第25話 体育大会 前編
昨日の天気予報では今日は雨のはずだったのだが、今日の天気は雲一つない晴天である。
先程から周囲の団員が「晴れてよかったね」とか「体育大会延期じゃないって!ヤッター!」とかほざいている。
個人的には体育大会など中止になってほしかった。
無駄に日焼けするし、暑いし、団役員だと自由時間が少ないし、一番最後のリレーもやらされるし悪い事尽くめである。
そして右斜め前にいる女子。
何故か毎回毎回すごく絡んでくる厄介な舞山がこんなに近くの席にいるのだ。
というより俺が避けようとしたところ、強制的に女子との境目の席に座らせられた。
そして舞山が男子との境目の席に座ってできた構図である。
本当に今日という日があることを選んでも悔やみきれない限りである。
「隣いいか?できるだけ団リーダーで固まっておこうと思ってね。嫌なら無理にとは言わないが…」
「いや、助かる」
「助かる?まあそれなら横座らせてもらうよ。」
「ああ、ありがとう。」
「椎名、さっきから気になっていたんだけど、助かるとかありがとうとかどういう意味なんだい?」
「無駄に絡んでくる厄介な後輩がいてさ、そいつと話したくないから正直話すやつがいて助かった的な意味。」
『ゆう君?それどういう意味かな?』
「やあ舞山さんじゃないか。」
「知り合いか?」
「いや、そうじゃないんだ。舞山さんはテニス部のマネージャーで、同じ生徒会の一員さ。」
「なら納得か。それにしても生徒会と部活って兼任できるんだな。俺部活入ってないし生徒会にも入ってないからてっきりできないとばかり思ってたわ。」
『そうそう、ゆう君が会長を論破したのもそこで聞いたんだよ。すごく爆笑しちゃった。』
「その話はもう終わっただろ…蒸し返すなよ。」
「あはは。でもあの会長に反論したっていう事実がまずすごいよ。そんな勇気普段から関わっている俺たちですらそう持てるものじゃないからね。」
『流石イケメン〜言動一つ一つがゆう君と違ってイケメンですな〜』
「お前なんで今俺の名前を出した?言ってみろ!」
『あはは。もう並ばないといけないみたいだよ。行こ!』
こいつ…タイミング見てさっきの発言をしたな。本当に性格悪いなこいつ。
こういうときは敢えて「本当にいい性格してるよ」とでもいうべきなのだろうか?
開会式中はずっと舞山の性格の悪さについて考えていた。
例えば俺の本音を敢えて出させた上で猛圧をかけるところとか、人の意見を聞かず、自分の意見だけを突き通すとことか、挙げればいくらでも出てきた。
幸い今回は校長の話のインタビューには引っかからなかったらしい。
これでもし引っかかっていたら舞山をもっと恨んでいただろう。
そのままラジオ体操も終わり、退場する。とにかくさっきの言葉をどんな嫌味を込めて言ってきたのかを確かめなければならない。
[プログラム二番は100メートル走です。1年生、2年生の皆さんは速やかに移動し待機してください。3年生の皆さんは1年生の最終走者が終わり次第、待機場所に移動してください。]
忘れてた。すぐに聞けないんだった。
俺なんて特に走り終わったあとすぐに3年生の100メートル走の出発係をしなければならないので尚更無理である。憂鬱だ。
どうやら1年の女子からもう始まったらしい。
すかさず藤室は応援し始めた。
俺も一応団役員…団リーダーなので藤室に続いて応援をした。
俺に対して周りが変な雰囲気にならなくて済んでよかった。
どうやら応援は嫌われていても問題ないようだ。
ちなみに俺の走順は足が遅いと思われているからだろうか、どうあがいても勝てないような陸上部ゾーンに捨て駒として配置されていた。
これでも前の学校では俺はサッカー部だったし、前の学校では陸上部の助っ人にも出ていた。
だからこそこの場で出しゃばって勝ってやろう。
陸上部の奴らとそのファンには申し訳ないが、この配置を決めたふざけたやつの顔をとにかくギャフンとさせたい。
一位は取らないが、三位くらいは取ってやろう。
そんなようなことを考えている間に、いつのまにか俺の走順が回っていたようだ。
「位置についてよーい【バン】」
勢いよく音がなった。
とりあえずスタートダッシュには成功した。
隣を走る音的にはほぼ横一列に並んだままだろう。
ここで全力を出し切って、体を壊せばリレーにでなくていいという考えが頭をよぎった。
その瞬間俺の体が少しだけ前に出た。そのままどんどん突き進む。
体を壊せばリレーを休める。
その一点しかその時は考えていられなかった。
そして後続を突き放し一着でゴールしてしまった。
結局その走りで怪我をすることはなかった。
無理をすれば怪我をするというが、しないこともあるらしい。
ただ筋肉を酷使しただけで、なんの効果もなかったことに項垂れていた。
ヘロヘロだが出発係をしなければならないのでフラフラと100メートル遠くのスタート地点まで戻る。
その時、ふと転びそうになる。
「大丈夫か?それにしても良く頑張ったな。陸上部相手に勝つなんて誰も思ってなかったみたいで全員口を開けてて面白かったぞ。思わず笑ってしまったよ。」
イケメン主人公藤室が俺に手を差し伸べた。
そしてイケメンなことに藤室はスタート地点まで俺に肩を貸してくれた。
本当にこいつに欠点はないのだろうか。
どこまでも完璧過ぎて、少し頭がクラクラする。
むしろ藤室の欠点は完璧すぎるところかもしれない。
そして無事俺は出発係で耳を痛めつけるのだった。
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