グシェール湖編

第33話 魔導ポッツで新たなエリアへ

  「歌う花じゃなかった……」


 これを言ったのはラスタ。それを聞いて、俺は一瞬地球であった踊るひまわりを思い出したけど、ラスタいわく成長して歌って踊る魔物避け植物だと思ったらしい。


 ある種ユニークなラスタの感性に笑いながらも、成長が入っているからワイン一本はいいかと思ったら……

 

 「移動太陽じゃなかった……」


 これはチェック。夜間移動の際役立つ照明として、俺達の側を離れない魔導光源の元だと思ったらしい。


 こっちはこっちで移動が入っているから、これもほぼ考えとしては良い。しかも魔導具オタクらしい考えで俺は好きだなぁ。


 「二人共ワイン一本な。今日の夜でもフォーから受け取ってくれ」


 「やった!タクト様やっさしー!」


 「いや、これ正解するの無理でしょうよ……」


 俺の言葉に素直に喜ぶラスタと、正解を目の前にして引いているチェック。


 今は【ギア・エアポートガレージ】を唱えてガレージの中に全員で入り、正解を見せているところなんだけどさ。


 「まあ、確かに魔導乗用カートが魔導ポッツになるとは思ってなかったよなぁ……」


 「「魔道ぽっつ?」」


 「なんじゃ?」「グウ?」


 俺の言葉に皆が首を傾げるが、俺だって本物は見た事はないからなぁ。


 そう、今ガレージ内にあるのは、某英国空港で使用されている丸い長方形フォルムの自律運転車両だ。


 「あー、俺のいた世界での乗り物だな。だけど、これ万様仕様に設定したからそれ以上の性能になっていると思うけどさ」


 「グウ!グーグ‼︎」


 「ほれほれ、タクト。リーフが中を早く見たいと言っておるぞ」


 「ハッ!チェック!リポート開始よ!」


 「……!了解!」


 外で俺の説明を聞くより実際に中を見たいと訴える皆に急かされて、俺も魔道ポッツの入り口開閉ボタンを押すと……


 「おおー、中意外に広いじゃん」


 天井は俺が立って手を伸ばしてもつかない高さで、広さも車両なだけあってそこそこ広い。


 ただ、運転は俺専用だな。コンパスガイドをセットしなきゃいけないし、俺のスキル【エアファスト】MP1,000と【エアバブル】MP2,000が必要になるらしい。


 後部座席は一人用シートが4座席。真ん中に通路があって、折りたたみ椅子もあるから最大7人乗りだな。


 特徴的なものは両サイドの大型窓だ。勿論外から内部が見えなかったからマジックミラー式なんだろう。


 そして、後方部には個室水洗トイレとリーフが一押しした魔道ドリンクバー(アイスコーヒー/コーラ/オレンジ/カルピス)がある。おかげで追加MP5000もっていかれたけどさ。


 攻撃も魔道乗用カートと一緒で勿論可能。でも【エアバブル】で基本魔法攻撃や物理攻撃も跳ね飛ばすらしい。


 (これ、すげえな……!水中だろうとマグマの中だろうとどこでもみんなを連れて行ける……!)


 そう思ったらやっぱり試運転したくなったんだよ。


 中を取材中のラスタとチェックも一旦中止させて、魔道ドリンクバーでジュースを飲んでいるリーフも座らせて、コンパスガイドの横にある起動ボタンを押すと……


 ブオンッ……と音を一瞬出しスゥッと空中に浮かぶ魔道ポッツ。


 後ろからは歓声と共に『皆さん!こんなに静かでこんなに快適な乗り物はあったでしょうか⁉︎いえ、ありません!』とラスタのリポートが聞こえてくる。


 因みに、ガロ爺は快適なシートを後ろに倒して既に熟睡中。


 ラスタと共にはしゃぐリーフと撮影に徹するチェック、熟睡中のガロ爺と俺を乗せた魔導ポッツで、【ギア・メインポート】の門を潜り外に出る。


 「あ、やべ!」


 そういえば最後はウーグラフの屋敷の応接室だった、と俺が思いだした時には、屋敷の壁を壊して街の上空に出ていた魔道ポッツ。


 後ろには唖然としたウーグラフとジュードやメイドさん達の顔があったが……仕方ないだろう。


 門はサイズは自動調節型だが、流石にウーグラフの屋敷はそうもいかない。


 (後で埋め合わせしなくちゃな……)


