第39話 人影
桐山が待っているだろう空き教室に行くために立ち上がる。
そして廊下に出るべく扉のほうへ向かう。
一瞬誰か見えた。
その影は足早に隣の空き教室に入っていく。
やっぱ桐山だろうな。
きっと覗かれていることを知られたくなかったのだろう。
このツンデレめ。
「椎名さん。外に出るのでしたら少し用事を頼まれてくれませんか?」
「内容によりますけど。基本はオーケーですよ。」
「隣の空き教室にいる桐山さんと佐伯さん、三階の空き教室にいる斉坂さんにこの資料を渡しておいてほしいのですが可能ですか?」
むしろ好都合だ。桐山とは後でじっくり話したいので隣の空き教室には後から向かうとしよう。
「三階の空き教室はっと」
…何で普通教室のど真ん中なんだよ普通端とかじゃない?
つまり1組と6組の端じゃない?何で3組と4組の間なのだろうか。しかもここは一年の教室だ。
一年なんてまだ理系、文系の違いもない。選択科目なんてこの時点では芸術科目ぐらいしかないしな。
うちの学校には普通科以外に探究科(7組、8組)がある。
しかしスロープで繋がってはいるものの普通科は南棟、探究科は北棟にそれぞれの教室がある。
よってその区切りの可能性もない。
そんな考えをめぐらせているせいで扉の前で立ち止まっていたらしい。
扉が開き、かなり大柄のイカつい雰囲気の人が出てきた。
「えっと、その、何の用事でこっちに…こちらに来たんですか…」
拍子抜けだった。
だってあの強面な顔で、しかも筋肉がゴリゴリな人が急に話しかけてきたと思ったら、か細く力ない声でボソボソとしかも敬語で話してきたのだ。
正直情報量に頭が割れそうになった。
…それにしてもすごいな。制服越しでも筋肉のものすごさがまじまじと分かった。
「あ、忘れてた。会長から斉坂さんにこの資料を渡すように言われてて、それで来ました。」
「あっ、あの、ありがとうございます。い、今取りに行くところだったんですよ。」
「あ、じゃあ俺はこれで失礼します。」
キャラが強すぎてほかのことに意識が向かない。
正確にはキャラが強いというよりは、見た目と性格のギャップが大差ありすぎることが理由だろうけれども、それでも頭に離れないインパクトが残った。
(あの人本当に生徒会にいる人なんだろうな?でも大柄の人が昨日の帰りにいたような…たぶんその人か。名前、どこかで聞いたような気がする。斉坂、斉坂、斉坂…リレーの選手だったけ?先輩だったら失礼しちゃったな~)
後は打ち上げ会場の隣の空き教室か…
桐山、お前が何で白団の打ち上げ会場を覗いてたのか、理由を問いただしてやる!
桐山が待つ空き教室の前に着く。
今の桐山が桐山(チョロインモード)なのか桐山なのかは分からないが、それでも楽しみで仕方がなかった。
扉を勢い良く開ける。
自分のできる限りの大きく息を吸う。
「桐山っ、いや隆二!会長からのいただきものだ!確認せよとのことらしい。」
「テンション高っ。ゴメン、さすがの俺でも引くわ。」
「ところで話変わるけど、お前こっちの教室たまに覗いてた?」
「いや。全然。急にどうした?」
「いやさ、俺がいた教室を覗いてたやつがこの教室に入っていくのが見えたからな。一番確率高いのはお前かなって思っただっけ。でもそうか~桐山じゃないなら誰なんだろうな?」
「お前まだ俺のこと疑ってるだろ?俺この教室来てからまだ一度も廊下に出てないぞ?お前全然信じてないな…みんなもそう思うよな?」
周りのみんなはそれにうなずくか、ものすごいテンションで桐山の発言を肯定することをいうだけだった。
「ふ~ん。なら誰なんだろうな?気になるな~この中の誰かなのは確定なんだけどな…
…あ忘れてた、佐伯さんってこの中の誰?この資料を渡すように言われてて、分からないから
とりあえず挙手!」
『わ、私です。』
「はいどうぞ。それじゃあ俺は帰るけど…犯人捜しよろしくな。桐山、いや隆二。」
「勝手に話進めんなよ…まあ面白そうだから任せろ!見つかるか分からないが犯人捜しゲームとして今からでもやるわ。…椎名、プリントありがとな。正直会長に合わなくて済んだのは助かった~」
「ハイハイ、会長の前では絶対に言うなよー。じゃあな。」
それにしても誰だよ!?俺に対してじろじろ見てきてピザ食いにくかったんですけど?
桐山じゃないとなると、はっ桐山が偵察に行かせた可能性も…いや、さすがにそれはないだろう。
だって桐山は頭あんまりよくないからな。
とすると、なんか怖くなってきた。
ストーカーだよなこれって。ストーカー以外の何ものでもないよな。
うわっ誰のだよ。
美咲か?星加会長か?それとも響也か?
流石に俺は…あり得ないか。
とりあえずどっちにしてもみんなに言っといた方がよさそうだ。
どうせすぐ隣の部屋に戻るだけだしな、問題はない。
てか、なんで俺はこんな関係ない問題に絡まれてるの?
俺みたいな平々凡々で人畜無害な奴がただ単にイケメンと美少女にかかわっているだけでストーカー事件とかいうクソ面倒くさいことに巻き込まれるのはマジで勘弁なのだが。
あと普通に怖いし。
理不尽さと恐怖心を感じながら、俺は打ち上げ会場へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます