第36話 青の古代都市『ブルーメイル』

 「ほえー、城壁まで真っ青……⁉︎」


 「ラスタ、口開きっぱなしだぞ。閉じろ」


 魔導ポッツから見えた青いレンガが幾重にも積まれてできた立派な城壁を窓から見上げて、開いた口が塞がらないラスタ。


 その様子にチェックが顎を持ち上げて強引に閉じさせると、「グェ!」と女性にあるまじき声を上げてチェックに抗議の背中叩きをするラスタに笑いながら、俺達は兵士用の城壁から街に入る。


 魔導ポッツを降り、歩いて入った街。

 圧巻だったのはその景色。


 「うーわー!空が水面だ!」


 「光のシャワーと青い建物が素敵……!」


 「ほっほっほ、変わらん美しさじゃて」


 「へえ……!中心の城が1番低いのか」


 チェックやラスタが言うように、海底のはずなのに空は水中から水面をみたような模様を描き、そこから光が街に降り注いでいるんだ。


 円状に広がるこの街は、中心部分にある王宮が1番地面が低くなっており、そこから上に向かう緩やかな斜面に市民街が広がり、街を守る城壁には一定の間隔で塔が建っていた。


 そして、緑の植物やカラフルな花の様な植物が、街中に散りばめられた目にも鮮やかな都市だったんだ。


 俺達がこの街の神秘的な雰囲気に感動していると、案内役のオロスが、城門にある立派な右の塔が守護隊の塔で、左の塔が遠征部隊の塔だと教えてくれる。


 「なあ、オロス?遠征部隊って何だ?」


 「ほぼその名の通りですよ。我らは液状化によって地脈を通って移動出来ますので、その能力を使って各地の情報や情勢を調べ上げる諜報機関です。戦いにも特化した隊員達の集まりですね」


 街を一望した俺達はまた城壁に戻り、守護隊の塔へと繋がる通路を歩きながら、オロスに質問をしていた俺。


 隣では、ラスタやチェックが一生懸命メモを取りながら器用にまっすぐ歩いている。

 

 「って事は守護隊は街の近辺だけが職務範囲で、遠征部隊は世界を股にかけているのか。……すげえな……」


 「しかも遠征部隊の協力者は各地にいますからね。フォレストドワーフの街にも数名居ますよ?タクト様達は、最近キングジャックリザードを討伐なさいましたよね。緑のドームを張られてからは守り人様の事は伝わっていましたが個人の特定までは至らず、急ぎお姿の依頼をかけていたところだったんです」


 (成る程……それで守り人の事をすんなり認めたのか。ってか緑のドームまで知っているって事は……)


 「なあ、最近フォレストドワーフの街にコラルド人が来たのもわかっているのか?」


 気になっていたコラルド人の事も情報があるか聞こうとした俺の言葉に、更にメモを持ってズズいとオロスに近づくチェックとラスタ。


 「あの……!お二人共近いですって……!コラルド人ですね。勿論把握しておりました。あの部族は現在族長が病気で伏せっており、息子が変わりに代理を勤めていますが、有力な親族がこの隙に乗っ取りを企てておりましたから、今立て込んでいる様ですね」


 当然のようにサラっと情報が出てくるのが凄いが、俺にそんなに情報を開示していいものやら、と少し不安になってしまった。


 「オロスさん。タクト様には情報を簡単にお伝えするんですね?」


 チェックもそれを不思議に思ったのかオロスに尋ねると、丁度目的地に着いたのか、オロスは笑顔で扉を開けて俺達を部屋の中へ促す。


 「それもお話しましょう。さあ、皆さんどうぞ応接室の中へ」


 慣れたガロ爺を先頭に応接室に入ると、青い壁に白い大理石の様な天井と床。そして金の刺繍が入ったチャコールのソファーとテーブル、街を見下ろす事が出来る大きな窓が印象的のモダンな応接室だった。


 俺は、ソファーに座るよりもその大きな窓に吸い寄せられて、街を見下ろす。


 そこから見える街通りには、店や買い物や仕事に向かうであろうアクア人が往来し、兵士達が街ゆく人々と穏やかに談笑する日常風景が垣間見えた。


 (いいな……長閑なこの雰囲気)


