第24話 予行練習
チョロインな桐山の一件から一週間と少しが経った。
早いものでもう明後日の土曜には体育大会本番が控えている。
普通に考えれば体育大会の予行練習は前日にやるのが通説、セオリーである。
実際にほとんどの学校では予行練習は体育大会もしくは体育祭の前日に行われている。
それなら何故二日前に行うのか。
その理由は案外単純で下らないものだ。
うちの学校、県立千波高校では体育大会の前日には団での総合練習を行うというよく分からない風習があるからである。
ちなみに予行練習では実際に当日と同じプログラムを簡略化して一通りやるらしい。
ただし、100メートル走や障害物走、リレーなどの全団が一斉に競う競技はないらしい。
つまり綱引きや騎馬戦などのような団が一対一で対抗戦をする競技のみが行われる。
ここで当日の試合が決勝戦になるか三位決定戦になるかが決まるようだ。
つまり体育大会はもう始まっているのである。だからこんなに熱気がすごいのだろう。
前の学校とは大違いだ。
まさに文武両道を体現した学校だな。
ただ、どちらかといえば武に偏っているのは確かだけど。
『無駄に突っ込んだおバカさんおはよー!』
朝、団席に自分の椅子を運んでいると舞山がいきなり変なことを言ってきた。
「ねぇそれ俺のこと言ってる?流石に違うよね?」
『え?昨日あの生徒会長を口先で論破したんでしょ?しかも自分のことと全く関係ないのに首突っ込んだ末の出来事だって聞いたよ。だからおバカさん。分かった?』
「酷いな。ていうか団席もっと座れるところたくさんあるだろ。何で俺の近く来るんですか?友だちと話してこればいいじゃないですか。」
『なんで最後だけ敬語なの?いいけどさあっそろそろ並らばないとね。』
「そうだな。お前にしてはまともなこと言うじゃないか。」
『いつもまともだし〜』
「俺のことハメたくせして良くそんなこと言えるよなっと。俺、こっち側だから、じゃ。」
なんとか舞山から逃れることに成功した俺は、列に並んだ。
_______
俺の選択した競技は、綱引き、騎馬戦、団対抗リレーである。
リレーがある分一つ多くて億劫だが仕方ない。
補欠とはいえ、可能性がある時点で体からだるさが溢れてくる。
今日は予行でリレーはないのでとりあえずは良しとした。
そうして予選が行われ、結果は綱引きは決勝進出、騎馬戦は三位決定戦をすることとなった。ちなみにもう一つの予選がある競技のタイヤ取りは決勝に進んだらしい。
『騎馬戦負けちゃったっね〜 まあ私たちがタイヤ取りで勝ったからそこはドローという感じかな?』
「知らないって。別に俺はそこまで体育大会乗り気じゃないんですけど。」
『あ、そういうこと言ったら駄目なんだよ。せっかくの楽しさがシラケちゃうじゃん。ほらもっとノッてこー!』
「へいへい」
『あっ次応援合戦だ!やるよやるよやっちゃうよ〜』
「お前の目すごく血走ってるけどそこまで頑張る必要あるか?サクッと終わらせておこう位の感覚で良くないか?」
『だめッ』
「うわ〜面倒くさ。俺はそんなに必死にはやらないからな。」
『一人だけ?しかも団リーダーともあろう人が?』
「サラッとからかってくるなよ。まあそうだな周りも必死にやってたら合わせざるを得ないかもな。」
『絶対そうなるよ』
「その自信はどこから来るんだよ全く。」
応援合戦はサラッとは終わらなかった。
どの団もやり過ぎなくらいに仕上げてきている。
どの団が勝ってもおかしくなさそうなほどに完成度も熱気も拮抗している。
ウチの団も全員が必死の形相でやっていて正直驚いたし、俺も周りの熱量に合わせてやらざるを得なかった。
それにしてもわざわざ血眼になるまで本気でやる必要はないかと思う。
少なくとも俺以外の全員の目が恐ろしいまでに見開いていたのは確かである。
特に俺はそんな熱気を装っていただけなので浮いていたのではないかと思い、生徒会の席に座っていた赤団もとい朱雀団に属する桐山に聞いてみたところ、
「そこまで違和感なかったぞ。少し勢いが足りてなかったように見えたが、大抵の人は気づかないだろうな。つまり誤差範囲だ。だから安心しろ。」
とのことだ。
しかしそれでも不安なものは不安である。
同じ団のみんなの熱量と自分の熱量との間にただならぬギャップを感じながら、明後日の体育大会に不安をつのらせた。
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