第55話 万物空港いいところ、一度はおいで
パパパパパパパンッ!!
「「「「「ようこそ!万物空港へ!」」」」」」
「は?」「え」「うぇ!」「ほっほっほ」「グウ?」
俺達が到着ロビーに着いた瞬間左右から聞こえる歓迎の声と、上から降ってくる紙吹雪。
俺達は勿論、ショーレム王やウォークさんも目を丸くしている。
改めて周りを見てみると、歓迎してくれたのはフォレストの住民ドワーフや、アクア人の住民達。
「ふふっ、サプライズ成功ですね」
その中から戸惑う俺達に説明に出てきてくれたのは、フォレスト報道局のハガネ。手には使用済みのパーティクラッカーを持っている。
「ラスタ局長からの要請だったんですよ?竜人国の皆さんに目にもの見せてやれって。という事で、今日はフォレスト人もアクア人も気合いが入ってます。勿論万物様も」
そう言って搭乗ロビーから見える万様の姿をみたショーレム王とウォーク宰相。
初めて見た人達が必ず通る道、感動の対面場面に入ってしまった。王も宰相も涙を流して、ただただ万様を見つめている。
既に見ている筈のバルとラディもまた王達の後ろで万様に跪いて敬礼をしていた。
その様子に感慨深く見守る出迎えのみんなも、気持ちを考慮してしばらく見守っていたが……
「失礼致します、ショーレム王とウォーク様。そろそろ皆が待ち侘びております。感動の再会は後日ゆっくり時間をとっております。まずは、我らのもてなしを受けては頂けませんか?」
そろそろキリがいいところで、ハガネがショーレム王とウォーク宰相にガイドを申し出てきたんだ。
「突然の訪問にも関わらず感謝する。王と私だけではなく、この後我らの住民達も訪れるであろう。其方もお願いできるだろうか?」
ここは切り替えの早い宰相ウォークさんが対応していた。でもこの二人は竜人にありがちな高慢さがやっぱりないんだな、と感心する俺。
なら俺も普段のみんなの頑張りを見たいと思い同行を願い出たんだ。
そしてショーレム王達に同行するのは、今回は王の護衛として控えるバルとラドゥ。俺とガロ爺にショーレム王と手を繋いでいるリーフ。
エランとクーパーはもてなし側に回りたいそうで、それぞれ持ち場に戻っていったんだ。
「さ、ではフォレスト報道局を代表して、今回は私ハガネが先導致します。まずは一階のマリーのお店。こちらは、我が国屈指の服飾人のミニコロボックルのマリーがおります。予約制となっておりますが、本日宿泊のための洋服をご用意させて頂きますので、お二方は中で採寸をお受けになって下さいませ」
まずハガネが連れてきたのはマリーの店。どうやら万様がシルクの布を用意していたらしい。それで王と宰相の分の滞在服を用意する予定なんだってさ。
……あー、リーフまで採寸されてるよ。リーフは今日ショーレム王をもてなすつもりだな、ありゃ。
採寸が終わるまでロビーで待っていると、チラホラ兵士達に連れられて竜人国の住民達も到着し始めたらしい。あちこちで歓迎クラッカーの音が聞こえてきた。
獣人達はその歓迎ぶりに驚き、万様に感動し、抱き合い涙を流している。そんなほっこりする光景を見ていると採寸が終わったらしい。
「すまんな、タクト殿。お待たせした」
ウォーク宰相がわざわざ声をかけにきてくれたらしい。
「いえいえ、俺達が勝手に着いてきているだけですから」
「こちらとしても同行はありがたい。我らは恩を返さねばならぬのに更に歓迎されて、正直身の置き場がないのだ。王はリーフ殿が気遣ってくれるおかげで楽しんでいるようだが……」
「ウォークさんも気にせず、うちのみんなの好意を受け取って下さいよ。それが、俺達にとっても嬉しい事なんですから。な、ガロ爺」
「ほっほっほ、そうじゃの。立場なんぞここでは気にせず楽しむのがいいじゃろ。ほれ、ハガネが待っとる。次に行くみたいじゃて」
