第42話 ルチェ・レーヴェン空港ターミナルビル(生命の樹)
『さあ!皆さん、注目しましょう!ルチェ・レーヴェンの未来を形作る空港ができる瞬間をっ!!!』
ラスタがリポートで盛り上げる映像には、リーフが指差す先に俺が虹色の種を植える場面が写されていた。
驚かせる為何も聞かされていないラスタは、俺達の行動に疑問を抱く。
『え?庭園の真ん中ですか?え?皆さんどういう事でしょう?空港はとっても大きい建物なんです。それなのに此処に植えると王宮も住宅街も巻き込まれますよ⁉︎』
ラスタのリポートでザワめく観衆。それでも、俺とリーフはなんとなくわかっていたんだ。
『あ、皆さん待ってください!リーフ様がぴょんぴょん飛んで、前足で丸を作っています。タクト様は笑顔でサムズアップしていますし!あ、皆さんサムズアップとは親指を立てて大丈夫を意味する、タクト様の合図ですよ』
ついでにラスタがサムズアップのやり方をみんなに伝えた為、この後アクア族の間でサムズアップが流行り出したのを後で知って赤面する俺。
そんな事は知らずに、俺はいつも通り「【グロウアップ】」を唱えるとーーー
『なんという事でしょう!一瞬!まさに一瞬で種が成長しました!なんという奇跡!なんという素晴らしさ!ご覧下さい!天井まで続く動く道を!』
そう、今回は根がウネウネと建物を作っていくのではなく、一瞬で空港が建てられたらしい。それも本体はどうやら街の天井を超えた場所にあるみたいだ。
『皆さん!この奇跡の建物の中身が知りたいですよね?では、ルネード王に撮影の許可を貰いに行きましょう!』
ラスタがチェックを連れてルネード王に突撃許可を貰いに行く姿を見ながら、俺とリーフ、ガロ爺とガロ爺の肩に乗ったエランは先に大型エスカレーターに乗って確認に向かう。
(俺達は事前に許可貰ってたからなぁ)
俺が乗る二段先のエスカレーターにウキウキお尻を振るリーフが乗り、その後ろを「ほっほっほ、こりゃ快適じゃて」と上機嫌なガロ爺がエランを肩に乗せて上がっていく。
あ、勿論安全対策もバッチリだぞ。大型エスカレーターは、登りも降りもガラスのような透明な丸い壁で覆われているんだ。
俺達はゆっくり上がるエスカレーターで景色を楽しみ、そして終点のエスカレーター降り場に着くと……
「おー!こりゃすげえ!」
「グウグウー♪」
「まるで巨大な水槽の中じゃの」
「見事ですね……!」
俺達全員が声をあげてしまう程の光景だった建物内。壁は全て透明な厚みのあるガラスのため、そこから見える景色は圧巻。
海藻や木の根の間を泳ぐ色とりどりの魚達。雄大な姿で泳ぐ魔魚や魔鯨。湖面から注がれる光に浮かび上がる、珊瑚のように様々な形の岩の群生。
そして建物内もまた豪華だった。
白い壁に青の大理石が映える床。三階まで続く吹き抜けのロビーから空港内を温かく照らすシャンデリア。
ロビーはシックな焦茶で統一されて、調度品には繊細な細工がなされて高級感を醸し出している。
そんな、水中ターミナルの内部はこんな感じ。
[ルチェ・レーヴェン]空港ターミナルビル フロアマップ
1F 大型エスカレーター(空港←→湖底都市)
チケットカウンター
チケットロビー
手荷物受取所
到着ロビー
[フィトンチッドの雫]認証検査機
コインロッカー
男女別トイレ
水中レストラン(料理人募集中)
2F 個人/特別待合室
大テナント(空き3)
小テナント(空き3)
兵士詰め所
水中通路
事務所/会議室/スタッフルーム
男女別トイレ
来客用エレベーター(三階、五階のみ)
住民用エレベーター(四階ルチェガーデン直通)
3F 水中ホテル[ブルーメイル]
(フロント/ロビー/ラウンジ/宴会場/レストラン/一人用客室×10/二人用客室×10/スウィートルーム×5)
4F 湖上ルチェガーデン(住民専用)
5F 生命の樹出発ロビー/ラウンジ/搭乗待合室/男女別トイレ/ウィケットカウンター/屋上庭園
「お、やっぱりホテルあったか」
「グウグウグー!」
「タクト、リーフが屋上庭園行きたいそうだぞ?」
「わしゃ、ゆっくり休めるところならどこでもええわい」
一階のフロントでフロアマップを見つけた俺達が内部の確認をしていると、後ろから賑やかな声が聞こえてきた。
『なんて素晴らしいのでしょうか!水中のターミナルです!皆さん、このターミナルが[ルチェ・レーヴェン]の新たな名物スポットになる事間違いありません!さ、内部をしっかり見て行きましょう!』
