「君は初めましてかな？僕の名前は…」

「あっ別に聞く気ないのでいいです。」

　俺も周りに合わせてスルーすることにした。

　他の人たちが関わろうとしないのはこの人が多分面倒くさいからであろう。

　見るからにして意識高そうな服とかアクセサリーとかをつけてる。

　高校生しかもただの遊びでこんなものをつけてくるだろうか。

　そういう人もいるだろうが、この人は違う。

　直感からそう思った。

「つれないな〜流石に名前が分からないと君も困るだろう？同じ生徒会の一員じゃないか。隆二君から聞いたよ。優君？」

「初対面ですよね？馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで下さい。」

　普段の俺であれば多少驚きはするものの、下の名前を呼ばれた程度ではこんな反応はしない。

　でもこの人への対応としては最適解であると直感が大いに警鐘を鳴らしてきた。

　もし杞憂であったなら申し訳ないがまずそんなことはあり得ないだろう。

　俺の直感がそう確信している。

「別に名前くらいいいじゃないか。えっと僕の名前はね…」

「別に聞いてません。いや、聞きたくもないです。」

「君…よく会長ににてるって言われない？」

「ないですが？とにかく話しかけないで下さい。」

　会長に似てるかといえば全く違うだろう。

　真反対とは行かないが、それなりに対局の人間である気がする。

「副会長も来ていたのですか…」

　会長がポツリと呟いた。

「お〜あややじゃないか！もしかして僕に会いに来てくれた？」

「そんな訳ないです。話しかけないで下さい副会長。」

「相変わらず堅いな〜ほらほら名前で読んでよ。何回も言ってるじゃないか。いとこだろ？」

「嫌です。遠慮しておきます。」

　この絵面はなかなかに面白いな。

　てかこんな変なやつが会長のいとこ？

　確かに顔は整ってはいるが他の生徒会の面々と比べると見劣りしている。

　性格なんて自信家であること以外がまるで違う。

「ほらね？似てるでしょ！僕とそっくり。ちなみに僕の方が年齢は下だよ？」

　どうでもいい。面倒くさい。

　ここは無視だ。

　直感だけでなく、理性までそう告げてきた。

　桐山に押し付けるのが吉であると警鐘を鳴らしている。

　しかし、桐山は美咲の説教を受けている最中である。

　よってその説教が終わるまで耐え抜かなければならない。

　つまり桐山をフォローしなかった俺の自業自得？である。

「僕の名前は鳴沢（なるさわ）憧斗（しょうと）だからよろしくね？」

「…会長、この変態何なんですか。嫌な雰囲気がビンビンしてるんですけど。正直ウザいです。」

「私じゃなくて本人に言えば良いのではないですか？なぜ私に言うのでしょうか。確かにこの人は自意識過剰な人ですし、テンションもいつもおかしいので関わりたくないのは事実です。しかしそれに私を巻き込まないで下さい。」

「会長…　おい！響也なんとかしてくれ！」

「ア、俺トイレ行ッテクルカラ。ジャアナ…」

「ちょっ逃げるな〜！」

「君はまだ僕の素晴らしさに気づいていないようだね。今からでも僕が君に僕の素晴らしさについて語ってあげるよ。」

　このままではマズイ。

　かくなる上は…

「うっ。…俺もトイレ行ってくる！」

「僕の美しさをどうやら直視できなくなってしまったようだね。無理もないよ。だって僕は至高なのだから。僕のこの天才的な頭脳に、ずば抜けた運動能力、神が僕のために与えたとしか思えないこの容姿、特にこのキリっと整った目尻に、潤いあふれる唇、ハーフのように高い鼻に…」

『ふぅ。やっと副会長自分の世界に入ってくれましたね。桐山君が今はいないので、あの人を誰が止めるかずっと気が気でなかったです。』

「そっそうですね。あっあのこれいつまで…持ちますか、ね？」

「少なくともあと五分は持ってくれると思います。そこからが不安ですが…」

『えっえっ何の話～？』

「副会長…が…来て…しまって…その…」

『把握。桐島君？対処お願いね？』

「わかったから、俺を睨まないでくれ～！」

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「ふぅ。逃げられて良かった…　それにしても響也？どうして逃げたのかな？」

「優だって逃げただろ？それに副会長はあまり得意じゃないからね。ごめん…」

　納得がいかない。せめて連れションでもしてくれたらまだ良かった。

　あの意識高い系というより完全なナルシストの副会長らしい人は、トイレしているところとか誰にも見られたくなさそうだし。

「それなら俺もトイレに誘えばよかっただろ？言い訳はあるか？」

「…ないね。本当にすまなかったと思ってるよ…」

「オッケー一先ずは許してやる。それにしてもいつまでここに居ればいいんだよ。公衆トイレってあまり長いしたくないんだけど。」

「それなら残念だったね。あの副会長をおとなしくできるのは桐山しかいないから、さ。舞山さんが説教している間は無理だよ。出たほうが地獄だ。それでもいいなら戻ればいいんじゃないか？」

「…桐山マジで許さん。」

「それは俺も少し同感かな。副会長だけは呼ばないでほしかったよ。」

　そして５分が経った。

「もうそろそろ出るか。さすがに疑われるからね？」

「そうだな。副会長らしい人が懸念だけど…」

「やあ二人ともスッキリしたかい？それならば僕の美しさを…」

「先輩？そんなこと誰も思ってないから。妄想で物をいうのはやめようか？藤室に女子人気で負けてること忘れた？顔の作りだってこの生徒会では中の下なの知ってるよね？成績だって会長に負けるのはともかく、他に4人も上の奴いるよな？それに運動神経もこの生徒会だったら憧斗先輩は最底辺だよ？憧斗先輩って精神年齢低い？やってることが完全に中二病の少年と変わらないもんね？今日俺の前で同じことをしたなら肯定ととらえるから。わかった？」

　いつもだらしなくて、たまにチョロくなるヒロインな桐山がまさかここまで頼りになることを言ってくれるとは思わなかった。

　そうか。ここにいる奴は桐山以外は誰も正論からの挑発とかしないタイプだったな。

　焦った顔をしているナルシストはいい気味だった。