第2話 夢じゃない!

 ペシペシ……ペシペシ……


 ……なんだ?……頬叩くなよ……


 ペシペシ……ベシベシッ!


 「っ⁉︎痛いって!」


 「グウウ?」


 「お前か!葉っぱ頭!って……アレ?」


 葉っぱ頭の小さな前足を掴んで、固まってしまった俺。


 (なんで起きたのにコイツがいるんだ?ていうか、痛いってこれ現実か?)


 「グーウウ♪」


 俺が混乱して力を緩めた隙に、葉っぱ頭が俺の膝に乗って俺の頬にスリスリと頭を擦りつけてくる。


 (うう……可愛くて怒れん……)


 俺は、葉っぱ頭を抱き上げ、少しヒリヒリする頬を撫で上を見上げる。


 サワサワと風に揺れる葉の音と、木と緑の匂いと陽の暖かさ。手には、葉っぱ頭の柔らかな毛並みの感触。


 (……やばい。これ、現実だ……!)


 そう実感したと同時に、また頭の中に映像が伝わってきた。


 自宅で眠っている俺の姿がいきなり消えて、この木の側に現れた映像と、いなくなった後の俺の家族や職場の映像。


 (え?俺がいなくても、何も気にしてないって……?)


 俺は自宅から会社に出社していたから、必ずお袋や妹の絢香あやかが心配する筈……!それに、今関わっていた契約だって途中だったのに……⁉︎


 俺の感じた事を読み取ったのか、映像が変わる。


 まるで、俺が元々いないかのようなガランとした俺の部屋。そして同僚の渡辺が、俺がしていた仕事を最初から取り組んでいたかのように進めている映像と、物置場と化している俺の職場のデスク。


 (俺が元からいない存在になっているっていうのか……⁉︎)


 俺がそう気づいた時に頭の中から映像が消えて、目の前には心配そうに俺の顔を覗く葉っぱ頭。


 更に俺の横に現れた、バスケットボール程の大きな胡桃が数個。


 (待て待て。落ち着け、落ち着け)


 柔らかい毛並みの葉っぱ頭を撫でながら、俺は情報を整理してみた。


 (俺はどうやら寝ている間にこちらに連れて来られて、同時に俺の存在は元の世界から消えていた。


 そこから導かれる結論は、元の世界に戻る事はもはや出来なくて……これから俺はここで生きて行くって事になるわけか)


 自分の出した結論に、ふうっとため息を吐いてしまう。すると再び映像が頭の中に浮かび上がる。


 人が人に謝る姿と、場面が切り替わって人が人に何かを頼み込む映像が流れている。


 (これ……もしかして、木の思念なのか?素直に申し訳ないという感情と俺に仕事を頼みたいって伝わってくるけど)


 俺の考えていた事が正解だったらしい。映像が途切れ、視界にドアップの葉っぱ頭の顔があった。


 「うおっ!おまっ、驚くだろうが!」


 「クウウ……?」


 とりあえず葉っぱ頭を引き離すと、葉っぱ頭が頼りなさげな声をだし頭を傾げて俺の顔を見ている。


 (……まあ、色々思う事もあるけど、コイツらとの付き合いだって長いんだよなぁ)

 

 特に、この木は俺と一緒に成長してきた木だ。愛着はあるし……


 「お前とも付き合いは長いからなぁ。夢の中だったけど」


 「グウグーウ♪」


 ワシワシと葉っぱ頭を撫でると、葉っぱ頭は嬉しそうな鳴き声と共に俺の胸に飛びついてきた。


 (正直、いつかこの木とコイツに会いたいとも思っていたし、家族や仕事も大丈夫だとわかった事だし)


 「基本、どうしようもない事は余り考えない性格なんだ、俺。だから大丈夫だ」


 腕の中で「グーウ?」と鳴く葉っぱ頭に、自分に言い聞かせるように話しかける。


 さて、と気持ちを切り替えた俺は、改めて横のバスケットボール大の胡桃に注目がいく。


 (しかしデケエ……!俺、胡桃なんて割れねえぞ?)


