第54話 やっぱり……
「おい!俺様を誰だと思っている!」
「ふざけるなぁ!なぜそんな子供が神聖な場所に入って居る!」
「とっととここを開けろ!」
やたらと賑やかな集団が入り口近くで騒いでいる一方で、スッと入って来た高貴な竜人。
「ふむ、おかしい事もあるものだ。万物の樹に忠誠を、と言う掛け声はなんだったのかな?」
「致し方ありません。ショーレム様。形だけの忠誠を誓う輩はどうやら一定数存在して居るようですから」
ピタッと止まった野次に、腕を組み更に煽り立てる言葉をかけるのは、元老院トップであり国王のショーレムと宰相のウォーク。
そう、騒動の元は、新たに設置された息吹の樹に併設された新空港の入り口。空港だけは、利用しても害のない者達だけが入れる仕組みになっているのが騒動の発端だ。
因みに空港以外に張られた竜人国を覆う水色のドーム。これはマグマや災害から身を守るだけのドームであり、入る人を選ばず魔物の侵入をも許してしまうもの。
よって魔物も災害も悪意をも避ける事が出来るのは、空港に入れる人のみーーー
「まあ、当然と言えば当然だよなぁ」
「ほっほっほ。そこまでは責任は持てんからのぅ」
「万物様に繋がる空港に変な輩が入れないのは当然だ」
騒がしい空港入り口を遠くから見る俺達。ガロ爺は入れない輩の様子を見てご機嫌な様子。
……結構腹立っていたんだなぁ、ガロ爺。
エランはそんなガロ爺の肩に乗り、腕を組んでフンッと上から目線でこの様子を見ている。
そんな俺達の周りでは……
「なー?なんであの竜人入れないの?」
「うわぁ、すごい広ーい!」
「おうちなくなっちゃったの?」
「バル様だっこ」
孤児院の子供達が走り周り、俺やガロ爺や未だに感動して立ち尽くしているバルにまとわりついていた。
「タクトっ!」
子供達をあやしている俺達を見つけ、入り口から走ってきたのは、お偉いさん達との話し合いを担当していたラドゥ。
ラドゥは少し疲れているのか、ため息を吐きながら合流して来た。
「お、ラドゥ。お疲れ」
軽く手を上げて労うと、呆れた声が返ってきた。
「あのなぁ……これがどれだけすごいことか、わかってんのか……!まあ、タクト達からすると、慣れたことだろうが……」
頭を抱えながらもニヤリとするラドゥは、入り口での騒動で少し溜飲が下がったらしい。今もザマあみろと言わんばかりの表情で騒動を見ている。
「ラドゥ副団長!バル団長!」
更に続々集まる仲間達。イアンは兵士達の代表として走ってきた。
「お、イアンもお疲れ」
「タクトさんもお疲れ様でした!」
俺達のもとにかけてきたイアンもまた、興奮気味な様子がわかる。まあ、初めてあれだけの出来事を目にして、興奮しない人はいないだろうけど。
ん?ラスタとチェックのコンビはどうしたかって?
