第31話 解団式

 



 団員全員が思い思いに喜んでいる。

 それでも俺と舞山、藤室の三人の間に流れる空気は微妙だ。

 早川先生にいて欲しいものである。

 そんな中、解団式に突入しようとしていた。


[それでは各団は順次、解団式を行ってください。]


 放送が流れる。

 多分この放送じy…辻󠄀さんは人気物になるんだろうな〜うらやましいな〜いいな〜。

 閑話休題。


 団長が話始めた。

 普通にこの団長の影薄かったなっとか失礼なことを考えていた。

 本当に影が薄かったので仕方がない。

…それにしても名前なんだっけ?

 副団長は誰もが知っている生徒会長である。

 そのせいかあまり練習には見かけなかった。

 名前は確か…星加せいか 綾乃あやのだっけか。

 さっきのリレーでは目がすごく血走っていた人と同じ人だとは到底思えない。

 団長の話が終わった。

 団長のくだり適当すぎないと思うかもしれないが、影が薄すぎる。

 確かに運動神経はいいのかもしれないが、ただそれだけだ。

 印象に残らない。

 特に副団長が生徒会長っていうのもあって全然記憶に残らなかった。

 ドンマイ団長。


 次は我らが生徒会長もとい副団長の話である。どんな厳格な話をするのか、今からつまらなくなる予感がした。


「正直な話、私は生徒会業務をこなすのに手一杯であまり団の練習には参加することができませんでした。ですから、私が副団長であることを予行練習で初めて知った方も多いと思います。」


 そんなことはない。

 生徒会長の名前が結団式のときに出てきてたし。

 流石に生徒会長しかもこんな美人の名前が出てきたらその場にいなくとも誰だって覚えるに違いない。


「それでもこんな私を副団長として認め、受け入れてくれた団長や団リーダー、団員の皆さんにはとても感謝しています。この体育大会では惜しくも競技優勝は得られませんでした。それでも皆さんと共に団結賞、応援優勝、総合優勝を勝ち取れたことを誇りに思っています。特に団結賞と応援優勝。これは団の結束力ややる気があってこそ得られるものです。そんなやる気に満ち溢れた皆さんと最後の体育大会を迎えられたことを本当に嬉しく思います。おかげさまで私も全力でこの体育大会に参加し楽しむことができました。本当にありがとうございました。」


 まるで模範解答のような感想だった。そこに本当に本音があったのかがわからない。本当に恐ろしいことだ。


(あと何人喋るんだろ。てか俺も喋らないといけないじゃん。やべー何喋ろう…こんなことなら考えとけばよかったな…)


 あっという間に藤室の番になった。次は俺である。本当に何を言えばいいのか。少し焦る。ネタに走ってた先輩もいたし、一言で終わらせている先輩もいた。実際そんなものだろう。しかし藤室の後である。


「…二年の団リーダーを務めました藤室 響也です。今回の体育大会はいろんな意味で大変でした。応援リーダーを務めたのもあるし、リレーの選手として練習に参加したり、パネル係を手伝ったりと休む暇がなかったようにも思えます。途中、団のムードが落ち込んだときはどうなるかと思いましたが、すぐに持ち直してくれて助かりました。実際にはもっとたくさんのトラブルがありましたが、皆さんの頑張りのおかげでこうやって応援優勝、総合優勝を勝ち取ることができました。本当にありがとう!」


 藤室もなかなかに模範解答レベルが高いな。俺には真似できそうにない。いや真似なんてしなくていい。俺なりに俺なりの言葉で表せばいい。


「…二年団リーダーを務めた椎名 優。今回の体育大会俺は全然乗り気じゃなかった。みんなも知っている通り俺はこの学校で嫌われている。正直こんな俺の話聞きたい奴なんてほぼいない。いやいないって思ってる。そんな俺が強制的に人となれ合わなければならない体育大会しかも団リーダーなんてやりたいと思いますか?もちろんやりたくなかった。団リーダーを最終的に受けた理由も早く帰りたかっただけだったし。でも応援練習に参加してる中でみんなの熱気に見せられて応援でだけは勝ちたいって思えるようになれた。そうして体育大会本番を迎えた今日、実際すぐにでも帰ろうと思った。でも横にいる藤室が俺を必要としてくれて、楽しいんでいいって思えた。嫌われ者が楽しむなんてみんなは望まなかったかもしれない。みんなは俺と同じ団で嫌だったかもしれない。でも今日みんなと共に全力でこの体育大会を楽しめたことを誇りに思う。本当にありがとう。」


 そのまま俺は藤室の方に手を回して笑った。

 正直団のみんなには引かれたかもしれない。

 それでも藤室にくらいつくには、あの二人の横に立つには一つ一つ自分から変えていかなければと思ったから。

 だから後悔はない。強いて言うなら少し恥ずかしさが残ったぐらいだった。

 一瞬静まり返ったと思ったら団席に笑いが響いた。


「笑わなくてもよくない!?さすがに俺嫌われすぎじゃないか?」


「いっwいやそうwじゃないwそんなマジメにwなってwなってるしっw椎名がおかしくってwぷっw」


「おい。藤室お前まで笑うか?ああ?」


「ごっwごめっw」


「まだ笑ってんじゃねーか。こんの~!」


「…w……w………wあっwはははw」


「舞山まで!?酷くない?ねえ?おいっ!」


 団が笑いに包まれた。藤室の空気もだいぶ良くなった。

 舞山もすっかり清々しいまでの笑みを浮かべていた。

 二人とも俺と同じようにあの瞬間何か抱えてしまったのは事実だし、まだそれは確かに残っている。

 でもそこには…三人の間にはさっきまであった気まずい雰囲気はすっかり消えむしろ暖かい空気が流れていた。

 しばらくはこのままでいられるそう思えた。

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