第35話 アクア族
(くそっ、早くリーフを追いたいのにっ!)
『いきなりのピンチ!一瞬の間に出て来た人間達!……とはいえ人間とは少し違いますね……チェック!ちょっと兵士をズームアップしてみて!顔よ、顔!』
この状況下でもリポーター魂を見せるラスタ。チェックのビデオカメラの映像で確認してみると……
「耳が青い?」
『……やはり!この兵士達はアクア族です!絶滅なんかしてません!存在していたんです!』
興奮したラスタによると、アクア族は耳が青いのが特徴らしい。そのほかは人間と変わらない姿なのに……!でも、待て。
(コイツら顔良すぎじゃね……?)
なんとなくムッとしてしまった俺の横で、ほっほっほといつものようにのんびりした口調で話し出すガロ爺。
「ラスタとチェックよ、一度カメラを止めるんじゃ。許可なく相手を撮る事は争いの元になるだけじゃて」
ガロ爺の言葉にハッと気付かされたラスタ達。何やらメモまで取っている。
どうやら、取材のイロハのマニュアル本も作ろうとしているらしい。うん、流石どこまでも前向きな二人だよな。
「タクトや、知り合いがおる。儂がちょっと先に話をしてくるから扉を開けておくれ」
ヨッコラセと席を立って入り口に向かうガロ爺。
(ガロ爺なら大丈夫だよな)
いざとなれば魔法銀化できるガロ爺は俺らの中で最強だし、と思い頷いて扉を開ける。
兵士達がザッと統制の取れた動きで槍を突き出す中、ひょこっと顔を出し一人の兵士にガロ爺が挨拶をする。
「ほっほっほ、久しぶりじゃのう。オロスや」
「その声……そのお姿……!ガロ様じゃないですか⁉︎ 全員、戦闘体制解除!魔法銀のガロ様に敬礼!」
オロスという、周りの兵士達より上等な服を着たアクア族の青年が、兵士達全員に指示を出すと一斉に揃って敬礼のポーズをとる。
アクア族の敬礼は、片膝をつきその反対の腕を前に出すというもの。
それに、よく訓練されているのがわかるくらいの一糸乱れぬ動きに、俺とラスタの口からは「「ほー……」」という間抜けな声が出てしまった。
「ほっほっほ、相変わらずじゃて。お主ら、途中からこの乗り物の周りを泳いでおっただろうに、なぜに攻撃せんかったんじゃ?」
「ハッ!王太子の命によって、攻撃せぬように言われておりました故!」
「……ちょっと待て!リーフを連れて行ったのは王太子だっていうのか⁉︎」
つい会話を遮り魔導ポッツから出て来てしまった俺を、怪しげな男として警戒体制にすぐさま戻る兵士達。
槍を向けられて両手を上げる俺の姿をみて、兵士達の方がハッと全員息を飲む。
(ん?どうしたんだ……?)
不思議に思っていると、全員の目が俺に胸元のコンパスガイドに視線が集まっている。
「なぜ……?コンパスガイドを持っているんだ……?それは王宮で保管している筈なのに……⁉︎」
そう言って俺に近づいてくるオロスに、ガロ爺が答える。
「ほっほっほ。そりゃ、タクトが万物の樹の守り人だからに決まってるじゃろうて」
その言葉に一瞬周囲がざわめき、そして俺とガロ爺に向けて全員が瞬時に敬礼のポーズを取ってきた。
そして、オロスが俺とガロ爺に改めて不敬を詫びて来たんだ。
「守り人様と英雄様に大変失礼を致しました!どうか、この不敬に対する処分は、私オロスのみにして頂けないでしょうか?部下達は私の指示に従ったまで。どうか寛大な措置をお願い致します!」
そう言ってオロスは俺達に頭を下げ出した。でも、俺といえば……
「あの!無断侵入して来たのは俺達の方ですし、俺は気にしてませんしっ!」
うわ、またかよ……と思いながら必死に頭を上げて貰うようにお願いをする。
(だいたい、恭しく扱われるの俺の柄じゃねえし。むず痒くてどうしようもないんだって!)
