第46話 映画の前に





 結局のところ、美咲がどう思っていたのかは分からず終いであった。

 やはり怒っていたのだろうか。

 はたまた違うことを思っていたのか。


 考えても一ミリもわからない。

 ただ、俺には言えないってことは分かった。

 そういってたしな。逆にそれしか分からなかったともいう。


 それにほかのみんなの俺に対する視線も痛い。

 これでは警戒していてもストーカーの視線に警戒できない。

 

『もうそろそろ映画館だね~』


「そういえば内容聞いてなかったな。どんな話なんだよ。」


『普通に定番のやつだよ?ほら有名なゾンビ映画の新作って言ったらわかる?』


「あーあれか。俺前作見てないんだよね~まーいっか」


 別に俺はネタバレとかされても平気なタイプだ。別に順番が前後したところで問題ない。


『ゆう君がいいならいいや。』


「そういえば俺以外はみんなシリーズ見たの?」


『私が見せた!エッヘン!』


 俺が生徒会に入っていなかったというだけでここまでハブられるみたいな感じになっていたなんて正直ショックである。


__________________



『着いた~!桐山君頼んだ!』


「了解、了解。…憧斗先輩、全員分のチケット買ってきてくださいお願いできますよね?」


「はい…」


 随分しおらしいな。副会長らしき人のテンションがだだ下がりしているのがよく分かる。

 ついさっきまで手鏡に自分自身を写してイタイ発言をしながら、頬を紅潮させていた変態だったとは思えないほどの変わりようである。


『さ~てと。みんなは何食べる?私は無難にキャラメルポップコーンだよ!』


「俺は飲み物だけでいいよ。映画に集中したいからね。」


「ぼっ僕もえっと響也くんと、同じだよ?」


 響也と斉坂さんはこの作品をかなりガチで見る気のようだ。

 どうせいつか再放送にでもなるのでそこまで集中してみる必要もないと思った。

 しかし劇場で見るのと、録画された映像を見るのでは大きく違うのだろう。

 少なくとも彼らにとってはきっと劇場で映画を見ることに何か特別な価値があるのだろう。


「私はポップコーンを頼みます。キャラメルがいいですね。」


『私もポップコーン欲しいです。味は塩がいいかな。後味よさそうですから。」


「あ、それなら俺もそうするわ。椎名はどうだ?」


「桐山と同じやつでお願いできるか。」


『うんじゃあ、ゆう君一緒に買いに行こ!桐山君もついてきてよ?流石に二人じゃ持ちきれないだろうからね。わかった?』


「あ~面倒くせ~ 椎名一人でできるんじゃないか?俺やだっ。」


「…桐山。何を言っても無駄なんだ。諦めよう。な?」


「え~イヤだ~やりたくない~」


「それ俺の真似か?さすがに怒るぞ?」


「ゴメンって。行けばいいんでしょ。行けば。」


『二人共!立ち止まってないで早くこっち来てよ~』


「ふぅ、それじゃ行くか桐山。ごねたって今朝の二の舞だぞ?」


「桐山。俺も一緒に行くからさ。早く行こうな?」


 久しぶりに響也のイケメンっぷりを目の当たりにした。

 やはり主人公属性は違うな~と思わされる。

…主人公属性、、羨ましい。


『えっと何頼むんだっけ?飲み物は全員前に鑑賞会したときに飲んだのでいいよね。で、藤室くんと斉坂先輩はほかになしで、私がポップコーンのキャラメルでしょ。星加会長も同じで~、ゆう君と桐山君、うた先輩は塩味と。これであってるよね?』


「多分合ってる。」


 それにしても前の鑑賞会に飲んだ飲み物って何なのだろうか。

 コーヒーはやめてほしい。

 正直言って苦くて飲めない。

 どうにもコーヒーは無理だ。あの苦みには耐えられない。

 別にお子ちゃま舌な訳ではない。紅茶は飲めるのだから。

 お子ちゃま舌とは言わないはずだ。え?そうだよな?


「ちなみに前飲んだってドリンクって何?」


『え?もしかしてゆう君炭酸苦手だった?おこちゃま舌なのかな~?』


「いや、それならいい。問題ないから。」


『ふ~ん…ならいいけど。』


_________


「このポップコーン大きくないか?さすがにキツイって。こんな食うのかよお前ら……」


「いつもこの量だが?」


『そうだよ~?これが普通じゃないの?』


「小バケツ一杯分は多くね?みんな感覚バグってんンの?え?もしかして俺が変?」


「大丈夫だよ。俺はいつも多い気がしてたから今回もパスしたんだよ。お前も分かっただろ。こいつらが異常なんだ。ちゃんと優の感覚は正しいから。安心していいよ。」


 俺はレギュラーサイズを頼んだが、ほかの頼んだ奴らのポップコーンはバケツサイズだった。

 響也の感覚は正常だったので助かったが、もし響也までバグってたら俺もバグってしまいそうだった。

 本当に響也には感謝だ。


(それにしても、本当に大丈夫なのか。ちゃんと食べきれるんだろうな?)


『そんなことどうでもいいから!早くは入ろ!お~いみんな~買ってきたよ~早速入ろっ♪副会長チケット。買ってきてくれた?』


「ハイ、コレドウゾ。」


『よし!みんなでゴー!』


「そうですね。行きましょう。」


『わ~すごい楽しみです!』


「ぼ、僕も、、楽し、み。」


 嫌がる副会長とみんなが呼んでいる人をよそに、俺たちは早速その映画のスクリーンに向かった。

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