第3話 二つのテント




 結局、舞山さんはついてきてしまった。

別にもう気にしてないけどもこれは想定外だった。

俺はなくなく予備のテントを取り出し、ぎこちない手付きでテントの設営をした。

舞山さんはキャンピングチェアに腰をかけてまったりしている。


(そこは俺の椅子だぞ!クッソ)


イライラする。でも仕方ない。背に腹は変えられない。

そう自分に思い込ませながら俺は作業を続ける。

そうして、結局設営に十分もかかってしまった。

俺は自己嫌悪に陥りながら舞山さんに話しかけた。


「舞山さん…テントの設営終わりましたよ…」


『ありがと!本当に助かったよ~』


舞山さんはそう言って笑いかける。もしかしてこいつ…結構カースト上位なんじゃ…そんな考えをいったん捨てて、俺は生まれた疑問を問いかけた。


「舞山さんって、家に帰らないんですか?もしかして、家出ですか?」


『うん… そんな感じ。私のことはいいから……

 でさ、さっきからしゃべり方変じゃない?急にかしこまってさ~』


(いや、あれは間違えただけで… )


「別に、かしこまったんじゃないです。」


『じゃあなにさ~』


「間違って友達と話す感覚で話してしまっただけですし。」


『ふ~ん… じゃあさ、これからはタメ口ね?』


(はぁ?ふざんけんじゃねーぞ。無理だよ無理。この人俺に無理難題を吹っかけてきまーす)


『分かった?』


結局、タメ口で話すことを強制された。無理もない。あんな圧をかけられてしまえば誰だってそうなるはずだ。女子…やっぱ怖い。

そうして、俺は舞山さんと取り留めのないことを語り合った。

ニュースの話から、最近の人気の曲だったり、ドラマの話だったり。

でもそこら辺からは話についていけず、途中からはずっと聞きに徹していたような気がする。いや実際そうだったし、大変だった。話し長かったし。


(まー正直言ってエンタメの話とかちんぷんかんぷんだしな俺)


その後、俺の持っていた非常食パート2を取り出し、夕食をとった。明日の学校はどうしようか、行くしかないよな。


(この荷物どうしたもんかな~ 公園から少し遠いが鍵付きロッカーあるしその中に入れておこ。

帰りにでもとりに行けばいっか。)


俺は明日のことを考えていた。放課後取りに行くのは憂鬱だが学校は大事だし仕方ない。そう思い、今日何度目かわからない妥協をして、俺は寝袋に入った。


空が暗い、アラームを掛けた時間よりもかなり早くに起きてしまった。もう一度寝よっかなと思いつつも外の様子を確認してみる。向こうの柵のほうに人影が見える。

あれは…舞山さんだ。

睡蓮でも眺めているのだろうか?

俺は、なんとなく舞山さんに向かって歩き出した。

舞山さんは手すり手をかけながら水面を眺めていた。


「本当に好きなんですね。睡蓮。」


ポロっと口からこぼれた。


『まあね、いつみてもきれいだしさ。この時期しか見れないけどね。』


どこか昨日と違った雰囲気で彼女はそういった。


『それで~ タ・メ・口 忘れてるよ?』


彼女は昨日と同じ調子に戻ってそういった。さっきの何だったんだろう。気のせいか。

相変わらずの圧だ。従わざるを得ない。こんなことを言ったら殺されそうだ。

すっかり眠気も冷めた。どうやら彼女の圧はカフェインよりも効果があるらしい。


(すげーな、女子の圧力って。今度から文句言うのはやめよーっと)


「あははっ、ごめん」


『よろしい』


こいつは何様なのだろうか。

逆らえないのは確かだが、普通初対面にここまでぶっこむだろうか。

俺の予想の範囲だがきっと彼女はイレギュラーである。そうでなければ俺はちゃんと敬語で話せるはずなのだ。しかし、なぜか彼女の前だと敬語で話すほうが難しい。舞山さんの人間性が影響しているのだろうか?いろいろ考えた結果、俺は考えを放棄した。


『てかさ、同じ学校だよね?クラス聞いてなかったけど何年何組?

わたしはね~一年四組だよ!』


(わざわざ最後の強調する必要あったか?)

ホントに彼女のことはよくわからない。


「二年五組。」


『へー先輩だったんだー

 …今からでも敬語で”先輩”って呼んだほうがいい?』


「…やめとく なんか舞山にそういわれるの気持ち悪いし。」


『うっわ、酷っ。ゆう君?女の子にキモイはどうかと思うな~』


一瞬背筋が凍った。今のは完全に自分が悪いのはわかる。でもその脅しはひどすぎではないかと思う。数多くのいじめに耐えてきた俺のメンタルが一瞬で死にそうになった。


『”わかった~?”』


「はい、すみませんでした。」


とっさに土下座をした。客観的に見るとこれはコントなのかもしれない。でもガチなのだ。助けてほしい。割とマジで助けてくれ。


『わかったから、土下座までしなくていいって。冗談だよ、冗談。』


さっき割とガチめだったような気がするが…


『えっ?どうして土下座やめないの?』


(だって起こってんじゃん)


そう思いながらも声には出せない。絶対機嫌を損ねるのが目に見えてる。誰がそんなこと言うもんか。


『えっ?えっ?』


舞山さんが困惑し始めた。

困惑するくらいならまだあなたから出てるその圧を消してくださいよ。心の中でそうつぶやく。十五秒ほど経ってようやく圧が収まった。そうして俺は土下座をやめて立ち上がった。


「舞山、どうしたの?」


俺はその原因は分かっているがあえて言おうとはしない。

少し仕返しがしたくなったからだ。


『どうしたのじゃないよ〜』


舞山さんは土下座をやめてなお困惑している。なんか初めて舞山さんに勝った気になった。別に勝負とかしたことないけど。


時刻は午前5時を少し過ぎたあたりになった。俺はテントを手際悪く片付け、ロッカーの中にしまった。


(本当に帰りが億劫だなー)


そう思い、公園を発とうとする。


『帰っちゃうの?』


舞山さんは強くそういった。

不思議と圧は感じなかった。


「そりゃまぁ、学校あるわけだし。」


俺が淡々とそう答える。

舞山さんは終始、上の空の様子であった。

俺はそんな舞山さんを横目に学校のほうへ向かった。

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