 屈み込んでツンツンと胡桃を触っていると、ぴょんっと腕の中から飛び出した葉っぱ頭が胡桃の近くに寄り、簡単にカパッと二つに割って見せた。


 「うっそぉ!お前、そんなに力強かったのか⁉︎」


 思わず叫んだ俺も、同じように胡桃を手に取り開けよう試したが、力を込めても全く開かない。


 「ぐっ!ぎぎぎぎ……!」


 俺の苦戦する様子にトテトテ歩いて来た葉っぱ頭が、俺の手にあった胡桃の先端を押すと、カパっと二つに割れた胡桃。


 「おわっ!……っいってぇ!」


 俺は力を込めていた為、力余って後ろにのけぞり木に頭をぶつけてしまった。


 「っ痛……!コブできてんじゃね?」


 頭を触り痛がる俺の肩に葉っぱ頭がよじ登り、謝っているのか小さな前足で俺の頭を撫でる。


 ちょっと癒され、少しズキズキしながらも胡桃の中を覗き込むと……


 「え?これ、生肉?こっちは玉ねぎ⁉︎」


 確認すると、割れた胡桃の中身は生肉の塊と玉ねぎ5個。


 コツを掴んだ為、残りの胡桃を開けて見ると、出てくるわ出てくるわ……。


 入っていたのは様々。焼肉のタレの瓶と塩胡椒の筒。麻袋に入った米や箱に入った味噌と瓶に入った醤油。更には胡桃の中に缶ビールが入っていた時には「おいおい」と思わず突っ込んでしまった。


 (いや、めっちゃ嬉しいけど!)


 怪しむどころかホクホク顔の俺に、塩胡椒の筒を持った葉っぱ頭がクルルル……と腹を鳴らす。


 「ん?お前も腹減ったのか?俺もなんだか腹減って来たし、部屋のキッチンで早速料理すっか!」


 「グーウグ!」


 良い反応をする葉っぱ頭と共に、何回かに分けて部屋の中に食材を運び込む。


 そうそう、改めて部屋の間取りを紹介すると……


 この秘密基地、結構整っているんだ。全体的な感じは1Rのロフト付きって感じか?但し一階の広さは円形だけどすごい広い。


 俺の元の部屋が八畳だから5つぐらいは入るか?結構贅沢だ。


 それに一階には狭いが壁側にキッチン、水洗トイレ、バスルームが付いている。


 有り難い事に、トイレとバスルームは独立型だ。あ、洗面所兼脱衣場もあるぞ。


 (召喚したからには、至れり尽せりって感じだな)


 詳しい不思議構造はスルーして、素直に感謝した俺と葉っぱ頭はキッチンに向かう。


 キッチンも簡素だが基本的な物は揃っているらしい。フライパンに鍋、まな板に包丁にフライ返しに蓋、食器にナイフとフォーク。


 (良いねぇ。とりあえずなんとかなる)


 鼻歌を歌いながら作業に入ると、俺の肩に登って来た葉っぱ頭。


 「ん?お前も料理に興味あるのか?何をお前が食べれるのかわからんから、とりあえず試してみっか」


 生肉や食べれそうな野菜を差し出しても、首を振る葉っぱ頭。結局、俺が今作っている焼肉のタレ味の肉野菜炒めを食べさせる。


 「グーウ!グーウ!」


 美味しそうに頬張り尻尾をブンブン振っている事から、多分俺と同じ物でいいんだろう。


 (楽でいいけど、コイツもただの動物じゃないんだろうなぁ)


 「あ、そうだ!これからお前との付き合いも長くなりそうだし、名前つけていいか?」


 餌付けをしながら葉っぱ頭に聞いてみると、モグモグしながら「グー!」と鳴いて前足を上に上げる。


 良いよと言っているように感じ、俺は改めてコイツの名前を考えてみる。


 (特徴は、頭にある双葉。身体はミーアキャット似。ミーアキャットっていうのも何だし……ってなると……)


