第51話 行きはよいよいマグマは怖い

 「いやあ、大成功でしたよー!上映会!」


 「俺の編集の腕も良かったからな」


 「だね!流石チェック!凝り出したら止まらない男!」


 「もっと褒めていいんだぞ?」


 「やめとくー!これ以上視聴の邪魔になりたくないもん」


 現在新型魔導ポッツに乗って移動中の俺達。

 竜人達は今魔導TVで流されている映像に釘つけだ。


 ーーーーあの後、ギア・メインポートで門を出し、竜人国手前まで戻ったんだけど、その時の兵士達やバル達の驚きっぷりはすごかった。


 俺のスキル話してなかったってのもあるけどさ。


 そして更に敬われる事になった俺だが、ともかく兵士達には万が一のための避難準備を優先してもらい、俺達はその場から魔導ポッツでデラトリア火山を目指す事になった。


 で、出発した車内で、バルじゃないけどラスタに兵士達に何をやったんだと聞いてみたら、ただ食事時に上映会しただけだと簡単に答えるラスタ達。


 それはグシェール湖での出来事を編集した「青の奇跡」というアクア人達に起こった事をまとめたドキュメンタリー映画だったらしい。


 それも上手く第三者視点から描かれているため、グイグイと引き込まれる構成だ。


 それでなくともアクア人や俺達、守り人ユウヤさんの思い、二千年前の真実、生命の樹、ターミナル、新たな街ルチェ・レーヴェンと内容は盛りだくさんで、この世界の人にとって興味深い内容だしなぁ。


 ……ただ、ユウヤさんの最後やベースプレートの思いをラスタの情感たっぷりの語り口調で伝えた場面で涙が流れたのは、悔しいから黙っておこう。


 「でさ、映像見た後の兵士達からの質問コーナーはすごかったよね」


 「俺は、その質問全部に答えられるお前が凄いと思ったよ……」


 「やだなぁ、チェック。恥ずかしい♪今度おやつ分けてあげよう」


 「いや、褒めてねえぞ。よくもまあ、あれだけすらすらタクトと万物様を持ち上げるような言葉が出てくるもんだ、と呆れているんだ」


 「だってさ、当然じゃない?ここをしっかり植え付けないと。基本よ基本」


 「ある種誘導してたからな。すげえわ、ラスタ」


 「おっほっほ!もっと褒めて!」


 ………賑やかなラスタ達は置いといて、俺は運転をオートモードにして一緒に映像を見、ガロ爺は席で既に寝ているし、エランとクーパーとリーフはキッチン車両で料理を作っているという、のんびりな雰囲気の車内。

 

 リーフは手伝っているというより、邪魔しているような気がするがな……


 そんな俺の心配もよそに着々と進む魔導ポッツ。するとポーン……!と運転席から到着の合図が届く。


 「お、流石だな」


 魔導ポッツの速さに感心して運転席に座ると、眼下に広がるデラトリア火口。


 「タクト!くるぞい!」


 そんな中、いきなり起きて声をあげるガロ爺。外を見るとマグマが魔導ポッツに向かって噴き上がってくるではないか……!


 「おおおおお⁉︎」


 急ぎハンドルを切り避けるも、窓を見ていたバルから「次、右にハンドル切れ!」と指示が上がり慌てて右に避ける。


 明らかに魔導ポッツを狙って次から次へと噴き上がるマグマ。翻弄されつつ避け続け、ようやくマグマが鎮静化する頃には、みんながぐったりしていたんだ。


 「なんなんだよ……!いきなり……」


 ハンドルに項垂れかかって愚痴を吐く俺に、ほっほっほと呑気に答えてくれたガロ爺。

 

 「彼奴なりの歓迎じゃの。ほれタクト、あそこの広めの火口に止めて、外に出るぞい」


 「は?火口近くに行ってまたさっきみたいに噴き上がって来たらどうすんだよ?っていうか外、灼熱地獄で出れないだろう⁉︎」


 「……お前さんの力があるじゃろうが……」


 何言っとるとため息をつきながらガロ爺に言われてようやく自分のスキルを思い出す俺。


 (あ、そうか……!クリエイト・バブルがあったか……!あれマグマさえ弾くもんな。ん?というかこの魔導ポッツにも張ってたよな?……あれ?って事は焦って避けなくても良かったんじゃね?)


