第38話 青の王宮 ー継承の間ー 1
王宮でリーフが眠りに入った頃、守護隊の塔の応接室には来客があった。
「失礼します。守り人様とガロ様御一行をお迎えに参りました」
そう言って入室してきたのは、精悍な顔つきの大柄なアクア人だった。
(凄え筋肉……)
オロスでさえ筋肉質だと思ったのに更に上がいたとは、と俺が観察していると、その男は俺とガロ爺に向けて跪き挨拶をして来た。
「お初にお目にかかります守り人様。ガロ様に致しましてはお久しぶりでございます。私は、王族専属護衛のバッカスでございます。王宮にてリードミアキャット様が皆様をお待ちです。更に我が主主宰の歓待の席をご用意をさせて頂いております。宜しければこのまま王宮にお越し頂けますでしょうか?」
まっすぐ俺の目を見て話して来た事から、俺が守り人という事はこの国に入国した際に周知されているのだろう。
歓待の席はともかくリーフを迎えに行かないと、と思っていた俺達は、オロスに挨拶をし守護隊の塔を後にした。
「皆様、どうぞこちらへ」
塔を出た俺達のためにバッカスが用意したのは、王宮ゲスト専用の魔導モノレール。
客専用って勿体ないと思い、普段の移動に使わないのかと聞いたところ……
「アクア族は移動は液状化が主流じゃからのぅ。この街で乗り物を必要とするのは、客ぐらいなものじゃて」
とガロ爺が教えてくれた。
当然、街の住民は魔導モノレールが街中を走っていると、外から来客が来ている事を知る訳でーーー
「ガロ様ー!お久しぶりです!」
「守り人様ー!帰りの際、寄って行って下さい」
「お土産いっぱいご用意しておきますよー」
「王宮にカイギュウの肉差し入れしておきましたからー!」
「藻葡萄のワインも飲んで言って下さいねー!」
(凄え……もう街の住民達に知られてるよ……)
情報の伝達の速さに驚く俺達が乗る魔導モノレールには、街の住民から歓迎の様々な声がかけられる。
俺とガロ爺とエランは手を振って住民達に応えながら、賑やかで活気のある街並みを見ている横で、今度はバッカスさんに突撃しているラスタとチェック。
「バッカスさんは何歳ですか?」
「すっごい身体付きっすね。護衛みんなそんな感じですか?」
「バッカスさんは護衛を務めて何年目です?」
「結婚してます?独身ですか?」
「ズバリ王族の皆さんをどう思いますか?」
「この街のいい所は?」
二人から矢継ぎ早に飛んでくる質問に、さすがのバッカスさんもタジタジになって、目線で俺達に助けを要請する一幕もあった。
(ラスタとチェックの度胸の良さは報道向きだよなぁ……)
仲間とはいえあの二人に取材される人達に同情しているうちに、魔導モノレールは王宮の入り口へ到着した。
「それでは、ご案内致します」
魔導モノレールから降りやっと取材から解放されたバッカスが先頭になり、王宮の通路を歩いていく俺達。
「はー……すごい凝った作りですね」
「なんか一つ一つ職人の技って感じだよなぁ」
今度は王宮の内部の観察に入った二人が言うように、青い壁自体に細かい装飾が施され、ところどころの金の装飾がいいアクセントになり、王宮の雰囲気は神殿のように感じられた。
そんな中、隣を歩くガロ爺が俺に話かけてきた。
「どうしたんじゃ、タクト。さっきから随分静かじゃが」
ガロ爺と同じようにエランも思っていたらしい。
「普段のタクトなら、こんなすごい建物の内部を口を開けてキョロキョロしそうなものだけどな」
俺の肩の上で珍しく俺を揶揄うエラン。
(まあ、今更この二人に隠さなくてもいいんだけどさ……)
大方俺の気が紛れる様に声をかけて来てくれた二人に感謝しつつ、苦笑いで俺の感じていたことを話し出す。