 反省しつつ街の上空を飛び、緑のドームも難なくすり抜けて久しぶりに街の外へ出た俺達。


 『素晴らしい!この揺れのなさ!音の静かさ!この性能!旅の移動の常識が変わった瞬間です!』


 ラスタの興奮ぶりがわかるリポートを聴きながら、どうせなら少し移動するかと思いコンパスガイドの青の磁針にそって移動すると……


 「おおおおっ⁉︎」


 俺がつい叫んでしまう速さで進む魔導ポッツ。


 『速い速い!なんという速さでしょう!下の景色が線のように流れていきます!』


 ラスタが早いというのも当然。【エアファスト】は最大時速360km。ちょっと早くと思ったのが110kmは出ていたんだ。


 しかも、上空で飛んでいた鳥系魔物も跳ね飛ばしながら進むんだぜ。時折ガッ!ゴッ!と音はするものの、揺れもせずまっすぐ進むんだ。


 おかげで出発は明日のつもりが、もう次の目的地についてしまったらしい。


 急停止をした魔導ポッツの下には広大な湖が広がっていて、コンパスガイドの青磁針はこの下を差している。


 『なんと!皆さん、私達はもうグシェール湖上空にいます!そうです!街から馬車で三ヶ月はかかるであろうグシェール湖ですよ⁉︎』


 ここはラスタ達も知っている湖だったらしく、湖の名称はわかったもののまだ磁針は真下を向いているため、とりあえず湖畔に向かい魔導ポッツを着陸させる。


 すると、運転席に青画面が表示され湖の詳細が提示されたんだ。


 『[グシェール湖]

 ルーメリアの森の次に大きな広さを持つ湖。別名 碧の古代都市。湖底に空気が存在する大型スポットが存在し、そこに都を作ったのが先代の守り人と言われている。湖底都市の住民は体が水と一体化出来るアクア族が大半だが、多種族も住んでいたらしい。噂ではここが失われた先代の万物の樹が存在する場所と言われている神秘な湖』


 『[アクア族]

 陸では人型、水中では液体化する水陸両生種族。人族、獣人族の水上の足として活躍していた時代もあったが、現在は姿を現す事すら稀。絶滅した種族とも噂されている』


 (おいおいおい……!これまた微妙に爆弾情報じゃないか……!)


 俺が情報に驚いていると、後ろではガロ爺が起きたらしい。呑気に笑い、ラスタと会話する声が聞こえる。


 「ほっほっほ。なんとまあ、ここまで来ておったとはのぅ」


 『ガロ様!グシェール湖の湖底にあるのですよね!あの碧の古代都市と言われる幻の都市は‼︎』


 すっかりリポーターと化したラスタにマイクを向けられるガロ爺。


 「ほっほっほ。そうじゃのう」


 『やはり、アクア族は絶滅していなかったのですね⁉︎』


 「儂、ちゃんと会っておるからのぅ。ありゃいつだったか……?」


 『ガロ様?また我らに何か隠しておりませんか?』


 「ほっほっほっほ。タクトや、今日はこのまま戻らんか?」


 『あ、やっぱり!この件は皆さん追って情報をお伝えします!現場からは以上です!』


 ラスタの問いには答えず、俺に戻る事を提案するガロ爺。ラスタとチェックは撮影を一旦中断。ガロ爺に色々質問しているが、ガロ爺はほっほっほと笑っているだけで答えない様子。


 (あれ?そういえばリーフ静かだな?)


 そう思って後ろを振り返ると、湖が見える窓にリーフがぺったり張り付いて見ている。


 「リーフ?どした?」


 「……グゥゥ……」


 珍しく切ない鳴き声をあげるリーフ。


 しかしそれも一瞬で、ハッと俺の声に気付き「グウ?」といつもの調子に戻ったリーフに、理由は聞かなかったがやはりここには何かあると思った俺。


 それでもガロ爺やリーフが通常通り振る舞う姿に、一旦【ギア・メインポート】を唱え、門を出してそのまま魔導ポッツで万様エリアに戻った俺達。


 シュンとグシェール湖の湖畔から門が消える前に、水紋が見えた気がしたのは俺の見間違いかもしれないけど……


 エバーグリーン邸に戻ったら戻ったで、応接室で待っていたウーグラフ。


 「……タクトよ。何か言う事はあるか?」


 「はい!すみませんでした……!」


 「ふむ?」


 「はいいい!補修を手伝います‼︎ 」


 「……はぁ……全く。出来たら補修員達に酒でも差し入れしてやってくれ」


 「畏まりましたぁ!」


 という一幕があり、ラスタ達にしっかり映像に収められていた俺。


 「これはもう周知の事実ですからね!本日のトップニュースで流しますよ!」


 「ああ……もう、なんとでもしてくれ……」


 流石にアレは悪かったと思って反省していた俺の姿は、グシェール湖到着という華々しいテロップの裏側として放映された。


 そして次の日ーーーー


 一日中補修の手伝いをしていると、その映像を見た街の住人達が笑いながら差し入れや手伝いに来てくれたおかげで、ウーグラフの屋敷は一日で補修が終了。


 俺は少しドジな守り人として、フォレストドワーフ達に認識される事となった。


 結局、筋肉痛もあり次の日は休みの日として、ゆったり温泉に浸かった俺とちゃっかりリーフ。


 リーフといえば、あの湖を見た後、何故か俺の後をちょこちょこついて離れなくなった。


 そのリーフの姿を、ガロ爺がただ黙って見ていたのが印象的だったんだよなぁ……

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