 「……なあ、ガロ爺?からかっただろ、さっき」


 「ほっほっほ、気づくのが遅いのぅ。別に逃げんでもええのにみんな頑張ってたからの。まあ、その方が安全じゃからいいかと思っての」


 久々のガロ爺の悪戯に脱力するも、まあ、もしかしたら弾き飛ばされておったかもしれんしのぅ、と髭を撫でながら言うガロ爺。


 ったく、この爺さんたまにこうやって俺らで遊ぶから参るぜ。


 口を開けたまま唖然とする竜人達に、エランやクーパーが気持ちはわかるとポンポン足を叩いている横で、俺は魔導ポッツを火口の縁に着地させる。


 俺とリーフは外に出る事は決定していたが、ガロ爺と共にもう一人誰がついてくるかで、竜人達が俺に売り込んでくる。


 結構しつこく粘ってくる理由は……


 「デラトリア火山の火龍様をこの目で拝顔したい!」


 「伝説の存在をこの目におさめたい!」


 「是非に!」


 3人から熱く語られ仕方ないと、3人も連れて行く事に。一応何かあった時のためにエランとクーパーは運転席にいて貰った。


 あ、新魔導ポッツになってからコンパスガイドを差し込んでさえおけば、登録したメンバーも運転できるようになっているぞ。


 あと、ラスタとチェックは当然のように外メンバーに入っているけどさ。


 そして、クリエイト・バブルを全員に纏わせ、ドアを開けて外に出る俺達。


 俺のスキルのおかげで暑さも熱さも感じないが、岩肌や周りをみると熱せられているのがわかる。


 『……これがタクトが言っていた地獄絵図ってやつか?』


 チェックがカメラを回しながら俺に確認をしてくる。


 膜の中から話しているため全員が魔導フォンを持って会話しているが、かなり近くでグツグツと煮えたぎるマグマは、まさにそれを連想させる。


 とりあえず時間制限のあるこのスキル。ちゃっちゃか終わらせたいと思ってガロ爺に聞いてみる。


 『なあ、ガロ爺?どうやって火龍を呼び出すんだ?』


 『ん?もう奴は気づいておるじゃろうて。じゃが、もったいぶっておるのぅ。リーフや、その手にある胡桃をマグマの中に投げておくれ』


 『グーウ?』


 『え?溶けねえか?』


 『タクトや、その為の赤い胡桃じゃて』


 『あ、わり。万様、抜かりねえよな。じゃ、リーフやっちゃって』


 俺が抱いていたリーフを下ろすと、トコトコ歩きぽいっとマグマに投げるリーフ。


 すると胡桃の落ちた所のマグマが噴き上がったと思ったら……


 《……何者かと思ったら、万物の樹の守り人であったか……》


 現れたのは真っ赤な鱗の巨大な龍。


 驚いた俺は勿論、イアンやラスタは腰が抜けて座り込んでいるが、ガロ爺とバルとラドゥは立ったまま。


 チェックは根性で立って撮影を続行していた。腰が引けてるから変な格好にはなっていたけど。


 『ほっほっほ、元気そうじゃの。赤龍よ』


 《……なんと……まだ生きとったか、魔銀……》


 『お主も弱くなったのぅ。もう限界かの?』


 《……戯け……わかっておろう、大地の循環の故の噴火よ……》


 『ほっほっほ、相変わらず融通のきかん奴よの。ならば、ほれ一仕事する前によこさんかい』


 《……わかっておる……そう急くな……》


 ……俺は開いた口が塞がらず、ただガロ爺と赤龍の会話を聞くだけだったが、赤龍の目が俺を捉えて俺に無理な要求をしてきたんだ。


 《……今代の守り人よ……鱗が欲しいならば我の所まで近づくが良い……》


 (うええ!俺ご指名かよ……!)


 正直怖かったが近づくだけなら、と思い歩き出した俺。


 ……気がつけば、マグマの中に引き込まれていたらしい。


 目を開けると、俺は一人真っ赤な空間にいたーーー

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