第45話 ドン引き
『本当に本当だからね?ね?』
美咲が分かりきったことを顔を赤くしながらすっごい声量で告げてきた。
しかも2回も。
「ああ。分かってるって。でもさ〜そこまで怒られると流石の俺でも泣くよ?いいの?誰も男の涙なんて見たくないでしょ?」
これはあれだ。
ゆう君と間接キスしようとするとか常識的に無理でしょ。とか、キモくて無理。とかそういう意味だろう。
いやそうに違いない。
でなければあんなに顔を真っ赤にするほど俺を怒るはずがないのである。
(にしてもあそこまで怒らなくていいだろ。結構傷ついたんだが?普通の友達ならもっとドライに無理とか言うだろ?俺に対してあんなに必死迫って怒るとか相当嫌だったに違いない。これって泣いていいよね?)
それはともかく、なぜ場の空気がかなり気まずい。
一部は俺に対してドン引きしているようにも思えた。
なにゆえドン引きしてきたのかは知らない。
トイレ行ったときから社会の扉が開けっ放しだったか?と思い下を確認したがそんなこともない。
(俺ははっきり言ってドン引きされるようなことも、場の雰囲気を悪くさせるようなことも言ってな…あっ泣くって言ったわ。
もしかしてこれか?これだけでこんな雰囲気悪くなるの?半分冗談だぞ。流石に分かるだろ。え?本当にそれだけ?でもそれしか心当たりがない。)
全員が全員(副会長らしき人を除く)それぞれ表情は違えど、俺に対して「それはないでしょ」とでも告げるような表情で見てくる。
その中でも特に響也はすごく複雑な顔をしていた。
「お前な〜今ので分からなかったのか?」
「え?俺の泣く宣言にみんなが引いたこと?」
『椎名さんって鈍いってよく言われません?』
「鈍い?俺みんなが気づいていないストーカーに気づくくらいだぞ?勘は冴えてる。確信が持てるな。」
『その確信捨てて下さい。絶対にいらないよ。』
「そうですね。捨てたほうがいいと思います。今の彼女の言動や表情を見れば分かりますよね?よく鈍感と言われる私でもわかったのですから、流石にそれはないと思います。」
「それは確かに…だってどう考えても舞山は椎名のこ…ぐはっ」
『それ以上は怒るよ?』
「はい。すいません。」
何か似たような光景があった気がする。これがデジャブというやつなのだろうか。
「きっ桐山君は置いといて、あっあれは、流石ににっ鈍いって、言われ、て、ても、し、仕方ないよ…」
みんな揃って俺を責める。
かといって俺には思い当たる節が泣く宣言以外にはない。
でも雰囲気的にそれが理由じゃないことは何となく察した。
こういうときは正直に聞こう。
以前、バイトの先輩に言われたことがある。
「わからないなら聞いてからやれ。聞かれずに失敗されるよりはマシだ」、と。
だから今回はそれに従うことにした。
「本当にごめん。何も心当たりがない。普通に分からないから教えて欲しい。」
「お前、本当に鈍いんだな。それが言えないからこう遠回しに行ってるんじゃないか。」
「はあ。頭は良くても、バカだったみたいですね。」
『まあまあ、それぐらいにしとこうよ…ごめんね、私でも少しかばうのはきつそうだよ…』
今思い出したことがある。
以前、バイトの先輩に言われたとおりに分からないところを聞いたことがあった。
「どうして君はいちいちやり方を聞いてくるんだよ。言われなくてもやれって親に言われなかった?」
その時はこんなふうに言われた。
つまりあの状況で詰みだったのである。
「本当にそれで良く過ごせてこれたな?」
「どういう意味だよ。もっとはっきり伝えて欲しいんですけど?」
「それが無理だって言ったよ?だからフワッと伝えてるんだよ。」
全然良くわからない。
これが現代文のテストだったら解けるのにな…
結局響也の言葉の意味を理解できないままぶらぶらしてるうちに、既に9時20分になっていた。
「よし!映画館行くか!」
「お前もっと萎らしい態度とかできないのか?」
「え?過ぎたことじゃないの?」
「さっきからずっと舞山気にしてるぞさっきのこと。色んな意味で。」
『あ…いいよ、全然。本当に全然気にしてないから… 強いて言うなら自信がなくなっただけで…』
(え?なにそれ?めっちゃ気にしてんじゃん。めちゃくちゃ申し訳ない。でも原因が分からないんだよな…)
「それで、どうして自身なくなったのか教えてくれるか?俺には分からなかった。改善点とかあればいって欲しいし、それに…」
『言えない。』
「え?どうして?もしかして過去のトラウマとかそういうの刺激しちゃったりした?」
『んーん違う。そうじゃないけど言えない。』
「なら俺は…」
『別に大丈夫。今回は不意打ちだったけど次はちゃんとするから。』
「不意打ち?」
『え?あ。何でも…ないから〜 ほら映画館行く時間だよ!行こっ!』
本当にさっきから何なのだろうか。
許してくれたと思ったら急に怒るし。
感情がコロコロ変わり過ぎじゃないか?
本当に女心は難しい。父の言っていた通りだ。
全員(副会長(仮)を除く)から白い目で見られる中、俺はトボトボと映画館に向かうみんなの後ろを歩き始めた。
ちなみに関係ない話だが副会長らしき人はこの状況の中で、ずっと手鏡を見ながら頬を紅潮させていた。
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