第7話 遭遇




 昨日の出来事を思い出しながら歩く。

 いつも通りの通学路、今日はやけに赤信号で止まっている気がする。ため息を吐いた。

 軽く小学生が引いてるのが見えた気がする。

 気のせいだろう。

 本当に気のせいだよな?


 衝撃的な昨日の出来事に1日たった今もなお困惑している自分がいることに軽く驚いてしまう。

 ここまで普通引きずるか?と内心で呆れてしまう。

 笑い声が聞こえる。

 もしかして俺の惨めさを笑っているのだろうか。

 そうに違いない。

 断言まではできないが、少なくともその可能性は0ではなく限りなく100に近いはずだ。

 自分は何を考えているのだろうか?本当に下らない。

 こんなことを朝から考えるバカなんていないだろう。…居たわここに。

 

 いつの間にか校門をくぐっていたようだ。

 通り過ぎなくてよかったと安堵する。

 今までに何回か思い耽っていてて校門を通り過ぎたことがある。

 考え事をしていて校門を通り過ぎるとか普通はないと思うだろう。でもこれが意外とあるのだ。とはいっても転校して来る前はそんなバカなことにはならなかったなと過去のことを思い出す。きっと相当なストレスが溜まっているのだろう。これは老けるな。


 閑話休題


_______


 玄関のロッカーを開く。

 そして中履きシューズを取り出す。

 いつも通り綺麗な?ロッカーを見る。

 普通はイジメだと机よりも玄関先のロッカーだったり部室のロッカーだったりでこの場所は確実に狙われる。

 開閉式なのでバレずに嫌がらせができるからであろう。

 しかしながら何故かいつも俺の玄関前ロッカーには何もされていない。

 ウチの学校の生徒は頭が悪いのだろうか?それともわざわざロッカーまで行ってイタズラするのが面倒くさいのだろうか?もしかすると俺のロッカーって臭…


 きっと面倒くさいんだな。

 それ以外にありえない。後者とか言ったやつは徹底的に潰す(物理的に)。

 そのまま履いてきた靴を入れてロッカーを閉めた。

 教室につく。

 やはり教室の雰囲気はいつになく暗い。

 明日からの中間考査がそんなに嫌なのか。

 むしろご褒美じゃないか?自分の点数が張り出されるんだぞ!?それこそ目立つチャンスじゃないか?

…やはり分かり合えないなウチのクラスメイトとは。


 一人寂しく担任を待つ

…いやその前に机の上のゴミを片付けないとな。

 毎度のこと思うが本当に面倒くさいな。

 お前らのせいだからな。


 ホント今どきこういう分かりやすいイジメとかあるんだな〜って身にしみて感じる。

 それと同時にここは本当に進学校なのかと強い疑念を感じる。

 進学実績、模試の成績共に県下でも1、2を争う程であるため、進学校なのは本当のことだろう。

 しかしそれにしては生徒も教員もかなり杜撰であるようだ。

 そうでなければ、ここまであからさまなイジメをするわけがないし、それにイジメが起きていることに気づかないわけがない。

 普通はもっとネットとか、SNSとかで陰湿なイジメをするのが主流に違いない。

 とはいえ、イジメてる側の考えなんてちっとも理解できないので本当のことはわからない。

 とにかく早くイジメが終わってほしいと切に願う。

 俺自身イジメを受けていることを報告しないのも悪いのだろう。

 そうかといって多分イジメのことを言っても誰も本気で取り合ってはくれないだろう。

 無駄に父親に心配をかけてしまうだけだ。

 そう思いため息を吐く。今日二回目だな。


 机の上と中の処理が終わった俺はリュックを横にかけ、席につく。

 ようやく休める。そう思いながら机に伏す。


「 うわ~滅茶苦茶美人~誰だろ? 」


「 お前知らないのか、一年の舞山だぞ舞山。」


「よく噂になってるからさすがに知ってるわw 」


 廊下のほうが少し騒がしい。何かあったのだろうか?

 そう思いつつも自分にはほとんど関係ないので、無視する。

 気にならないわけではないが、下手にかかわって痛い目に遭うよりはマシだ。


「ヤバっ。舞山さんじゃん。髪大丈夫か崩れてないか?」


「大丈夫だ。お前なんて目にも留められないから。」


「え?何それひどくない?わかってるけどさw」




 だんだんと廊下の喧騒が大きくなる。

 めんどくせーと思いながら、それでもなお俺は机に顔を伏せたままにする。

 扉が開く音がした。

 誰かが登校してきたのだと思い無視する。


「男子うぜー」


「美人来たからってこれだよこれ。ほんと幼稚だよねw」


「わかるw」


「てかさ、舞山さんうちのクラス来たよ!! 何の用事だろう… 

あ!もしかして彼氏だったりしてw」


「マジ!?めっちゃ気になるんだけど!!」


 クラスの中が騒がしくなった。

 居づらくなった俺は、誰にも気づかれないよう教室からでる。

 聞いたことある名前が聞こえたが気のせいだろう。

 舞山さんがあの舞山さんだとは限らないしな。

 そう思い、トイレに向かう。大にでもこもるか。

 別にしたいわけでもないけど取り敢えず何も考えずに逃げるにはピッタリだと思う。


 『椎名くん、いる?』


 クラスが一瞬静まり返り、その後騒然とする。本当にうるさい。寝かせてほしい。

(…だ、誰かに呼ばれ…誰かに呼ばれた?ないない。ありえない。き、聞き間違えでしょ。自意識カンストしてんのか俺?)


 突然自分の名前が呼ばれたような気がして驚いたが、よく考えたらありえない。

 しかも女子の声だったからなおさらだ。


「舞山さん…か」


「うっわ、椎名の奴一人でぶつぶつしゃべってるよ」


「え~マジキモ」


 しまった。ついボソッと

 そう思いつつ、無視してトイレに向かう。

 個室にさえ入ってしまえばそこは安全圏、いわゆるセーフティーゾーンである。

 それならば膳は急げと少し早足でトイレまで進む。

 先程驚いて止まってしまったが、これなら問題ない。


 得も言えぬ恐怖が襲った。誰かに掴まれた?いや、それはあり得な…あり得るか。

 今まで暴力されたことがないだけで俺イジメられてるもん。

…ってことは殴られるのか。歯でも食いしばっておくのが正解だな。


『何で逃げるのかな~?』


 その瞬間、猛獣でも気絶しそうなくらい強烈な圧が放たれた。

 俺の精神が強靭でなければ耐えられなかったかもしれない。

 それでも軽く亀裂が入るほどの勢いだった。窓ガラス割れていないだろうか?


「ちょっと、トイレにー行こーかなーと思イマシテ…

 その手を話してくれるとありがたいのですが…ダメでしょうか?」


『ダメッ』


「あ、はい…」


 その瞬間、俺の死亡が決まったのだった。




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