デラトリア火山編
第44話 獣人達の生きる道
ルチェ・レーヴェンでの引き継ぎも終わり、コラルド人達とフォレストドワーフ達の会合が近づく中、俺達はゆっくり次の目的地まで魔導ポッツで進んでいたーー
「現在画像度良好、音声、音質共に問題なし!」
「流石うちが誇る魔導具師ヴェル!まさか移動中にも映像通信出来るようになるとは!」
『ヴェルの下にもアクア族が弟子入りし、人手が増え資材が手に入りやすくなったのは大きいそうです』
進行中の魔導ポッツの後部で騒いでいるラスタとチェック。遠隔通信機能付き魔導TVと魔導カメラを繋いで、現在、万物の樹空港報道局にいるハガネと通信中。
その横でシュッと開いた自動扉から出てきたのは……
「出来たっすよー!今日は苔ニンニクたっぷり、ルチェ野菜たっぷりのペペロンチーノで攻めてみたっす。早く来ないとリーフ様に全部喰われちまうっすよ〜」
そう、ミニコロボックルの料理人クーパーが加わっている。その理由は……
「ほっほっほ。移動中に食事もできるとはのう」
「二両編成になって、キッチンダイニングがついたのは大きいですね」
匂いに釣られて座席から立つガロ爺と、最近はガロ爺の肩に良く乗っているエランが二両目に移動していく。
実は、最近また万様から黄色の種(進化の種)を貰ったんだ。今回も使えるのはエアポートガレージだったけどさ。
まあやってみたら魔導ポッツが縦長になっていて、内装がこんな感じになってたんだ。
[魔導大型ポッツ]
一両目 運転席
座席(9人乗り)
トイレ/多目的スペース
二両目 キッチンダイニング
ドリンクバー
魔導食糧庫
緊急避難扉
因みに緊急避難扉は、乗員なら誰でも使用可能なんだ。行き先は万物の樹エリアの本拠地エバーグリーンに帰還可能なんだぜ。一日一回限定だけど。
安全性と機能性と快適性が向上した機内。
俺も運転を自動運転に切り替えて後部車両に向かうと、すでに山盛りのパスタをガツガツ食べているリーフと、負けずに食べ始めるラスタとチェックの姿があった。
「うめ〜!何これ!」
「ググーウ♪」
「美味し〜!」
チェックが叫び、頬にたっぷりパスタを詰め込んだリーフとラスタが同意している姿に、食べながらよく話せるもんだ、と感心しながら俺も席に着く。
「ほっほっほ、ええのぅ。移動中に出来立てが食えるんじゃから」
「それでなくともクーパーの料理は絶品ですよ」
しっかり自分達の分をとりわけているガロ爺とエランに「追加すぐ出来るっすよー」と器用にミニコロボックルでも使える調理器具の魔導フライパンと魔導トングを使って料理をしているクーパー。
確かにニンニクの匂いって腹が減るんだよなぁ。
腹がぐうっと鳴った俺も、さっさと自分の皿にとりわけ口にする。
クーパーに「うまっ!」とサムズアップをしながら、進路上に見えた山について話題にする。
「そういえば、遠くに煙を噴いている山が見えたんだけどさ。進路からするとそっちの方向に進むみたいなんだ。あの山って活火山だよなぁ」
ズルズルパスタを食べながら皆に話かけると、即座に反応したのはチェック。
「えーとこの辺で言うと、デラトリア火山ですね」
「……てことは獣人領に入るわね。確か、デラトリア火山の手前に竜人族の街があるんです。竜人は戦闘能力が高い種族……いきなり戦う事はないと思うけど……」
チェックの補足情報を伝えるラスタに、俺は正直(来たか……)と身構える。
「彼奴らは基本何もせんと戦わん。だが、タクトは念の為フードを被っていた方がいいじゃろ。竜人領には色んな種族がおるからのぅ」
「多種族が多いのも竜人領の特徴でしたね」
ガロ爺もエランも補足情報を伝えてくれるが、俺としては気が重い……
「大丈夫っすよ。肩にリーフ様乗っけとけば……と言うか寄らなきゃいけないっすか?」
少し俺の表情が暗くなったのを見て、対策を教えてくれたクーパーがそもそも通り過ぎればいいと提案してくるが……