 「じゃ、単純だけどリーフはどうだ?」


 「グーグー♪」


 「よっしゃ、リーフ。これから宜しくな!」


 「グー!」


 名前も決まったタイミングでじっくり焼いていたステーキも焼き終え、山盛りの肉野菜炒めとステーキという肉肉しい料理を持って、リビングに行く。


 いそいそとテーブルに料理を置き、切り株椅子に腰掛け、先に用意していた缶ビールをプシュッと開けて一口。


 「っかあー!美味いっ!」


 「グーグウっ!」


 俺が美味そうにビールを飲む姿に、リーフが自分も飲みたいと言うかのように、腕にしがみついてくる。


 「よし、リーフ!お前も飲め!今日はお前らと出会えた記念だからな!」


 気分の良かった俺は、何も考えずプシュっともう一缶ビールを開け、リーフの前にコトっと置く。


 するとリーフは器用に前足で支えて斜めにしながら、ペロペロとビールを舐め始める。


 ジッと反応を見ていると、「‼︎」と何か驚いたのか尻尾をピーンと立たせるリーフの様子に、俺は思わず笑い出した。


 「ブハッ!やっぱりお前は無理だろ?」


 仕方ないから俺が飲むか、とリーフが飲んでいるビールに手を伸ばしたものの、パシッと俺の手を叩き返して、またペロペロ飲み始めたリーフ。


 「リーフ、お前……イケる口か」


 「グーウッ!」


 尻尾を振りピチャピチャ飲む姿に和みつつ、「ま、いっか」と俺もモグモグと食べ始める。


 途中リーフに肉を食べさせつつ食べ進むと、しばらくするとリーフは満足したのか、ポスッとテーブルに座り込み毛繕いをし始める。


 リーフが飲んでいたビールにはまだ半分上残っていたが、小さなコイツにしては飲み過ぎだろう。


 俺はリーフの残りものも飲みつつ、ボソっと呟く。


 「俺が飲んだ薬っぽいものって何だったんだろうなぁ……」


 実は起きてからずっと気になっていたけど、特に身体の変化はないから大丈夫だろう、とは思っていたんだ。


 でもさ、飲んでいる時って何となく気になる事思いついちゃうだろ?


 リーフの毛繕いを見ながら呟く俺の言葉を、リーフも聴こえたんだろう。


 毛繕いを止めて俺に近付いて来たリーフが、俺が首から下げている方位磁石を触り、開けるような動作をする。


 因みに、起きたらチェーン付き方位磁石が俺の首から下がってたんだよ。


 料理の時は胸ポッケに入れてたりしたから邪魔じゃないし、何となく身につけといた方がいい感じがしてさ。


 まあ、とにかくリーフが「グーグー」言いながらペシペシ方位磁石を叩くから、俺は方位磁石の蓋をカパっと開いてみたんだ。


 するとまた青い光が現れ、今度はPCのウィンドウ画面のようになったんだ。


 そして、その画面には日本語ではない文字が浮かんでいたけど、俺は何故かその文字が読めた。


 「『設定を開始しますか』……?」


 俺が見ている画面を詳しく教えると……


 『万物の樹の成分を体内に確認。コンパスガイドの所有者に認定。設定を開始しますか? はい / いいえ』


 こんな感じだ。


 ……恐らくあの不思議な木は『万物の樹』という名前なんだろう。俺が飲んだのはその木の成分。それでこの方位磁石は『コンパスガイド』という名称らしい。


 (そのまんまじゃねえか……)


 リーフって名付ける時点で俺も同類だが、そこは置いといて……


 とにかく『はい』を押してみると、また文字が変わる。


 『名前』『性別』『年齢』『身長/体重』『スイッチパスワード』『マスターパスワード』と続けて出て来た。


 (……スイッチって切り替えだろ?マスターって総合の事だろうから……)


 そんな感じで直感でサラっと考えていた俺。


 タッチパネル式みたいだったので、とにかく空欄を埋めていき『終了』を押すと現れた画面がコレ。


 『ステータスを表示します。


  タクト・ハザキ 22 男性 人間(標準)

 保有体力(HP) : 1,000/1,000

 保有魔力(MP) : 100,000/100,000

 保有スキル : エア・ポート 

 保有ギフト : 万物の樹(仮契約状態)

 称号・加護 : 万物の樹の守り人・万物の樹の加護

 保有従魔 : リーフ(リードミアキャット/希少種)

 スイッチパスワード : 《ギア》声紋認証済み

 マスターパスワード : 《メイン》声紋認証済み 』


 (いやいや……待て待て……!ツッコミどころ満載じゃねえかっ!)

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