第41話 二つの視線
あのとき確かに視線があった。
しかもなぜか二つ。
それと同時に二人の人影もみえた。
ずっとそのことばかり考えていた。
良く覚えていないが、一つは男子、もう一つは女子だった気がする。
そしてあり得ないはずなのに、その視線のうちの一つが俺にあったような感じだった。
男子か女子かどちらからかは分からないがそれでも俺が見られていたのは確かである。
モヤモヤした感情、そして確かな恐怖心が入り混じり自分でもわけがわからなかった。
おそらく、俺がストーキングされる理由なんて疎まれてぐらいしかないだろう。
となると、俺に対して何かをしようとしているのかもしれない。
そう思うと恐怖心が溢れ出てきて仕方ないのだ。
変に、心霊スポットに行ったり、事故物件に住むよりも人のほうが事実、恐ろしい。
今の俺にはその事実だけでもかなり頭がきつかった。
ただそれだけではなかった。
視線が二つあるというのも想定外であった。
いつも一つの視線しか感じていないので勝手に一つとばかり思っていた。
つまり、あの中の誰かもストーキングされている。
動機はおそらく不純なものだろう。
自分以外にも危害が及ぶ。
しかも自分は他の危険に脅かされていて、そのことに気づいていながらも何もできないのががたまらなく嫌だった。
実際に俺は見て見ぬふりをしたことがある。
それを今でも後悔している。
俺が見て見ぬふりをしなければ起こり得なかったかもしれないことだ。
しかし俺は気づかないふりをした。
それで家族は分断された。
同じ結末にしないためにもできるだけ早く自分の問題だけでもどうにかして置かなければならない。
このあと俺は行動に出ることにした。
しかし何の成果も得られず、ただいたずらに時間を浪費するだけで終わってしまった。
結局、俺は空が紺色になるくらいに家に帰った。
______________
朝の5時半。
どうやらいつもよりもかなり早く起きてしまったらしい。
少し昨日のことを考えていた。
とにかくその時の俺は正常ではなかったらしい。
ドラマで聞きかじっただけの誘い出しをかけたのである。
幸い誰も誘い出しには引っかからなかったが、もし仮に誰かが引っかかったとして、俺はそれに対処はできなかっただろう。
まして、相手はストーカーである。
そんな狂った行動をするやつがまともなやつなワケがない。
凶器とかを持っていたら最悪の事態になっていただろう。
本当に自分の浅はかさには目を疑ってしまう。
いつも通り朝から入試の過去問を開く。
しかし、どうにも手が動かないし、全然頭も働かない。
ずっと緊張と恐怖心にひっ迫されていて勉強なんてできるような状態ではなかった。
会長の言っていた通り、ストーカーでなく、ただ睨まれているというだけの可能性もある。
自分は思ったよりことを重く受け止めすぎてたのかもしれない。
やはり、それでも恐怖心が薄れることはない。
今は一度、この恐怖心に駆られた気持ちを落ち着かせなければならないと思った。
「よし。久しぶりにどこか出かけよう。」
気分転換になると思った。
少なくとも何も働かない頭で勉強するよりは有意義だと思った。
適当に良さそうなところを検索する。
動揺して文字がまともに打てなかった。
それでも探す。徒歩圏内となると十キロ程度が妥当だろう。
それ以上になると流石に疲れるので無理だ。
周辺のスポットには大体行ったことがあった。
海辺の水族館もいいなとは思ったが、橋が遠すぎる。
となると…やっぱ学校近くの湖か?
あまり行くのにも疲れない。
ストーカーは怖いが、学校外であったことがないのだ。すぐに遭遇はしないだろう。
少し怖くなったので桐山にLIMEする。
______________
〈 りゅう
______________
〘今日お前って暇〜?〙
🍜〘ん?暇。何か用?〙
〘近くの公園あるじゃん?
そこに行きたいからついてきて〙
🍜〘いや、一人で行けばいいじゃん〙
〘ストーカー怖い…〙
🍜〘確か会長がそんなこと言ってたな〙
〘頼む!今度ノート見せるから〜〙
🍜〘考査課題も、な?〙
〘わかった。それで行ける?〙
🍜〘おけ。でどこ集?〙
〘像〙
🍜〘了解。適当に生徒会のやつ誘うわ〙
〘助かる〙
______________
集合場所につく。
相変わらず人が多い。さすが待ち合わせスポット。
遠くからこちらを見つめる人がいた。
人混みに紛れていて、さらに深く帽子を被っていたので誰かわからなかった。
おそらくストーカーだろう。めっちゃ怖い。
「優か、おはよう。桐山に誘われてきたんだが、見た?」
「いや、まだあってない。でも視線は感じた…」
「お前か?もしかしてつけられてるのって。」
「俺は多分確定。あと一人いたからそれは分からん。」
「せっかく少しは、怖くなくなると思ったのにな…」
「お前いい奴だと思ってたけど本当は最低だな!?」
「冗談だって。でも災難だったな。俺だったら卒倒してた自信あるよ。」
「大丈夫。それで一度倒れそうになったから」
「それは大丈夫とは言わないだろ…」
『お待たせ〜待った?』
「二人共ついさっき来たばっかだぞ。おっ、あれ?誰だっけ。響也、美咲、彼女の名前覚えてる?俺知らない。」
『可哀そ〜 ごめんね詩乃先輩…この人物覚え悪くて…』
「その言い方だと俺がジジイみたいじゃないか!」
『まあまあ怒らなくてもいいじゃん。』
「怒るわっ!…それで失礼だけど名前聞いていい?えっと俺の名前は、椎名 優だからよろしく!」
『うん。私の名前は佐伯 詩乃だよ。よろしくね。』
あっ、中間三位の人だ。
この学校の2年生にその名前を知らない人はいない。
多彩な分野で賞を取っていて、勉強一筋の俺とは大違いである。
要はモテる。
この学校の生徒会ってますます
しかしなんか変だな。
この人から妙な違和感を感じる。
性格とかそういうのを偽ってるとかの違和感じゃない。もっと他の…上手く言い表せない。
考えすぎか、多分俺の気のせいだろう。
それよりも今はストーカーに対して警戒をしよう。
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