第47話 映画<騒音




 みんなでスクリーンに入る。

 ちなみに席はまだ決まっていない。


『え〜っと、どうやって席を決める?』


『私は何でもいいですよ。正直、映画見れればいいので。他の皆さんとはどうなんですか?』


「俺は副会長の近くじゃないといろいろ不味そうだな。でもそれじゃ不公平だから誰か俺の隣りにいてもらおうか?」


「なら俺が行こうか?他の誰も行かなさそうだしさ。」


(ありがとう、イケメン響也。お前のことは…忘れないぞ…)


『ありがとね!すっごく助かるよ〜』


「ぐすっ。死ぬなよ…」


「優?ふざけるようだったら、優に行ってもらうよ?」


「はい。すいません。本当にありがとうございます。」


『…』


「どうしたの?佐伯さん。何か用?」


『いや、いいなって。』


「何が?特にこれといって特別なことしてないし、ズルいようなことしてないよ?」


『それがいいんだよ。私、友達いないから。』


「いるだろ。な?響也、美咲、桐山いや隆二?」


「うわっ。びっくりした。いきなり下の名前で呼ぶなよ。いきなり知らん奴に話しかけられたのかと思ってびくびくしたわ。」


「まあそう言うなよ、。嬉しいんだろ?な?」


『あはは。そうだよ?君?響也君もそういってるんだから。ね?』


「お前ら…さっき俺が言ったこと忘れてないか?」


『えっと…何だっけ?』


「お前らも佐伯さんのことを友達だって思ってるだろ?って話だよ。ったく、ちゃんと聞けよ。」


『…ごめんね〜 もちろんだよ。佐伯先輩。いや詩乃先輩そんなこと言わないでよ、一緒にカラオケ行く仲じゃん!』


「そうだぞ、てか副会長の対処法教えてくれたのもお前じゃん。」


「誰もお前のことは友達じゃないって思ってないよ。」


「だそうだ。もちろん俺には誰一人として友達がいないがな!」


「優?それはどういう意味だい?」


『映画前に怒らせないで欲しいな…』


「…(泣)」


 桐山の反応だけ面白い。

 でも大分まずいことになっちゃったな。

 特に面倒くさい美男美女のほうを怒らせてしまった。

 あとちょっとで上映始まるし、なんとかなるか。


『なにか言うことは?』


「ほら、もう始まるぞ!席に座って静かにな??」


「お前それ分かってて言っただろ?上映後覚悟しといてね?」


 これはやってしまったかもしれない。

 取り合えず今は、映画を見るか。


______________


「うわっ、キャー、ダメ無理っむり〜っ」


 副会長うるさいな。

 誰か黙らせて欲しい。というよりも桐山が黙らせろ。


「はいはい、先輩?黙ってましょ〜ねっと。」


「ぐふっ。う〜」


(良くやった桐山いや隆二。なんか容赦なさすぎるのは引いたけど、それでも本当にナイスだ!)

 

_______


「そこには、だめだ。行っちゃだめだ。死んじゃう。やめろ、やめろよ…あっあああ〜」


 隆二も大概だった。

 怖がっていない分、ウザさがすごい。

 何で登場人物に注意しようとしてんだよ。

 そう思っていたら、響也と佐伯さん、会長、美咲がこちらを睨んでいた。

 どうやらみんな思うことは同じであるようだ。

 ここは俺が対処するしかないらしい。


「桐山隆二くん?会長と美咲さんがこちらを睨んでますよ?どういう意味がわかるよな?」


「ひっ、それは…」


「嫌なら声を抑えろ、ほらすごい見られてるぞ。」


「あ、すいません…」


 ふぅ。ようやく映画に集中できる。


_______


『っひっく。ん、どうして…そこで可哀想だよ…』


 まただ。

 ここに居るやつは黙って映画を見れないのか?


『あ、二人共…、そんな…』


「…悲しいです。すごい悲しいです。あ〜悲しいです。」


 そりゃあな。

 元夫だろうがゾンビ化したら噛まれるしな。

 そうなるだろ。

 何でそんな反応ができるのだろうか。

 佐伯さんには悪いが理解できない。

 会長もそうだ。

 「悲しいです。」を連呼されると面白すぎて集中できないんだよ。


 駄目だ、周りの状況がシュール過ぎて全く映画の内容が入ってこない。

 苛つくあまり、ポップコーン全部食べ切ってしまった。

 バケツサイズとは言わないにしても、ビッグサイズを頼めばよかった。

 ふと、いつもの様子を聞きたくなった俺は隣の響也に耳打ちをした。


「…いつもこんな感じなのか?全然内容に集中できないじゃないか。」


「…ああ。もう慣れたよ。」


「…あの二人も桐山のこといえないだろ。自分もひとりごとしてるんだぞ?何であんなジト目で桐山見てたんだよ…」


「…世の不条理ってやつだろ。気にするだけ負けだと思うな。」


「ハハ、それは酷だね…」


 本当に酷である。

 理不尽を強いてくる二人は本当に何様なのだろうか。

 そう思うと、急に佐伯さんが天使に見えてきた。

 いや、間違いない。

 今度名前呼びしていいか聞いてみよう。


_______


『あ〜面白かったね〜』


「う、うんそ、そうだね」


「斉坂先輩…言いたいことあるなら言ったほうがいいですよ…」


「い、いや…そんなことは…………ないよ?」


「はぁ。誰か俺の声を代弁してくれ…」


「理不尽だと思ってもここは我慢だぞ、いいな?」


 響也は俺の肩をトンっと叩くと、諦めたような意味深な顔で俺の横を通り過ぎ、みんなの方へ向かった。

 

「ちょ、置いてくなよ…」


 俺はワンテンポ遅れて、みんなの方にかけていった。


 その瞬間、視線が…気のせいだろう。

 今はともかく何か会長と美咲の二人への仕返しを考えないと。

 どうせなら桐山と響也も巻き込むか。

 少し不満と不安を抱えながら、仕返しに思いを馳せた。

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