「……残念な事にどうも磁針が山の手前で止まっているんだ。やっぱり街があったか……」
人間の街よりはいいか……と頭を抱える俺を見て、ガロ爺が安心せい、と声をかけてくる。
「竜人達を始め獣人も万物の樹を慕っておる。タクトが守り人と分かれば大丈夫じゃろ。何よりリーフがおるでの」
「ん?リーフがいると何なんだ?」
「リードミアキャットは万物の使い。獣人達にとっては羨望の的じゃ。そのリーフがタクトに懐いているとなればそうそういざこざは起こらんて。……違う意味で騒動にはなるかもしれんがのぅ」
「あー……特に竜人がタクトとリーフを囲いかねませんね……」
「あー……そっすね」
ガロ爺とエランが何やら不安になる事を言う中、それに同意するクーパーに俺は首を傾げる。
そこに「ハイハイ!」と手を挙げて身を乗り出すラスタ。
「それって、二千年前に竜人族が真っ先に人間に手を出した事と関係ありますよね?」
「確か竜人族は万物の樹の『剣』としての自負が強かったとか……先代の万物の樹が存在した当時も、他の獣人や人間達の間で尊大な態度をとっていたらしいですね」
流石は報道局の二人。チェックがラスタの言葉の後に俺に情報をくれる。
「忠義心は強いんじゃがの……少々融通がきかんのじゃ」
困ったように苦笑するガロ爺に、俺は余計に混乱する。
「え“?俺、どうすりゃいいの?って言うかリーフも知られたらやばいじゃん」
「ググウ……」
「正直、ここはアクア族に情報を貰いたいの」
「ハイッ!早速、我が報道局が役立ちますね!お任せあれ!チェック!」
「はいよ」
困る俺とリーフの様子に、アクア族を先発隊に提案するガロ爺。ガロ爺の言葉に嬉しそうに即座に反応するラスタと、口いっぱいにパスタを詰め込み席を立つチェックは流石行動が早い。
(こう言う時って仲間が頼りになるよなぁ)
とりあえずは情報集めて貰ってからだな、と肩の力を抜いた俺。
一方、竜人国ハジャフールの街ではーーーーー
今日も獣人達の活気ある商店街で竜人の兵士達が巡回に勤しむ中、ある屋台の店舗ではこんな会話がなされていた。
「なあ、聞いたか?フォレストドワーフの街の件」
「ああ、グリーンドームが出来てたって事か?」
「それそれ。しかもコラルド人との会合を持つって事も知ってるか?」
「はあ?あの頑固なフォレストドワーフがか?何でまた?」
「グリーンドームにしろコラルド人にしろ、どうやら万物の樹が関係してる事は確定しているが、それを知ったうちのお偉方が怒りまくってなぁ……」
「……ああ、万物の樹の『剣』として1番に知る事ができなかった事だろう?正直順番なんてどうでもいいが……まさか乗り込もうとしているとはなぁ」
「人間達相手だけでも面倒だってのに、わざわざフォレストドワーフに向かっていくのが分からん。ドワーフの奴らも同族だろうに」
「いや、こう言っちゃ悪いが……竜人族戦いすぎて感覚狂ってるんじゃねえか?」
「下手に出て、聞きゃあいいだけなのに……」
「まあ、俺らもそんな竜人様に保護して貰っている身分だからなぁ……」
「ああ、草食獣人の辛いところだよなぁ」
「他の獣人もそれぞれ頑張っているが、繁殖の面では人間に負けてるからな。奴らは数で押してくる」
「ああ、そうなると獣人の領域が押しやられるんだよなぁ。俺達だってもっと良い土地に住みたいのに」
「此処はまだ良い方からな。温泉は湧くし、守ってもらえるし」
「税金は高いがな」
「後戦いが絶えないが……」
「噴火も度々あるが……生きる為には仕方ねえよ」
「とはいえ、何とかならねえもんか……」
ため息を吐きながらもこれが日常。
屋台の主人と客は、巡回している竜人の兵士に愛想を振り撒きながら、今日もまた高い税金を払う為に仕事に戻っていくーーー
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