 「あ、何あれ!街の人達、紫のお肉食べてる!」


 「結構、肌を出す服装をしているんだな」


 まあ、ラスタとチェックは観察に忙しいみたいだが……


 「ありゃ、カイギュウの肉じゃの。柔らかくて美味いんじゃ」


 ほっほっほといつのまにか隣に来ていたガロ爺が、ラスタ達の質問に答えていく。


 こちらでは布は貴重な為、女性も半袖短パンが主流。男性はズボンに上はベストの様なアラビアンのような格好だ。


 「で、布も面白いんじゃ。海布(メ)と呼ばれる海藻があってのう。糸のようにほぐれ、それを紡ぎ織りして服の生地を作っておる。なかなかに快適じゃて」


 「ん?ガロ様、アクア族の兵士さん達液状化から人型に戻った時服着てましたよね?普通に考えると脱げると思うんですけど?」


 「……ラスタ、お前裸が見たかったのか?」


 「違うわよ、チェック!純粋な興味よ!」


 「見たかったんじゃん」


 相変わらず賑やかな二人の横で「水中の産物なら脱げないらしいのぅ。地上の産物なら一緒に魔法銀化する儂と同じじゃて」と笑いながら説明するガロ爺。


 その横で、静かに窓枠に立って街を見下ろすエランが俺は目に入る。


 「エラン?どうした、街についてからもエランは静かだな?」


 「あ、ああ……ちょっと考え事をしていた。タクトには……後で話すさ」


 エランは苦笑しながらも俺の肩に乗ってくる。どうやら丁度お茶をワゴンに乗せたオロスが戻って来たらしい。


 未だ窓に張り付いてガロ爺に質問攻めにしていたラスタ達も、戻って来たオロスに気付きソファーへと戻ってくる。


 「はあ〜、やれやれ……良いところにオロスが戻って来てくれたわい」


 ヨッコラセと俺の隣に腰掛けるガロ爺。オロスはさっきまでの自分を思いだしたのか、苦笑しながらお茶を淹れてくれた。


 「お二人の探究心は尽きなそうですから……さ、まずはうちの自慢のお茶をどうぞ」


 そう言ってティーカップに注いでくれたのは、藻茶という海藻を炒ったお茶だった。


 「……ふぅ。美味いのぅ」


 「ほーんと、さっぱりしていて美味しい。さ、オロスさん。タクト様が聞きたがっていますよ!さあ、どうぞ!」


 のんびりお茶を味わうガロ爺の向かいのソファーに座った興味津々のラスタ達。すでにオロスに撮影許可を申し出ており、公開しないという制限付きでチェックは録画を開始していた。


 「……はい。ではタクト様。何からお聞きしたいですか?」


 「まずは、何故王太子がリーフを連れて行ったのか……だな」


 色々気になる事はあるものの、まずはリーフの無事を確かめたかった俺。


 そんな俺の答えがわかっていたのか、にっこり笑って話出したオロスによれば……


 「『守り人』が呼んだって……!俺、そもそもリーフと一緒に居たけど⁉︎」


 「いえ、タクト様。正確に言えば、タクト様にとっては先代の守り人様です」


 「は?先代っていっても二千年前だろ……⁉︎ ……今も生きているのか⁉︎」


 「『生きて』いるのは言葉です。ガロ様なら分かりますよね。この都市の本来の名称が『ブルーメイル』という理由を」


 オロスから名指しされたガロ爺。ほっほっほと笑いながらも、珍しく真面目な表情で俺に顔を向ける。


 「タクトや。このグシェール湖の詳細を覚えておるかの?」


 「詳細って……確か、この都市を作ったのが先代の守り人で、ここが以前の万物の樹があった場所と噂されている事か?」


 「おかしいと思わんかったかの?コンパスガイドですら噂としか詳細が表示されんかったのを……」


 「……まあ、この世界不思議な事ばかりだから。そんなもんかって思ってたけど」


 「ほっほっほ。タクトからすればそうじゃの。ほれ、ヒントは与えたからの。考えてみるんじゃ」


 そう言ってお茶を飲み出すガロ爺を見ながら、前を向くと同じように考えているラスタとチェック。


 エランに至ってはただ黙って俺を見ている。


 (エランにはわかるのか……!……でも、考えてみりゃ、万様から貰ったコンパスガイドにわからない事があるとは思えない。でも現在それしか表示されないという事は……)


 「コンパスガイドに制限がかかっているのか……?」


 俺がボソッと呟くとほっほっほと笑うガロ爺。その様子にオロスも口を開く。


 「因みに『ブルーメイル』の事を我々は『青の伝言』と呼んでいます。更に『青』は我らアクア族にとって守り人を指し、リードミアキャット様は『導くもの』です。そして、我らの街には先代の守り人が所持していたコンパスガイドが祀られています。


 では、タクト様?そこから導くと、この街に先代の万物の樹が存在したと思いますか?」


 オロスが質問する事自体、此処は先代の万物の樹のあった場所ではない、と言っているようなものだ。


 と、すればもう一つの可能性は……


 「……まさか……ここは先代の守り人が眠る街……か?」


 「その通りでございます」


 俺の前に存在した守り人……⁉︎

 まさかこんなところに情報が眠っているとは……!

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