第2話 出会い




 『私この場所好きなんだよね~ 特にこの季節はお気に入りなんだ~』


 横の人が話しかけてきた。


(えっ何?どうして話しかけられたの?俺に話しかける理由なんてなくね? 分からない…全然分からない)


 混乱してわけがわからなかった。頭がよく回らない。

 っていうか、女子だったのか。

 よく見ればわかったことだろうけど、テンパっていて気付かなかった。

 ま、今さらどうだっていいかそんなこと。特に重要なわけでもないのだから。


(それより今の状況だ。え、ほんとにドユコトなの?)


『ほらあれ、あそこに咲いている花。ほんとすごい綺麗でさ~

 咲く期間が短いけどね。花の名前、分かる?』


 彼女は淡々とそう続ける。

 まるで俺が友人か何かであるような口調でただ淡々と。こういう態度を続けられるとすぐに調子が狂ってしまいそうだ。


「あの花って蓮か?それとも睡蓮のことか?」


(やっべ。前の学校の調子でしゃべってしまった。

あー殺されるーー。あー。あーー。)


『睡蓮のほうだよー。友達に聞いても蓮っていうばかりで睡蓮って答える人いなくてさー 君が初めてかも。』


(あーそうっすか、気まずいので話しかけないでくださーい

って言えるわけねーわ。あーー。)


『そういうわけでさ、私はここに来たんだー

 __でさ、君はどうしてここに来たの?』


「ちょっと家に入れない理由がありまして~」


『家出かな~? 親と喧嘩でもした?』


 親とけんかしたわけではない。少し事情が特殊なだけである。

 あと、急に馴れ馴れしいのはやめてほしい。心臓に悪い。


「いや、そういうのじゃなくて、ちょっと言いづらい。特に君みたいな女の子にはちょっと言えない。」


(あっ、またタメ口で話してしまった。調子狂うな。馴れなれしすぎて引かれたか?別にいっか初対面だし…)


『そうなんだー なんかごめんね。それにしてもさ、随分と砕けた口調なんだね。』


「あ、すみません…」


『いいよ、いいよー 別に気にしなくても。でさ、聞き忘れてたけど名前

なんていうの~? 嫌なら全然、いわなくていいからね。』


(大丈夫だろうか。名前を言って急にキモとか言われたらマジで泣いちゃうぞ僕)


「………優」


『えっ?』


「椎名優です…」


 言ってしまった… もうすでに覚悟はしている。


『優 ゆう…ゆう君か~ よろしくね!ゆう君!』


(聞き間違えだ。そうに違いない。確信が持てる。)


「聞き間違えだと思うんですけど、下の名前で呼ばれた気が…」


『うん、そういったよ。』


「え?」


(ホントにか?こいつ初対面でいきなりとか正気か?

あっ俺、転校初日に似たようなことしてたわ~ 人のこと言えね~じゃん俺。)


『だ・か・ら ゆう君。いいよね?』


「ハイ、ワカリマシタ…」


(これ、強制一択じゃん。選べないやつじゃん。女子って容赦ねー)


『あ、私はね~美咲だよ~舞山 美咲。気軽に美咲って呼んでね♪』


「あ、はいよろしくお願いします、舞山…さん」


(気軽にって、きつくね?普通に。無理だろ。クラスメイトですら禄に話せないのに。  割とマジでキツイ。俺っていつからコミュ力こんな下がってたっけ…

転校当初は普通に話せてたのにな。憂鬱だー。)


『美咲でいいのに~ いきなりは難しいかな? そういうことだからヨロシク!』


(え?どういうこと?つながりが見えないんだけど…)


『あっそれでさ、LIME交換しない?』


「あ、うん」


(咄嗟に頷いてしまった… あれこれは別にいのでは? ボッチ回避のチャンスを逃すとこだったやべー。無意識の俺流石!ナイス!)


 そうして俺は舞山さんとLIMEを交換した。

 その時、初めて彼女の顔がはっきりと見えた。


(めっちゃ可愛いじゃん。あれ現実ってクソじゃなかったっけ?

あれ?……危ない危ない勘違いするところだった。うん現実はクソだ。)


 その時急に雨がやんだ。通り雨だったのだろうか。空が晴れてきている。でもすっかり真っ暗だ。テントに戻ろっと。


『あれ?帰るの?』


 俺がテントに向かって歩き始めるたところ、彼女はそういった。帰るわけではないが、帰るも帰らないも俺の自由だろう。わざわざ初対面に聞くような内容ではないだろう。


「テント持ってきててそれでそろそろテントに戻ろうかなーっと思いまして…」


 何一つ嘘は言っていない。まぎれもない真実を告げた。


『じゃあ~私もいく~~』


(え?ドユコト?)


 俺は耳を疑った。え?ついてくるの?本当に?

 彼女と俺は全くの初対面だ。

 なのに友達について来るような軽い感覚で俺についていくと言った。

 正直意味がわからない。


『そうと決まればしゅっぱーつ。』


 強引に言い包められた。

 かといって自然といやな感じはしなかった。

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