ガロ爺がハガネの方をみると、にっこり笑って先を促すハガネ。ウォークさんも苦笑しながら王達の元に戻り、ガイドが再会される。
「お土産屋のギフトショップクイニーは明日ご案内致します。まずは二階に上がり、我が空港の名物リカーショップタクトに参りましょう。本日は店長のププカが大奮発!数多くの試飲をご用意しております!」
エスカレーターで二階に移動の最中にハガネがもたらした情報に「ほっほう!」と喜びの声を上げたのはガロ爺。
ガロ爺もだが、ショーレム王もウォーク宰相もイケる口らしい。嬉しそうにしている中、バルがラドゥに止められる姿も見える。
バルも酒好きだもんなぁ。前回結構飲んでたし。ん?俺は、そこそこだな。ビールに枝豆ありゃ文句ねえし。
「さあさあ、いらっしゃいいらっしゃい!こちらは万物印のお酒ですよ!品質、品数、種類も最近は増えに増えて、お酒好きにはたまらない空間さ!さあ、王様!歓迎の一杯をどうぞ!」
なんて考えてたら、店主のププカが頑張って接客していた。
「ほう……濃い赤の色あいに良香り。この酒の名は?」
「王様に献上する酒といえば、バレーロでございます!王のワインにしてワインの王と呼ばれる逸品!どうぞ一口お飲みになって下さいませ」
王に声をかけられて緊張して顔が少々硬くなっているのが難だが、ププカも自慢の酒を出してきたなぁ。
ショーレム王の前に宰相がクイッとワインを口に含み味わい飲み干すと「ほぅ……」という感嘆の声が上がる。
「ウォーク、味の方はどうだ?」
「ショーレム様、これは素晴らしい……!力強く、どっしりとした深い味わいのワインです。ショーレム様好みといえましょう」
「ほう!どれ、試してみよう」
クイッと飲み、ワイン舌で味わう王もまた表情が柔らかくなる。
「素晴らしいワインだ。店主、他にも色々ありそうだ。案内を頼む」
「お、お任せください!では、お口直しに軽くシャンパンはいかがでしょう?……」
ププカが頑張っている中、ガロ爺はお気に入りの日本酒コーナーに行き、ここぞとばかりにいろんな酒の飲み比べをしているし、バルもまた我慢しきれずウィスキーコーナーで、試飲を初めていた。
リーフも結構強い酒飲めるんだよなぁ……でもまあ、今日は酎ハイコーナーの試飲を舐めるように飲んでる。
俺は俺で、みんなの様子を見ながらいつものビールを一口含みながら、ハガネにこの後の予定を聞いていた。
「ハガネ、この後の予定は?」
「はい、フォー様より伝言がございまして。このお二方はフィトンチッドの雫の所有者と万物様からお伝えされておりますので、このままタクト様と共にエバーグリーンに向かってもらう予定です」
「へえ、そっか。って事はピオールはエバーグリーンで食事を用意してくれてるって事だよな」
「はい、そのようにお聞きしております」
「わかった。後は引き継ぐよ。どうせフォーの事だから、グリーンロード前に迎えに来ているだろうし」
「助かりますわ。ラスタ局長からかなりの人数がいらっしゃると聞いていますから、私はそちらを担当致しますので」
「了解。そっちも大変だろうけど、よろしくな」
「畏まりました」
ハガネが一礼して、一階の到着ロビーに向かう頃、ププカがショーレム王とウォーク宰相を連れて近づいてきた。
「タクト様、お帰りの際までにショーレム王様とウォーク宰相様ご指定のお酒をご用意しておきます。ショーレム王様、ウォーク宰相様、当店をご利用頂きありがとうございました」
一礼をして下がるププカに、片手をあげて礼をし、ショーレム王とウォークさんにこの後宿舎に向かう事を告げる。
フィトンチッドの雫の事は俺の一存でサプライズにした。二人の反応が楽しみだ。
……と、その前に店でご機嫌になっているガロ爺やバルと一緒に遊んでいるリーフを回収してくるかぁ。
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