そんな事を思いながら、必死になって気にしなくて良いですからと言っていると、フッと表情を柔らかくするオロス。
「……今代の守り人様もお優しい……」
そう言ってスッと立ち上がると、改めて自己紹介をしてくれたオロス。
「寛大なご配慮恐れいります。私は青の都市守護隊団長を務めます、オロスと申します。……現在、色々と行き違いが生じていると思われます。宜しければ、わが守護隊の塔にてご説明させて頂けますでしょうか?王宮には早急に使いを送ります故、その間リードミアキャット様の件についても把握している事実をお伝え致します」
恭しく対応されるのはなれていないが、色々聞きたい事があった為それを教えてくれるのであれば有り難い、と考えた俺。
チラッと横目でガロ爺に確認すると、ガロ爺も「大丈夫じゃて」と後押ししてくれたため、オロスにそれでお願いする事を伝える。
ようやく事態が動き、ラスタやチェックやエランも仲間であることを紹介して街へと入る許可が出た俺達。
ラスタとチェックに至っては、早速撮影が出来るかどうか聞いていたが、それは王の許可が必要だと言われたため渋々諦めて、メモをとる事にしたようだ。
そして俺達は魔導ポッツにまた乗り直し、兵士達に周りを固められたまま街へと移動を始める。
「これはすごい乗り物ですね!」
移動する魔導ポッツの車両内には、案内役として乗り込んでもらったオロスの姿がある。
そうなると、止められないのがこの二人。
オロスに取材の許可を申し出て、訝しむオロスに何をするかを細かく説明するラスタとチェック。
そして、言葉巧みに頷かせると、今度はどこまで聞いて良いか確認しつつ、メモを取りながら取材交渉を始める。
「えっと、この街の人口や位置、街の造りはNGね。じゃ、アクア人に関してはどう?」
「アクア人に関しては特に秘められる件はないので大丈夫ですが、答えられる幅はありますよ?」
「オーケーオーケー!じゃ、オロス団長!まずは年齢を聞かせてもらっても良い?」
「はあ……私は150歳台です」
「あ、やっぱりアクア人も人族の形は取っていても長寿種なのね!最高年齢は?」
「現在わかる範囲では342歳かと……」
「へえ、フォレストドワーフと近いじゃねえの」
「ちょっとチェック!横入りはやめて!で、確認したかったのは、アクア人の繁殖方法よ!本当に液状化した状態で合体するの⁉︎」
「えええ!そんな事まで聞くんですか⁉︎アクア人に取ってそれはとても恥ずかしい事なんですよ⁉︎」
「あら、団長さん。意外に純粋なのね。って事はまだ独身なの?」
「……ええと、はい」
「おい、ラスタ。お前だって独身だろうが。お前こそもっと恥じらえ」
「何よ!チェックだって、独身じゃない。私は報道局のためなら、羞恥心なんていらないわ!さあ、団長さん!どうなの⁉︎」
「いや、その他の質問はありませんか?」
「んー……仕方ない。じゃ、アクア人に取っての魅力的な女性を教えて?やっぱり外側がどれだけ綺麗でも違うんでしょ?液状化した状態が関わってくるの?」
「……ガロ様!助けて下さい!」
「ほっほっほ。本気のラスタ達に捕まればこんなもんじゃないからのう。今のうちに許可を取り下げといた方が良いのぅ」
「あ、ガロ様!どっちの味方なんです⁉︎」
「わしゃ、中立じゃわい」
「ええ!ガロ様助けて下さい〜!」
……まあ、こんな感じで流石の団長も、ラスタの勢いには参っていたようだ。チェックに至っては、「アクア人は純情っと」って言いながらメモしてるし。
うん、俺もこの二人には捕まりたくねえわ……
それよりも、アクア人を乗せてからの肩の上にいるエランの様子がおかしい。
「エラン?調子悪いのか?」
「いや……違う。ただ慣れないだけだ」
「……ふーん、そうか」
いつもなら肩に座っている筈なのに、ずっと立ったまま警戒をしているエランの様子に不思議に思いつつ、魔導ポッツは青の都市の城壁に到着した。
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