「いや、まあ……先代の守り人がいた事にも驚いたばっかりだったってのに、その先代が残したであろうこの街が凄すぎてさ……気後れしてると言うか、比較されたら敵わないと言うか、知るのが怖いと言うか……さ」
頭をぽりぽり掻きながら、まとめきれない俺の気持ちを言葉に出すと、ポンポンと優しく俺の肩を叩くエラン。
「……タクトは、不安なんだな」
言い当てられた俺は、「……まあな」と少し不貞腐れてしまったが、その様子にほっほっほといつもの呑気な調子のガロ爺が俺の腰を叩きながら力強い言葉をくれる。
「タクトはタクトじゃて。同じ立場の先代がいようと、人は皆同じではないんじゃ。
不安じゃったら頼れば良い。迷ったら尋ねれば良い。そうしているうちに振り返ると結果はついてきおる。
タクトはタクトらしく一つ一つ丁寧に向き合っていけば良いじゃろ。……差し当たって、まずは彼奴を受け止めてやるが良い」
ガロ爺が言ったとほぼ同時に俺の胸もとに、走って飛びついて来た俺の相棒。
「ググウっ!グーウゥッ!」
「タクト。リーフが『遅い』と言ってるぞ」
「悪い悪い。これでもすぐ追って来たんだぞ、リーフ」
グリグリと俺の胸に顔を擦り付けてくるリーフの言葉を、笑いながら通訳するエラン。
リーフを撫でながら言い訳する俺は、ほんのちょっとの間でリーフの頭の上の葉っぱが元気になっているのに気づく。
「リーフ?なんかいい事あったか?葉っぱが元気になってるぞ?」
「ググウグーウ!」
「後ですぐわかるそうだ。それよりタクト、さっきから人を待たせているみたいだぞ?」
胸元で嬉しそうにしているリーフの通訳をしながら、俺に前を向く様に促すエラン。
顔を上げると、前方で微笑む若い青年の後ろにバッカスが控えて立っていた。
(……と言う事はこの人が王太子か)
「やはり、リードミアキャット様の表情が違うものですね」
クスクスと笑いながらも、すぐにスッと表情を変えて俺の前に跪き挨拶をする王太子。
「ご無礼を失礼致しました。私はこの国の王太子のジョシュ・ブルーメイルと申します。早速ですが、守り人様御一行を王が挨拶をさせて頂きたいと申し出ております。宜しければ、このまま謁見の間にお越し頂けないでしょうか?」
俺はここでも跪かれるのか……と半ば諦めて、このままの格好で良いのか確認する。
「勿論です」と顔を上げたジョシュ王太子。今度は先頭を王太子が歩き、辿り着いたのは……
兵士が左右で守る、大きな樹のレリーフが刻まれた扉の前。
内側から扉が開き、中に入ると……
天井から降り注ぐ光に溢れた青の荘厳な雰囲気の空間。
床に敷かれている赤い絨毯の先には、立派な王座の前で立ち上がって俺達を迎える王冠を被った威厳漂う男性の姿。
「ほっほっほ、ルネード。元気そうじゃの」
「ガロ爺!久しぶりだ!其方も相変わらず元気そうだな。……そしてようこそおいで下さった、今代の守り人タクト様御一行よ。リードミアキャット様には、ご無礼をお許し願いたい。何よりも待ち侘びていた方がいるのでな」
そう言ったルネード王が挨拶もそこそこに、王座の後ろにある大扉を開けさせると……
建物の中にも関わらず天井が水面になって光が注がれる部屋の中心に、一人の青年の姿があった。
「……グーウゥ」
「久しぶりのユウトの姿じゃ……」
即座に反応したのはリーフとガロ爺。
リーフは真っ直ぐに、ガロ爺は少し目に涙を溜めて見つめていたのは、黒い短髪に日本人らしい平坦な顔、目は糸目で背格好は大学生ぐらいの青年。
「ホログラム……か?」
そう俺が呟いたように、台座にある開いたコンパスガイドの青い画面に、彼は微笑んだ姿で映されていた。
ーーーこの時の俺は、彼が亡くなった当時の姿で映し出されている事は知らなかったーー
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