第22話 『主人公』
土曜日に荷物持ち、日曜日に団役員の練習があったせいで休日ですら休めず、まだ疲れが取り切れていないようだ。
肩が痛い。
おそらく一昨日一日中荷物持ちをさせられていたのと昨日応援ダンスと型を踊らされ続けさせられたからだろう。
これはもう完全に奴隷とおなじ扱いではなかろうか。
現代社会においてはこういうのは社畜といわれるらしい。
つまり俺の将来は社畜と…なんか嫌だな。
いやすごい嫌だ。
「おはよう藤室。お前は相変わらず早いな。」
「そういうお前のほうが早いじゃないか。まじめで偉いな。」
「お前は俺の親か何かかよ…」
「あはは。ちょっと一通りの動きをするから見ていてほしい。どこか至ってないところがあれば教えてほしいな。」
「お前本当に努力家だよな。いいぞ。ほら、やってみせてくれ。」
(無駄に動きがかっこよく見えるんだよな。イケメン補正というものだろうか。コイツの場合は性格もイケメンだからそっち方面でも補正がかかっているのかもしれないな。それにしても憎い。俺が見本通りのダンスとするなら、藤室のはキレキレのダンスである。これに補正がかかってるってマジ?そりゃモテますわ。)
『おはよ♪朝から外で何してるの?』
「見て分かるだろ。練習。俺、団役員何だよ。」
『う〜ん…団役員は応援しない係も含まれるし、どっちかといえば応援リーダー?』
「細かいとことはどうでもいいから。はい練習の邪魔。」
「まぁまぁ。少しくらいは休んでもいいんじゃないかな?」
「まぁお前キレキレで完璧だったもんな。どうだ教習係代わってみないか?」
「遠慮しておくよ。俺に務まるかわからないし、今までできていた人に頼るのが常とうってやつ何だろ?今更俺一人入ったところで変わらないさ。」
(いや女子のやる気とか上がるだろ。…まさかこいつ自分のイケメンさ加減を自覚していないのか?なら納得できる。できるがこいつには犠牲になってもらわないとな。全ては俺が楽するために、だ。)
「いや、一人じゃなかなか手が回らないから頼むよ。」
「別にいいけどさ。でもいつも集まってるみんなもほとんどできるようになってるじゃないか。」
「そうだけどさ…一人は荷が重いんだよ…」
「分かったよ。引き受けるけど、サボらないでね?」
「分かってるよそんなこと。」
いつも通り団役員のみんなが集まってくる。
昨日の一日特訓のせいか全員疲れているみたいだ。
これで疲れていないような顔をしている藤室はバケモノなのだろうか。
訂正、バケモンみたいなスペックのイケメンだったわ。
こいつ絶対に物語の主人公かなんかだろ。
それにしてもこんなバカみたいな話を藤室とするなんて奇跡か何かだと思えてくる。
カースト最上位ってこんなにも眩しいんだな。
再び訂正、こいつはイケメンな時点で眩しいわ。
日陰いや洞穴の奥底にいた俺にはあまりにも眩しすぎる用に思える。
正直な話、さっきから昔の俺みたいに振る舞っているが、今の俺では本当に目が焼けてしまいそうだ。
いつからこうなったんだっけな。
本当に人って出来事一つ二つで性格が良くも悪くも変わるのだと実感する。
藤室には同じような経験はあ…いやないな。
絶対にない。
そうでなければあそこまで純粋な陽のオーラを全開に纏えるわけがない。
藤室がいい人なのは重々承知しているが、それでも本当に爆発して欲しい限りである。
こんなイケメン主人公がいるのだ。
邪魔をしないように俺はモブに徹しよう。
しかし、今更学校の嫌われ者がモブになろうとしてもなれようがないという正論によってその考えはすぐに消え去る。
そんなこんなで朝練が終わる。藤室はテニスの練習しなくていいのだろうか。そう思い聞いてみたらもっと早くにやっていたらしい。本当に真面目だと感心する。
「おはよー。いいよな桐山は呑気に朝から過ごせてさ。俺なんか規則厳しい運動部かよってくらい早朝に集まらさせられたわ。」
「疲れた自慢か?ご生憎さま俺は休日もしっかり休めたし、朝だってお前が学校着く頃くらいに起きた。どうだ?ズルいか?」
「ああズルい。ズルすぎる。今すぐにでも校舎いや学校の敷地の外を10周してほしいくらいだ。」
「そんなこと言われてもしないぞ?それより昨日のアレ何だったんだよ」
「昨日説明した通りだが?」
「しらばっくれるなよ。あれは完全にデートだ。デート以外なら何なんだよ。」
「拷問」
「お前それ本気で言ってんのか?今ウチの学校の全男子を敵に回したぞお前。」
「そもそも全員から嫌われてるので問題なし」
「うわ。お前悲しいな。」
プチッ。何かが切れる音がした。すかさず俺は桐山の耳元に口を当て、おそらく今当人が一番嫌がるだろう言葉をかけた。
「シスコンってバラしちゃっていいのかな〜 舞山から写真もらってるから証拠もある。これグラスの男子に晒すよ?」
「それだけは勘弁してくださいお願いします。」
「どうしよっかな〜」
その瞬間扉の開く音がした。
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