第26話 体育大会 前編2
無事耳を痛めた俺は団席に戻る。
途中何故か奇異の目で見られたが、嫌われているのだからそういうこともあると思い、特に気にせず次のプログラムを確認する。
次は台風の目か。
この学校における台風の目は1年生全員が参加するらしい。
どうりで斜め前が静かなわけである。
水筒の麦茶を飲んでから、団席の前に向かう。
団リーダーなので応援をする必要があるのだ。
応援するときは白虎などという大それた名前ではなく、普通に色団としての名前の白団で応援するらしい。
ならもう白団でいいだろ。
何でわざわざ白虎団っていう名前にした?
そこに微妙なダサさを感じてしまう。
さっきからずっと
「行けっ行けっ…」「押せっ押せっ…」
と言っているので俺もそれに合わせてとりあえず同じことを言っている。
こういうのを巷では行け押せコールというらしい。
全く持って謎である。
行けと押せでなぜ応援になるのだろうか?
行けはまだ分かる。頑張れと同意だ。
でも押せがわからない。
…とにかくただのノリみたいなものなんだろう。
そう思って無理やり納得した。
次は3年生全員が参加する大縄跳びであるが、その次に自分が参加する競技の騎馬戦が控えているので待機場所に行く。
嫌われ者の俺はもちろん下である。
上の人は裸足にならないといけないので可哀相だが、頑張れというほかない。
そもそも俺自体の騎馬の組が余り物で出来たところなので、あまりやる気も起きない。
いいことを思いついた。
要は大将のハチマキを取られなければいい話である。
それならば俺たちの騎馬は障害物になればいいだけの話である。
どうしてこんなことにも気づけなかったのだろう。
よく考えればわかる内容である。
「椎名じゃんか、よし退場させてやる」
「桐山!?旋回!早急に!お前なんかに取られてたまるかよ。」
試合が始まって早々桐山の騎馬が単騎で乗り込んできた。
それでも俺たちは壁としての役目はせめて果たさなければならない。
桐山なんかにこの布陣を崩されるわけにはいかないのだ。
「往生際が悪いぞ椎名!さっさとあきらめろー!」
「足手まといになったら、そもそも合わせる顔がないのにもっと状況が悪化するじゃないか。そんなのは耐えられない!だからそっちがあきらめろ!」
結局は俺たちの騎馬と桐山らの騎馬は勝負がつかずその競技は終了した。
どうやら、藤室の騎馬が相手の大将のハチマキをとったらしい。
本当に藤室って何から何までがイケメンだよなあ。
物語のすぐに負けるザコのようなセリフを吐いていた桐山とただのクズ発言をしてた俺とは大違いである。
それこそまさに住む世界が違うというものだろう。
「椎名お前たちの騎馬が桐山を防いでくれて助かった。おかげで安心して特攻できたよ。」
「いや、それは言いすぎだろ。第一お前らの騎馬が無ければあのまま押し切られて負けてたぞ?もっと自分を褒めてやれ藤室。」
「わかったさ。でも椎名って本当に優しいんだな。」
「お前に言われてもイヤミにしか聞こえませーン」
「お褒めの言葉として預かっておくよ」
(まじかよこいつイケメンかよ。あ〜そうだった早川先生という特異点のせいで薄れていたが、こいつ完璧イケメンだったわ)
「つーか藤室って彼女いんの?」
「え?いないけど急にどうした?流石に俺は男には興味ないぞ」
「いや、そういう意味じゃないんだが。そっか藤室が完璧リア充じゃなくてよかった。」
「褒められている気はしないが…とりあえずありがとう」
「てか次の競技何だっけ?」
「えーっと確かちょっと待って、タイヤ引きっぽいぞ。この次は借り物競争か。すまん、俺並びにいかないと。」
「了解、幸い団長いるし団席前でリーダーシップ張らなくていいからな。普通に応援してるわ。絶対に勝てよ?」
「そこまで期待されると流石の俺もプレッシャーかな。できる限りはやるさ。」
「頑張れ」
タイヤ取りが始まったみたいである。別名バーゲンセールと呼ばれるこの競技はまさに女子の醜い争いを体現したようなゲームだった。そんな中、舞山は必死になっている他の女子をよそに悠長に笑いながら俺の名前を呼んだ。
「ゆうセンパーイ。タイヤ取りましたよ〜」
全校生徒の目の前で。
流石に無視するわけにもいかなかったので軽く手を振った。
______________
他の3年の応援リーダーは借り物競争が終わったあとの競技である障害物走かそれの担当の係だったりして誰もいなくなった。
結局俺がリーダーシップを張る羽目になったのである。
俺のことを嫌っている団を応援するのはやはり癪ではある。
俺は自分の団ではなく、藤室の主人公ムーブを見せて欲しいという個人的な願望だけを乗せて、団の名前を懸命に叫んだ。
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