第52話 赤龍の記憶と噴火
おいおいおい……
なんだってこんな事になってるんだよ?ガロ爺もいねえし。
真っ赤なマグマの中、俺は一人ただ漂っていた。
クリエイトバブルのおかげで俺の周りは無事だが、それが切れる事を思うと思わず重ね掛けをしてしまう。
(とりあえずコレで平気だろ……ってなんでこんなところに連れてこられたんだ?)
《……お前はどこまで万物の樹を知っている?》
「あ、お前!」
ズオオオ……と赤龍の顔だけはっきり現れて俺に問いかける。
「どこまで?ってどういう事だ?」
《……万物の樹は、お前をかなり過保護に育てているらしい……》
「育てる……?俺を?」
《……守り人と万物の樹は対の存在である事も知らんのか……?》
「どういう事だ⁉︎」
すると俺の周りのマグマがなくなり、景色は見事な大輪の葉を靡かせる万様の姿が見える景色にかわった。
(……でもコレは万様じゃない……、なんていうか違和感がある……!)
すると樹の根本に歩いてきたユウヤさんの姿が見えた。
「ユウヤさん!」
思わず俺は駆け寄ろうとするも、ユウヤさんの姿を擦り抜けてしまったんだ。
(ここは……もしかして……!)
《……そう、我の記憶の中よ……よく聞いておけ。守り人の言葉を……》
赤龍の声だけが聞こえてきて、ユウヤさんの声まで聞こえるようになる。
『万さん、どうしよっか。人間達が騒ぎ出してる……どこの種族も万さんは公平に扱っているのにね?』
サワサワと葉が揺れる中キーー……ンと音が響く。
『ん?僕は平気。でもね、まさか人間が万さんの実をオークスポルト化させるなんて思わなかったよ。それも真っ黒に』
するとザワザワと大きな音を立ててキー……ンと話し出す万物の樹。
『そうだね……僕らにはまだ本体が居ない。このままだと危険だね。早く本体を成長させる場所を作らないと……!』
『おーい!ユウヤー!ちょっとこっち来れるかー?』
『あ、今行くー!……万さん、僕頑張るからね!僕と万さんが生きる為に……!』
そっと万物の樹に語りかけて、仲間のアクア人のもとに駆けていくユウヤさん。
ーーーそして、俺は一面の赤に囲まれた場所に戻ってきた。
「……生きる為に本体が必要……?それもオークスポルトって……?」
《……記憶の中の万物の樹は本体の片割れ……同じ世界に万物の樹は育たない……だが、どちらかが生きてさえいれば、守り人も万物の樹の片割れも生きている……》
「……!マジで⁉︎ じゃ、ユウヤさんも生きているのか……⁉︎どこ!どこに……⁉︎」
《……もう一つ、[オークスポルト]の存在にも気をつけろ……万物の樹を枯らせられるのは万物の樹の力だけ……だが、人間は己の欲の為に今も尚オークスポルトを持っている……万物の樹を弱体化させ枯れさせてしまうオークスポルトを……》
そう言って火龍は姿をマグマと同化させて消えていく。
余計な一言を添えて。
《……急ぐがいい。我は力を使ってしまった。噴火まで時間がない……》
「はあ⁉︎マジか!」
そう言っている間にゴゴゴゴゴゴ……!とマグマが振動を始めた為、俺はエアフロートを使い上を目指す。
ゴボオッとマグマから抜け出た俺を、「ググウ!!」とリーフが見つけて飛びついてくる。
『タクト!無事か⁉︎』
バルや竜人達が駆け寄ってくれるが、一刻を争う。
『みんな急いで魔導ポッツに戻れ!噴火するぞ!!』
俺の言葉に全員が即座に行動し魔導ポッツに走りだすも、ガロ爺だけは俺の目をまっすぐ見据えて動かない。
『タクト……奴は人間が持っていると言っておったか?』
やっぱりガロ爺は俺が呼ばれた訳を知っていた。
『ああ。未だに持っているって言ってたよ』
『そうか……!』
そう言ってクルッと向きを変えて魔導ポッツに歩き出すガロ爺。その時の目は銀色に光っていたのを俺は見たけど、ガロ爺が本気で怒る時の表情だとは、その時はまだ気づかなかったんだ。
その間もゴゴゴゴゴゴ……!と振動は大きくなり、俺達全員が魔導ポッツに入った途端に噴火が起こる。
ドゴオオオオオオオオオオオオッッッッ!!
