第29話 体育大会 後編
リレーの走順を確認する。
初めは一年の女子が次に一年男子、二年女子に続いて二年男子、三年女子、三年男子。各学年それぞれ男子二人、女子も二人ずつ走る。
アンカーはもちろん団長である。
俺的には藤室のほうが適任だと思ったが、そういう風習だし、何より藤室がこんな状況でそのプレッシャーに耐えられるとは思えないのでこれでよかったのだろう。
[ 次のプログラムは団対抗リレーです。ここからは毎年恒例、中村先生による実況を行います。それでは中村先生お願いします。
実況の中村でーす!や~今回のリレーは激戦になりそうですね~ やはり注目すべきは一年の新星、陸上部、朱雀団の山崎選手!白虎団の鈴木選手!青龍団の辻選手!玄武団の澤山選手!この4人は全員全国大会の出場経験がある猛者たちです!!どんな走りを見せてくれるのでしょうか?今から楽しみで仕方ありませんね!!
は、はいそうですね… ]
爆笑が巻き起こった。
急にぶっこんできた中村先生に一年の放送部員は困惑しているようだ。
というか中村先生って誰だ?うちの学校にいたか?あんなにキャラの濃い先生なら知っていると思うが…
気になって聞いてみるとやはりいないらしい。
どうやら今はこの市の名前を冠した高校に勤めているらしい。この学校が体育大会を行う時に来賓として毎年来ているらしい。
見た目は40代前半といったところか。
それにしてはあまりにもテンションが高い。
そのおかげか体育大会はこれまでにない盛り上がりを見せている。
しかし不思議と緊張感はなかった。
それどころか、かなり複雑な状況にあるってのにハイになっていた。
中学の時も似たような感覚だった気がする。こういうのを昔の感覚を取り戻すって行為ことをいうのか。
今なら何でもできそうな全能感があった。
______________________
自分の場所につく。
あと数秒も数えないうちにリレーが始まる。
周りが緊張して空気が高まりながらも硬直していた。
そんな中
…俺は笑っていた。
[ さー始まりました!第53回千高体育大会 団対抗リレー!!全団、一歩も譲らない接戦だ~!早くもクライマックスのような展開だ!おっと、青龍団の堂川選手が前に出た~!!
…これ私必要何ですか?いらなくないですか?]
放送部の女子の悲痛な声が聞こえた。
白団は今のところ三番手か。まだ一巡目だ。勝算はある。巻き返せばいい。
[ おっと~青龍団、二巡目に突入だ~!続けて玄武団、白虎団、朱雀団が二順目に突入!おっと~?白虎団バトンパスをミスしたか~?4番手になってしまった~ それでも必死にくらいついていく!おっと~再び三番手に浮上したぞ!白虎団の舞山選手!すごい追い上げだ!このまま二番手の玄武団を抜くのか~?
…私、ここにいたくないんですけど。]
またもや放送部の女子…もうこの際放送女子と言おうが愚痴を漏らし始めた。これは後からネタにされるやつだろう。
それにしても舞山頑張ってるな。暗い雰囲気を見せつけない走りだった。しかし確実に動揺はしているだろう。そうでなければ完璧な舞山がバトンパスをミスするわけがない。
[ 青龍団が三巡目だ!少し遅れて玄武団そのすぐ後ろに白虎団が迫りくる!それにくらいつく形で朱雀団も三巡目に入った~!朱雀団物凄い追い上げだ~!おっと白虎団がついに玄武団を抜かしたぞ!朱雀団も玄武団を追い越した~!おっと白虎団まで!遂に青龍団、辻選手にバトンが渡った~!ものすごい速さだ~!!ほかの団を突き放していく!そうしているうちにほかの団も四巡目だ~!!全員が速い速い!!放送部の辻さんこの試合どう思いますか?
…順番がすぐに入れ替わってなかなか面白い展開だと思います。兄がドヤ顔しなければなお最高でした。
そうですか~お兄さん早いですもんね~ おっと次は二年生の出番だ!青龍団少しペースが落ちたか~?朱雀団なんとここで先頭に上がった!!怒涛の追い上げだ~!朱雀団の佐伯選手ものすごく早い。美人と速いは同意なのか?そうなのか~?
…どうしよう。話しかけられるとか聞いてないんですけど。アドリブですかそうですか。]
放送女子なんかどんどんやさぐれてないか?
あと佐伯って女子どこかで見た覚えあるな。
どこで見たっけ?そんなことは今はどうでもいいか。
…藤室の次が俺の走順だ。
佐伯って女子どこかで見た覚えあるな。
どこで見たっけ?そんなことは今はどうでもいいか。
陸上部の奴が怪我で出られないから仕方はないが順番が逆だった気がする。
興奮が高まる。俺は凄く楽しんでいるようだ。頼むから藤室。最高の走りで俺にバトンを渡してくれ。
なんと二番手になっていた。藤室が頑張ったらしい。俺はバトンを受け取る。ここからは妥協なしだ。最後の競技だが全力を出し尽くそう。
[ 先ほどの藤室選手の怒涛の追い上げすごかったですね!やっぱり顔は大事ってことなのでしょうか?おっとここで白虎団六巡目だ~!他の選手は陸上部だがくらいつけるのか~?と思っていたら速い速い!彼は誰だ~?誰なんだ~?あっという間に朱雀団との距離が縮まっていく~!!解説の辻さん彼が誰だか知っていますか?急遽補欠として入ったらしく名前がわからないのです。
…わかりません。いえ、この学校で見たことはありませんが、以前全国大会にいたような気がします。確かその時も助っ人だったらしいのですが…
白虎団のダークホース!名前はわかりませんが朱雀団のほぼ横につけてバトンをつないだ!!]
いつの間にか放送女子が解説になっていた。本当に振り回されていて可哀想だ。
リレーの感想はただの達成感しかなかった。走り切った。先頭にいけなかったのは悔しくはあるが、全力は出せたので十分満足だ。
舞山と藤室はどうだったのだろうか。気になるが今は優先することがある。先輩たちを応援しよう。切れる息を振り絞って全力で団の名前を叫んだ。
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