ろで雄大に聳え立つデラトリア火山の噴火口。
その火口が噴火が始まり、溶岩が流れだし街に迫る映像が映し出されると、ガタッと席を立つバルとラドゥ。イアンはお茶をこぼしていた。
「……どう言うことですか!万物様!」
「いつ……!いえ、すでに起こっているのですか⁉︎」
「街は!街は無事なんですか!」
竜人3人は万様に問い詰めるように叫ぶ。
すると万様が一瞬光りだしたと思ったら、俺の手の中には「赤い種」が握られていた。
万様がまた映像を映し出す。
「おや?ありゃ火龍じゃの。なんじゃ、奴がまた動きだしたんかい」
ガロ爺が言うように、デラトリア火山火口に蠢く物体。ん?ガロ爺は何か知っているのか?と思い聞いてみる。
「ガロ爺?火龍が動くと噴火するのか?」
「そうじゃ。奴はデラトリア火口を棲家として、火山を長年抑え込んでいるんじゃ。だがのぅ、火龍が抑えられる力を超えた場合、過剰分を噴火させる性質を持つんじゃて」
「それって火龍を抑えたらなんとかなるのか?」
「なんともならんの。二千年ごとに起こる事じゃしのぅ。だからほれ、それを万物が与えたんじゃろう」
ガロ爺が俺の手にある赤の種を指差す。詳細はコンパスガイドに取り込ませてみた方が早いということで、俺はその通りにしてみたんだ。
すると、コンパスガイドの説明はこうだった。
『[赤の種(息吹の樹)]
この世界の地殻の中で生き続けると言われる万物の樹の眷属樹。地表に現れると灼熱のマグマから大地を守るドームを形成する。但し地表で植える為には、同じ眷属の赤龍の鱗が必要。揃った時点で「グロウアップ」を唱えると、清浄な空気を新たに生み出す大樹となる』
ん?赤龍の鱗が必要って……一刻を争うのに不味くないか?
「なあ、万様。赤龍の鱗も必要だってあるけど……かえって[緑の種(エアポート)」の方が早くね?」
俺はエアポートも万様のドームがあるから、時間的にもすぐ出来て良いんじゃないかと考えたんだけど。
そんな俺の意見にはガロ爺が答えてくれたんだ。
「タクトや。竜人全てを助ける為と言えばわかるかの?交戦的な竜人は万物のドームでは弾かれるじゃろうしの」
そう言われると、確かに万様のドームは人を選ぶと納得した俺。
「ならば我らが赤龍の鱗を取りに行く!」
「団長、我らはすでにタクトと行動を共にすると宣言しています。勝手に行動はできません!」
「ラドゥ副団長!俺だけでもみんなに伝えに行って良いですか⁉︎」
「イアン待て!」
バルとイアンは国を思う余り熱くなり行動をしようとするも、冷静なラドゥに止められている。
俺は万様に向き直り猶予はあるのか聞くと……
「三日……!三日で行き来なんて無理だろう……!」
猶予はあるものの絶望的な表情をして立ち尽くすバル達。そんな中俺はガロ爺にもう一つ聞いていた。
「なあ、ガロ爺。赤龍って会えば鱗くれるのか?」
「ん?奴の好物を渡せばくれるじゃろうて。奴の好物は万物の実じゃからの」
「万様の実って〈胡桃マーケット〉の事か?」
「そうじゃの。大方今日の胡桃の中に用意しておるじゃろうて」
ガロ爺が指差す先にいたリーフが、「グ♪」と言いながら既に赤い胡桃を持っていた。
「お、流石万様。ほんじゃ、とっとと行ってくるか」
絶望的な表情の3人の竜人の肩をポンッと叩き、エランとクーパーを肩に乗せてそれぞれ歩き出す俺達に、慌てて着いてくる3人。
「タクト……!間に合うのか……⁉︎」
「……間に合わせるんだよ、バル。急ごうぜ」
ニッと笑って言う俺や確信を持って動き出す俺達を見て、ようやく表情が明るくなった竜人達。
とりあえず、置いていくとうるさいであろうラスタとチェックの回収に空港へと向かい、ついでに兵士達も回収する事にする。
魔導フォンを起動させてラスタに連絡をすると……
『なんですか!その撮りがいのある場面は!チェック!チェック!すぐ買い物している兵士達を集めないと!マイク、マイクは何処……!ブツッ……』
どうやらこの時間、兵士達がお土産を選んでいる最中だったらしく、ラスタとチェックが慌てる音が聞こえてきたが、途中でブツッと魔導フォンを切られてしまった。
(……と言うか、既に達成できる前提で話すラスタ達も俺達に慣れて来たよなぁ)
笑いながらそれを移動中のみんなに伝えると、「慣れって怖いっすよね〜」「まあ、タクトなら可能だからな」と言い切るクーパーとエラン。
「ほっほっほ、最速で行くのも楽しみじゃわい」
「グウグー♪」
魔導ポッツの速度を知るガロ爺は、またのんびり窓の外を眺めるのを楽しみにしているし、リーフに至ってはバルの肩に乗って大丈夫と言わんばかりに頭を撫でていた。
そんな感じでグリーンロードを通って空港に着くと、既に準備を整えた竜人の兵士達とラスタ達が搭乗ロビーに集まり、異様な盛り上がりを見せていた。
『お前達は竜人の国を守りたいか!!!』
兵士達からうおおおおおおと熱い同意の叫びが上がると、更にラスタがかけ声をかける。
『ならば自分達で街を守れ!住民達に避難や備えを呼び掛けろ!』
ラスタの声に、更に空港の窓が振動で揺れる程力強く応える兵士達。
『そして、我ら[フィトンチッドの雫]チームに希望を託せ!必ず赤龍の鱗を持ち帰って見せよう!!!』
右手を掲げて熱く宣言するラスタとチェックに、うおおおおおお!と叫びながら熱く応えている兵士達。
その様子に唖然としているラドゥとイアン。
「タクト……ラスタという女、何者だ……?」
バルはこの短い時間で兵士達の心をガッチリ掴んでいるラスタにちょっと警戒しているが、俺は「……害は無いよ」というしかなかった。
一体、何やらかしたんだ?ラスタよ……
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