流石の魔導ポッツも押しやられて噴火と共に上空に投げ出されるも、運転席にいたエランとクーパーにより無事移動開始。
「マグマより先に戻るっすよー!」
「止まる時の速度も考えろ!クーパー!」
「エラン任せるっすよ!というか、そっちの操縦は任せたっす!」
ミニコロボックルの二人がちょこちょこ操縦する中、ハッと気づく俺。
「ああっ!アイツ鱗寄越してねえぞ!」
パタパタと自分の身体を叩いて探すも当然見つからない。そんな俺の様子にラスタがガロ爺が収納している事を教えてくれた。
「ほっほっほ、抜かりはないわい」
いつものマイペースのガロ爺の様子に、俺はちょっとホッとする。
(真面目な表情なんてあまり見た事ないからなぁ……焦ったぜ)
「それよりもタクト、マグマの中で赤龍と話したのか?」
興味深々にカメラを回しながら聞いてくるチェックに、正直俺はどこまでみんなと共有すべきか悩んでしまった。
「ん〜……まあな。その件についてはちょっと待ってくれ」
(何より俺自身が未消化情報だからなぁ……)
すると、俺の様子を感じ取ってくれたのかそれ以上は聞いてこなかったチェックとラスタ。
エランやクーパーはガロ爺と目を合わせて、何故か頷いているし、竜人達はマグマの様子が気になって窓を見ているが、聞かないようにしているらしい。
「ともかく一刻も早く、まずは街に向かうぞ!」
俺の掛け声におおおおっと応えるみんな。
一方、竜人の国ハジャフールの街ーーーー
「火山が噴火したぞ!」
「なんだって!!」
「街から逃げなきゃ!」
「どこに行くっていうんだよ!」
多くの街の人々が慌てる中「もうこの街は駄目だ!」とヤケになって酒を飲む者、最後まで街と共にあろうとする者、勝手に人の家から物を盗む者、竜人達に助けを求める者、馬車を引いて逃げ出す者など、街は更に混乱を極めていた。
そんな喧騒の中、竜人の兵士達が街中を駆けずりまわって叫ぶ声が聞こえる。
「家に戻れ!地下がある者は地下に隠れろ!」
「死にたくなければ街の外に出るな!」
「今守り人様が助けにきてくださる!」
「慌てず、家族まとまって待っていろ!」
街中を駆け巡る情報に、人々はより一層混乱に陥る。
「守り人ってなんの事だ?」
「え?なに?万物の樹が見つかったの?」
「馬鹿野郎!見つかろうが何しようが、すぐにきてくれる訳ねえだろ!逃げるんだよ!」
「そうだよな!まずは今ある生命があってこそだぜ」
そう考えて荷物をまとめて避難をする獣人や竜人がいる中……
「ついに見つかったのか!」
「あれ、バル団長の兵士達だろ?いつのまに戻ってきたんだ?」
「バル団長がやってくれたか!」
「どうせ逃げても獣人である我らはどうにもならん。ならばここで、希望を待つのみ」
「逃げたきゃ、逃げたい奴だけにげろ!俺は残る!」
少数の獣人や竜人は兵士達の言葉に従い、家族と共に家でジッとしていたり、兵士達に詳細を聞きに行く行動を取る。
緊急時の命運は一人一人の状況判断次第。
噴火した火山から未確認飛行物体が、希望を乗せて近づく事を知る者達は街の人口のごく僅かな者達のみ……
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