第33話 生徒会の包囲網 前編

 



 どうしてだろう。俺どうして学校に戻っているのだろうか。

 確か家の方向まで全力でダッシュして、先回りされて…

…あー捕まって連れてこられたんだった。

 俺、ドンマイ。


「で、どんな話を俺はされるんですか〜?」


「一週間ほど前の説教だけれど?」


「いや俺と資料のまとめだろ。俺を疲れさせたんだからな!やってもらうからな?な?」


「桐山さん。少し黙って下さい。私は今椎名さんと大事な話をしているんです。指導以上に大切な理由だというのならどうぞ言って下さい。そうでないのなら諦めて下さい。」


『会長いえ、星加先輩。あまり私怨でそういうことやったらいけませんよ。だからどんどん会長の怖い噂ばかり増えていくんじゃないですか… あまり脅かさないでやってくださいね。一応私の友達な先輩なので。』


「もっとフォローしてくれても…」


 そういうとすぐに舞山は耳元で『ごめんね。会長怖いから無理★』といってきた。

 鬼圧の化け物でおなじみ舞山までをも怖がらせるとは、一体会長はどんな化け物なのだろうか。

 今からでも寒気がしてたまらない。


「藤室ぉ~」


「俺から逃げなかったら、助けてあげてもよかったんだけどね。ごめんね?」


 イケメンだとなぜか許してしまいそうになる。

 そもそも弁当の袋を忘れたのだって、俺と舞山、藤室の雰囲気が急に悪くなったのが原因だろう。

 したがってこの二人が俺を助けない理由はないはず…


 はっ!もしかして会長って友情切り捨てでも逃げたいほど恐れられているのでは…?

 どうしよう。急に怖くなってきた。

 とにかくこの状況をどうにか切り抜けなければ。

 と言っても、もうほとんど詰み、っていうか完全に詰みな状況に陥っているような気もしないでもないが。


「別に軽く説教するだけなのですけれど?そん名に怖がらなくてもすぐに終わりますから。口答えせずに私の話を聞いて、聞かれたことにだけ答えてくれたら構いませんから。そうすればすぐに話は終わりますよ。」


 淡々と、顔色も変えずにそれだけを告げてくる。

 寒気がした。

 美人に無表情で無感情的な言葉を向けられるのって考えてた以上に恐ろしいんだなって思った。

 感情的じゃないところがより怖さを演出している。


『頑張ってね~』


「いやだ~!~!」


「でいきなり質問しますが、以前の私への侮辱はどういう意味ですか。」


「事実を述べただけです…」


「そう。世の中には言って良いことと悪いことがあるのを知っていますよね?知らないなんて言わせませんよ。桐山さんに散々そのことを熱弁していたのを私はちゃんと覚えてますから。このことを踏まえて、何か申し開きはありますか?」


「いえ、あれは世間一般の女性を指しているのであって、決して会長のことを指しているわけでは…」


「では質問を変えましょう。なぜ私の対応について、あなたの言う女性の取り扱い方を話していたのですか。私のことを指していないのであれば、あの時その話は出ないと思うのですが。ほかにいうことはありますか。」


「そもそもあれは桐山を説得するためにいった訳で、決して会長にいうつもりじゃなかったですし…」


「だからって私の前で話す内容ではないと思うのですが。」


「うぐっ…返す言葉もありません…」


「意外とあっさり認めるんですね。もっと言い訳をしてくるものとばかり思っていました。」


「言い訳ばかり言っても意味ないですから。身をもって知ってますし。」


「と言いますと?」


「俺、両親が離婚したんです。両親の中が悪くなるのは決まって父が母に言い訳をしているときでしたからよく覚えてるんです。」


「そう…申し訳ないことを聞きましたね。説教はまた後にお預けにしましょう。今は私も作業があるので説教を長々としてる暇もありませんし。」


 そうしてあまりにも短く拍子抜けな説教が終わった。

 俺としてはむしろありがたいといえばありがたいのだが、このまま帰られる自身はない。むしろ遅くまでこき使われる未来が見えた。




_________




「お。ずいぶん早かったじゃないか。大丈夫だったか?」


「会長は化物だからな?大丈夫なわけがないに決まってるじゃないか。何を言ってるんだ藤室。お前は頭までお花畑になったのか?」


「そんなこといってるとまた星加会長にどやされるよ。それは置いといてどうだったんだ椎名?」


「みんなが言うまででもなかったぞ?まだ舞山のほうが怖いまであるな。」


『酷くない?あ~あ、ちょっと凹んじゃったなぁ~、どうしようかなぁ~。』


「ゴメンって。今度何か付き合うから。ねっ?許してください舞山様~。」


「桐山君。藤室さん。話があります。少しこちらに来なさい。」


「椎名助けてくれっ~」


「本当に頼む。桐山はいいから俺だけでも助けてくれ。」


「おいっ!藤室その言い方h…」


「文句言ってないで早くこちらに来なさい。」


「「はい…」」


『それはそうと、どうしてくれるのかな?』


「えっ?どうしたら…」


『じゃあ…名前で呼んで?』


「え。無理。」


『そこまで即答しなくてもよくないかな…私さらに傷ついちゃったんですけど… 責任とって名前で呼んで。ね?』


「舞山。」


『下の名前だって。分かってて言ってないんだよね?』


 圧が強くなってきた。やはり会長よりも舞山を怒らせたほうが怖いのかもしれない。


「舞y…美咲。」


 空気が静まる。え?なにこれ超気まずい。


『…何か照れるね。ゆう君。』


「お前に下の名前で呼ばれてもなれてるから何も感じないわ。悪かったな。」


『今ので雰囲気ぶち壊れだよ~もう!』


 どこか生ぬるく、どうとも表せない風が二人の間にスーッと流れていた。

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