『ご覧ください、皆様!これが万物様の力!これが守り人タクト様の力です!今まさに世紀の瞬間に立ち会えた事を共に喜びましょう!!』
ラスタのリポートに歓声で答える兵士達や住民達。
こう言う時のラスタ達の行動力は凄い。バラバラになりそうな団体を一つにまとめてくれるからな。
「ほっほっほ、タクトよ。どうやらあちらさんからきてくれたみたいじゃの」
ラスタ達の様子に目を奪われていると、ガロ爺が教えてくれた方向を見ると、明らかに立場が上であろう貫禄を纏う竜人達がこちらに歩いてくる。
誰だ?と思っている俺の横で、再起動したバルやラドゥが背筋を伸ばし敬礼し、イアンも遅れて敬礼して居る様子から、なんとなく理解した俺。
(うわぁ、面倒が歩いてきたよ……)
「バル、ラドゥ、それにイアンと言ったか?この場で敬礼は無意味よ。むしろその方達を紹介してほしい」
「ハッ!こちらは今代の守り人タクト様、その横にいらっしゃるのは魔法銀の使い手ガロ様でございます。また、ミニコロボックルのエランでございます」
「そうか……助かった、バル」
そう言って俺達の前でスッと跪いたその竜人達は、そのまま俺達に向かって語り出す。
「今代の守り人であるタクト様、魔法銀のガロ様、ミニコロボックルのエラン様。初めてお目にかかります。この国の王であり、元老院を束ねる長を務めておりますショーレムと申します」
「御尊顔に預かりまして光栄でございます。この国の宰相を務めさせて頂いておりますウォークと申します」
後ろに護衛の騎士を数人連れた王と宰相が、流れるような所作で俺の前に跪き頭を垂れる。
「うえええ!その……!頼みますから立ち上がって下さい!俺はそんな偉い人じゃないんですって!」
「ですが……」
「良いんです!普通ーで!普通に接してくだされば!お願いします!」
またこのパターンか……と思いながらも必死で頼み込む俺。そんな俺の様子を見て援護してくれるガロ爺。
「ほっほっほ、儂等は気楽が一番じゃて。ほれほれ、ここの様子はラスタ達が伝えてくれるじゃろ。儂等は先にいくぞい」
ガロ爺が手を差し伸べて、ようやく立ち上がってくれたショーレム王とウォークさん。
そう、どうせなら先に万物空港へ戻る話しが出ていたんだ。万様に報告もしたかったからな。
でも、まさか王様と宰相さんと一緒に行くとは思っても見なかったけどさ。
そこはちゃっかりリーフとクーパーが、チケットカウンターから人数分のチケットを用意してくれてちゃったんだよなぁ。
……俺、ギアメインポートで帰ろうと思ってたんだけど……
まぁ、新空港を利用するのもいいか、と言う事で慣れた俺達は先にウィケットカウンターに向かう事にしたんだ。
因みに、迷わず行ける理由は一階には必ず空港内案内図があるからだな。
案内図によると、竜人国の空港はこんな感じだった。
1F チケットカウンター
チケットロビー
手荷物受取所
到着ロビー
[フィトンチッドの雫]認証検査機
コインロッカー
男女別トイレ
孤児院施設(食堂/大浴場/大型トイレ/多目的ルーム/10人用大部屋×2/2人用個室×18/各部屋家具備品付き)
2F 個人/特別待合室
大テナント(空き3)
小テナント(空き3)
兵士詰め所
事務所/会議/スタッフルーム
男女別トイレ
エレベーター二基
3F 赤龍ホテル
(フロント/ロビー/ラウンジ/宴会場/レストラン/一人用客室×10/二人用客室×10/スウィートルーム×5/大型露天風呂/大浴場)
4F 息吹の樹出発ロビー/ラウンジ/搭乗待合室/男女別トイレ/ウィケットカウンター
5F 屋上庭園/息吹の樹
イアンには悪いが空港経験者として兵士達と共に、住民達や竜人達の案内役を頼み、俺達とショーレム王とウォークさんで四階を目指す。
フィトンチッドの雫認証検査機は万物空港にもあるからな。
道中、エレベーターに、空港内の設備に、移動手段に驚きを隠せなかった二人。
飛行機に乗った時点でちょっと姿勢を崩していたのには笑ったな。
その後、席に用意されていたガイドマニュアルを熟読していたショーレム王とウォークさんに、色々説明をしていたエランとクーパー。
するとまた元気になってきた二人に、エランとクーパーが押されていたのも、見ていて楽しかった。
だがリーフよ……いくら何でもショーレム王の膝に座るのはどうなんだ?
そんな俺の不安もよそに楽しむ二人の様子に、ホッとしていた俺達を乗せてアナウンスが出発を教えてくれる。
『ご搭乗ありがとうございます。当機[エアプレーン]号は皆様を[万物の樹]空港ターミナルビルまで安全・快適にお連れ致します。ーーー間もなく出発致します。皆様座席に着き、出発までのお時間は当機のガイドマニュアルをお楽しみ下さい』
さて、戻るか……
万様に色々伝えたいことを思いおこしていた俺。
そんな俺を含め、全員が到着してから驚くことになるのは次回の話。
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