第8話 鬼のちイケメン
(あっこれ死んだわ。走馬灯が見えた。中学の同級生たちが川の向こうに見える。え?お前の中学の同級生は死んでないだろって? いいじゃないか。細かいこという奴は嫌われるぞ♪)
今、俺は後悔をしている。
あの時、舞山に公園で話しかけられても一貫して無視しておけばよかったと本心から思えてくる。
こう思っても仕方ない。嫌われ者の俺がこんなに目立つ羽目になっているのだ。
本人は人気者の自覚がないのだろうか?少し考えればわかるはずだ。と。
そう思わずにはいられないだろう。
『ゆう君。逃げたよね?なんで逃げたのかなー』
こっわ。本当の本当に死ぬかと思った。
「さっき言った…」
『それが言い訳なことぐらい分かってるから。ほら、言って。』
「…目立ちたくなかったから………」
『それで逃げるのはひどくない?』
「ハイ。申シ訳ゴザイマセン…」
俺は素直に謝った。いやホントマジで。
これ以外の選択肢がなかった。実質一択じゃないか、こんなの。
「それで、何の用事でございましょうか…」
『普通に話しかけようとしただけだよ?何?話しかけちゃダメだった?』
「そんなことはございませんが…」
『が?』
「何でもないです…」
『まあいいや。それよりも聞きたいことあるんだけど』
「何でございましょうか…」
『私と勝負するって昨日いったばかりだよね?随分と呑気じゃないかなーって』
「学校ですと、集中して勉強に取り組めませんので…」
『嘘。目を見て言える?』
「すみません。特に理由はないです。忘れていました。」
『ま、いいけど。だって私が勝つだけだしね。 …それにしてもなんで敬語なの?』
「…」
『だんまりはよくないよー』
「圧がすごいから…」
(学校ですし畏まって話したほうが良いのかなと思いまして…)
『本音と建前が逆になってるよ~?でもそっか~そんなに圧強かったか~そっかそっか~』
「すみませんでした。」
『いいよいいよ別に怒ってないから。』
絶対に嘘に違いない。目が笑っていないもん。
『そういうことだから、勝負忘れないでね?』
「は、はい…」
『それじゃあまたね!』
絶対に負けてはいけない。
本能が直接そう伝えてくる。
きっと負けてしまったら俺は途轍もなくひどい目にあってしまう、そんな気がしてならない。
どうにかしてこの勝負勝たなくては。
別に学力は問題ないはずだ。
前の高校のほうが偏差値高かったが、そこで総合点の順位が一桁代前半だったのだから自身はある。
それに今回の範囲は特にこれと言ってわからないものはない。
むしろ得意な部分が多いくらいである。
今回に関してはもっと学力自体は上がっているだろう。
三か月前に転校してから友達がいな…友達と遊ばなくなって、その分勉強するようになったのだ。
未だに前の学校の同級生とLIMEすることは多いがかなり頻度が減ったことも影響しているだろう。
だから勉強量は確実に増えている。絶対的に2倍から3倍ほどまで増えた。
それでもいやな予感がする。
少しでも勉強しておくか。
暗記教科は問題ないから…それ以外にするか。
英語は得意だし。数学は範囲の問題すべてやったがどれも正解していたからな… ってなると物理か。
あの先生授業全然何言ってるのかわからないに、普通にテストで受験の問題出してくるらしいからな。
それなら化学もか。化学も受験の問題が出るらしいからな。
そう思い早速勉強に取り組む。
受験対策問題なんて持ってるのかって?持ってるのだよそれが。
予習してきたとしても他にしてこない奴らがいるせいで変に問題解く時間とか設けられることが多いのだが…その間にすることがないのである。
そうして朝の時間はあっという間に過ぎていった。
________
昼休みになった。今日は金曜だから後二時間で家に帰れる。いつになく俺の話が話題に上がるので落ち着きたくても一つも落ち着くことができない。きっと舞山さんのせいだろう。あー早く帰りたい。
いつもなら机の守護神として自分の席で食事をとるのだが…今日はやめておこう。
この雰囲気の中ボッチで食べるのは耐えられない。
せめてボッチじゃなくて友達がいたら、気にせずに食べられただろう。
しかし残念ながらその友達っていうのは俺にはいない…正確にはこの学校にいないというべきだが。
それはさておき、人気のなさそうな場所ってどこかにあったけか?そう思い窓から外を見渡す。
駐車場の付近には誰もいないみたいだ。よし、場所は決まったな。
背をかけれる場所を探す。
なかなか見つからない。
……少しの段差があった。そこにしょう。
弁当の箱を開ける。自分で作ってはいるものの相変わらず彩りが悪い。自分以外誰も見ないのはわかっているから気にする必要もないけど。
…足音が聞こえた。誰だよ俺の平穏を脅かすのは。一人心当たりがある。舞山さんだ。
「ここで昼食とるのは禁止だぞー 椎名いつもはそんなことしないのにどうした?」
とてつもないイケボで俺はそう告げられる。
我らがイケメン担任…‘‘
…耳が幸せになる。
もしかして世の中の人たちがVtuberにはまったり、ASMRを聞いたりするのはこれが理由だろうか?
「すみません早川先生。今日はクラスに居づらいもので… できるだけ人のいないところで食事したくて…」
「そうか分かった。今日は見なかったことにする。今度からは気をつけろよ。」
「ありがとうございます。」
さすがイケメンである。一気に気持ちが和らいだ。これはファンクラブがあるのも納得の話だな。
________
先生のおかげで残りの時間はかなり快適に過ごせた。
それにしても意外だった。
いくら俺が嫌われているからってあんなに話題に上がったんだ。
誰かに話しかけられてもおかしくない、というか普通話しかけられないなんてことはありえない。
そこまで嫌われてるのか…
落ち込み切った精神を慰めるために先生の声を思い出す。
するとすっかり元の調子に戻った。
早川先生様々だな。
そうして俺は来週から始まる中間考査に向けて気持ちを新たにした。
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