第30話 体育大会 後編2




 三年の先輩たちの走順になった。

 先ほどの雰囲気から一新し、凄く真剣な雰囲気がリレーのレーンに流れる。

 先輩たちにとって最後の体育大会、最後くらいはみんなで勝ちたいっていう思いが強いのだろう。

 大会の雰囲気はこれ以上ないほどに盛り上がっていた。


[ 三年女子たちの熾烈な争いが繰り広げられています!先ほどから実況では追えないほどに順位の変動が激しく盛り上がってまいりました~!!先頭の朱雀団と白虎団の熾烈な争い!後続で血眼になって争う玄武団と青龍団の対決!どちらも見ものですね。おっとここからはいよいよ三年男子の最後の青春競走が始まったぞ~!!


…青春競走ってなんなんですか。意味わからないこと言ってるとほかの生徒が試合に集中できませんよ。


 失礼失礼。おっと朱雀団と白虎団のペースが少し落ちたか~?すかさず玄武団と青龍団が追い上げる!!ここで朱雀団、白虎団ほぼ同時にに団長にバトンがまわった~!!青龍団と玄武団もすぐ後ろでバトンタッチだー! ]


 放送女子の辻?さんなんか順応してない?ど正論で論破してるし。


ともかく、団長を応援しなければ。


「団長ー!ファイトー!!白団の維持を見せてやれー!ー!」


[最後の直線に入りましたー!両者一歩も譲らずゴール!!どちらが先にゴールをしたのでしょうか?分かりません!続けて青龍団、玄武団がフィニッシュ!!ヤー素晴らしい走りでしたね実況の辻さん?


 そうですね。すごい接戦で思わず私も熱くなっちゃいました。特に最後の青龍団、玄武団の追い上げの勢いはすごかったです。三年の堀越先輩と斉坂先輩でしたっけ?このまま朱雀団と白虎団を抜かす勢いでしたよね。彼らが一つ前の走順で走っていたら、順位が入れ替わってたかもしれません。]


 あれ?さっき解説の辻さんだったよね?いつ実況になったの?てかちゃんと実況してるし。人ってあんな一瞬で成長するのか、関心関心。


それにしてもどっちが勝ったんだろな。

 ほぼ平行線だった。

 とにかくじゃんけんで勝敗を決めるのはやめてほしい。

 団長はじゃんけんが弱いから。


 結局リレーは同率一位になった。少し悔しいが一位になれたんだしとりあえず安堵する。

 巻き上げた髪を降ろす。そして団席に戻る。

 晴れやかな気分だ。

 ただし、完全な晴天ではない。南西に大きな雲が迫っている。

 

 いろいろあった体育大会がようやく終わる。

 トラブルもあったが取り敢えずは三年生にとっては良くも悪くも最高の一日になったに違いない。


 いよいよ閉会式である。

 さっきの放送女子の辻さんが並ぶように放送する。

 それにしても早川先生見なかったな。

 あのイケメンの極み先生なら体育大会でもとにかく目立つのだと思っていたから正直以外だ。

 取り合えず団リーダーなので先頭に立って入場する。

 横に藤室がいるのがすこし気まずい。

 

「これより第53回千高体育大会、閉会式を行います。」


 つい先日、俺に言い負かされた会長とは思えないほど会長然としている。

 確かにこの会長なら誰も反論しないのは納得だ。


[生徒の皆さんは着席してください。]


 放送部の辻󠄀さんは元の調子に戻ったようだ。

 その号令に合わせて俺達は座った。

 いよいよ勝敗がわかる。すっごい胸がバクバクする。

 初めはこんな本気にやる気はなかった。

 なのに何故か本気になっていた。

 今も勝敗が気になって仕方がない。


[ 成績発表。競技の部。準優勝、白虎団。

        続きまして優勝、朱雀団。]


 競技の部では負けてしまったらしい。本当に悔しい。来年こそは最初から本気でやろう。


[ 応援の部。準優勝、青龍団。

   続きまして優勝、白虎団。]


 これは大体予想していた。

 嬉しいのは嬉しいが、応援合戦の時点で勝ちを確信していたのだろう。

 そこまでの嬉しさはなかった。

 それでも周りは沸き立っている。

 やはりそれでも優勝は嬉しいらしい。

 優勝は優勝でも応援優勝だけど。


[ 総合の部を発表する前に、素行がよかった団に与えられる礼節賞、最も協力が見られた団に与えられる団結賞を発表します。 ]


 うわでたよ。よくわからない謎の賞。

 小学校では爽やか賞とか仲良し賞とか言われてたやつ。

 特に興味ないんですけど。

 取り合えず、この変な賞なしにしません?なんか変な感じあるし…

 

[ それで発表します。礼節賞。玄武団。

     続きまして、団結賞。白虎団。]


 知ってた。大体小学校でも仲良し賞って応援優勝した団が持ってるイメージだったし。

 あと何も受賞しない団に爽やか賞って与えられるイメージだったし。


[ それでは皆さんお待ちかね、総合の部の発表をします。

   総合の部。第三位、玄武団。

        準優勝、朱雀団。

   最後に優勝の発表です。

         優勝、白虎団。]


 やった。全員で喜んだ。すかさず俺はまだ暗い顔をしている藤室を巻き込み、壮大にはしゃいだ。藤室もまだ暗さが残っているが、それでもたくさん笑っていた。


[ 競技の部、応援の部を受賞した団は2名ずつ、礼節賞、団結賞の受賞した団は各1名、総合の部の受賞した団は2名ずつ、総合優勝のみ3名、受賞した団の代表者は登壇してください。]


 そうして、うちの団からは8人が登壇するらしい。

 まず団長、副団長、騎手は総合優勝のトロフィー、賞状、優勝旗を受け取るだろう。

 3年の団リーダー二人は応援優勝のトロフィーと賞状、だとすると、俺もでないといけない。多分競技の部のだろうな。

 俺は競技の部の代表者として登壇する羽目になった。

 少し面倒くさかった。

 でもなかなかない経験だったしよかったと思った。

 その後、生徒代表の挨拶、来賓の挨拶、校長の挨拶があったが特に聞かなかった。

 それよりも勝ったという優越感、余韻に浸っていた。


 まだ気まずい雰囲気は残っている。

 関係はこのままにはならないかもしれない。

 それでも俺は今のこの関係を全力で楽しもうと思った。

 どうせ崩れてしまうような関係なのだから楽しまないと損だ。


 だから気まずい雰囲気なんてぶち壊せばいい。


 ただそれだけの話だ。


 空気を読まないほうが嫌われ者らしいだろ?

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