ラスタ率いる王族と廷臣達の集団がターミナルに到着したらしい。どうやら空港に慣れているラスタが案内役になっているみたいだな。
心の中でラスタとチェックに頑張れと応援しながら、俺達は2階に上がり、そのままエレベーターで五階に向かう。
五階につき、エレベーターを降りて屋上庭園にそのまま向かう俺達。
屋上庭園に入るとすぐに目につく雄大な生命の樹。
傘のように屋上庭園一帯に枝葉を伸ばし、程よく光が照らす足元は花々や芝生が彩りを添え、道なりに白いウッドガセポが適所に設置されている癒しの空間が広がっていた。
庭園の周囲には安全柵も設けられ、その柵の向こうに広がる[ルチェガーデン]で笑顔で採取をする住民達の姿も見える。
庭園を気に入ったリーフはエランを背中に乗せて元気に走り周り、俺とガロ爺は[ルチェ・ガーデン]を見下ろせるベンチに腰掛けて景色を堪能する。
湖面を吹き付ける爽やかな風が葉を揺らし、サワサワと音を立てる生命の樹の囁きを聴きながら、俺はガロ爺に気になる事を尋ねていた。
「なあ、ガロ爺。なんで俺、リーフの声がわからないんだ?本契約すると聞こえるもんだとばかり思ってたんだけど」
後ろを振り返ると、当のリーフは花に顔を突っ込んでいる。
「そうじゃの……こればっかりはリーフ次第じゃとしか言いようがないのう」
「それって俺と話したくないって事か?」
「いんや、そうじゃなかろ。あれだけタクトに懐いておるんじゃ。むしろリーフに何か考えがあるんじゃろ」
「考えって……俺、リーフの声聞くの結構楽しみにしてたんだけど……」
「ほっほっほ、そりゃ残念じゃったの。……じゃが、儂にはタクトにだけ意思の疎通をしないのは、リーフにとっても辛く見えたがの」
「辛くって……リーフ、まだ俺に隠している事があるのか?」
「リーフ自身の事じゃと儂は思うがのぅ。……タクト、リーフの事を思うなら話してくれるのを待つ事も大事じゃて」
「待つ……かぁ。苦手なんだけどさ……」
ガロ爺の言葉を反復しながら、ルチェ・ガーデンの長閑な様子を眺めると、俺達に気づいた住民達が笑顔で大きく手を振ってきた。
俺は立ち上がって柵に手をかけ、大きく手を振りかえす。
すると、ルチェ・ガーデンにいるほとんどの住民が手を振りかえして俺のところまで笑い声が届いてきた。
「……待つ事ならアクア族が先輩なんだよなぁ。長い時を代々受け継ぎながらユウヤさんの事を俺に伝えてくれた」
「そうじゃのぅ。そういえばユウヤの能力がタクトに引き継がれたんじゃろう?使えそうかの?」
「ああ。万様と本契約した時にはっきりわかった。俺自体が変化したからなぁ」
「ほっほっほ。守り人は万物の樹と本契約をすると、不老になるからの。ユウヤもそうじゃった」
「うん、そうだったんだろうな。本来なら生きて会えていたかもしれないんだよなぁ……って、あれ?先代が枯れてなきゃ、俺呼ばれなかったよな?あ、でも万様が本体って……???あーーーー!わかんねー!」
「ほっほっほ。焦っていい事はないのぅ、タクトよ。いずれ明らかになるんじゃからの」
「そういうガロ爺こそ全部知っているんじゃん!教えてくれたっていいだろうが!」
「ほっほっほ。真実は自ら掴み取るもんじゃよ」
「だー!上手いこと言って!」
俺とガロ爺が騒ぎ出した為か、リーフとエランが俺達の下にきたんだけど……
「ほっほっほ。花粉まみれじゃの」
「え?うわぁ!!リーフ、こっち来んな!俺、花粉症持ってんだって!」
見事に黄色くなった顔のリーフを見て逃げ出す俺。
「グウグー♪」
嫌がる俺にトテトテと楽しそうに近づくリーフ。
そんな俺達を見て花粉を叩き落としながら、ガロ爺に近づくエラン。
「ガロ様。本契約した守り人は何か疾患にかかるものでしょうか?」
「ほっほっほ。なりゃせんのぅ。まあ、面白いからエランしばらく黙っておくんじゃぞ?」
「……ガロ様もお人が悪い」
呆れるエランにほっほっほと笑うガロ爺の目線の先には、リーフに捕まり叫ぶ俺。
花粉を擦りつけられながらもリーフと戯れる俺は、いつか必ずリーフから話してくれる事を信じて待つ事にした。
ーーーそれが意外にも早く訪れるとは知らずに。
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