第二章 転換(一学期中編)

第13話 新しい日々と爆弾




 今日は水曜日。

 特になんてことない日だが、体育、総合、HR、保険、公共が被っているため非常に楽な日である。

 そのためか気持ちが軽い。

 それだけじゃないだろう。

 友人もできた。気持ちが弾む。

 これを普通だと思っているやつがいたら挙手してほしい。今すぐ捻り潰すから。

 それはさておき、少し気分が乗っていたからだろうか?

 今日はかなり早めに学校についてしまった。

 え?生徒玄関開いてないじゃん。

 少し萎える。チャイムを鳴らそう。待つの嫌だもん。立ったままスマホも何かと疲れるし。誤差ではあるけれども。


「椎名。少しくらい待てばいいものを。お前本当に…椎名らしいといえばらしいか。今度からは気をつけてくれ。」


「はいっ、イケメン先生!!!!」


 朝からイケメン先生にあった。

 朝のHRよりもいち早く会えるなんて、今日の俺は運が良いらしい。

 自分の教室についた俺は先生の声と整った顔を思い出す。今日は楽な日ではあるが、俺は勉強する手を止めることはない。

 朝から今週の週間課題を終わらせるために、まだ授業では習っていない問題を解く。

 今週の予習はすでに終わっているので造作もない。

 一つ分からない問題があった。

 後でイケメン先生に聞きに行こう。

 そう思い、その問題文が書かれたプリントを畳んでポケットに突っ込んだ。


(それにしてもイケメン先生いい声だったな〜)


 しばらくして続々とクラスメイトが入って来た。

 今日の俺は気分がいい。

 そのせいか一瞬俺の方から話しかけてしまいそうになった。

 危なかった。

 調子に乗って、転校初日のニの前になるところだった。

 直前で自分の気持ちを押し留めることができたことを自分自身で褒めちぎった。


 大きなあくびが出た。

 いつもなら女子から罵声が、男子から嘲笑が聞こえるはずだが何故かそのどちらもなかった。

 喜ばしいことだと思う。


「よう、朝からあくびとか相変わらずだな。昨日お前の家の前に舞山さんがいたが本当に腐れ縁か?もっと違う仲だったりしないのか?怪しいなお前。」


 昨日仲良くなった桐山が話しかけてきた。

 と言ってもうざ絡みである。

 特に今一番ここで出してほしくない話題を出してきた。

 しかも普通に他のクラスメイトにも聞こえるくらいの音量ではっきりと聞いてきた。

 男子の視線が一気に集まっている。

 逆恨みがなにかだろうか?本当に舞山が絡むとろくなことにならないな。


(まあ、退屈はしないが。)


「いや?テストの平均点で勝負してただけだぞ?結構ギリギリで焦ったわ。あとニ点低かったら負けてたしな。本当にヒヤヒヤしたよあれ。」


「お前そんな事やってたのかよ。それで友達でもないって本気って書いてマジか?」


「マジまじ、本気のマジだぞ。いったじゃないか腐れ縁だって。」


「にしてもお前羨ましすぎるぞ。爆発しろ。」


「俺はむしろ普通に過ごせている他の奴らに爆発してほしいのだが?」


 やっぱりか。今日も噂になっている。どうやらまた舞山のやつ遅刻したらしい。今回に関しては本当に早くきていたので、嘘つくこともなく言い逃れができる。やったね。


(…また舞山俺の家の前で待っていたのか。律儀っていうかなんていうか…)


 特に今は考えても無駄だと判断した俺は、今日の体育の意気込みを新たにする。イジメられているやつが調子に乗ったら駄目かなと思いある程度体育では手を抜いていたがこれからは全力でやれる。とっても楽しみだ。


______________



 2限目 体育だ。

 よし頑張ろう。

 息を吸って気持ちを新たにした。

 運動部のエースほどの運動神経はないけれど、一並み平均以上は動けるはずだ。

 そう思い、バスケをする。スリーを入れた。

 そうしたら名前のわからないチームメイトから褒められた。

 他意はないだろうが、それでも嬉しかった。これがあのテストで一位を取らずにやっていたらと思うとゾッとする。

 やはり偏差値の高い高校では、それなりにテストの点数も重要らしい。

 本当に今回のテストはがんばってよかったと思う。

 俺が100点を取った教科の先生はそのことを棚に上げて、他のクラスメイトをバチクソに叱っていた。

 ざまぁと思う半面、申し訳ないとも思ってしまう。

 ドリブルからのレイアップシュート。決まった。久しぶりにちゃんと体育ができることに感動し震えていると、桐山が話しかけてきた。


「お前って意外に運動神経もそれなりなんだな。」


「まあな。十キロを全力で走れるくらいの体力はあるし。」


「それ本気?マジならマラソン選手にでもなれよ。多分ほぼ絶対に世界大会でメダル取れるぞそれ。」


「そんな大げさな〜」


「いやいや大げさじゃないって。事実だから。」


「でもマラソンとか面倒だしいいや。」


「お前勿体ないな〜」


「俺は別にそう思わないけど?まあ持久走とかはいつも全力で走ってやってて、誰もついてこれてなかったな…でもそれってみんな本気出してないだけじゃないか〜」


「もう…いいや。おい試合始まるぞ。行ってこいよ。」


「はいはーい」


 そうして体育が終わった。

 大成功だった。

 途中、桐山に呆れられたが、別にそれは構わない。

 本当に良かった。

 これでようやくイジメが終わった。

 そんな感覚がした。

 それでも嫌がらせしてくるやつはこのクラスの中にいるだろうけど。


 昼休みになった。


「おい、椎名一緒に食おうぜ〜」


「別にいいけど」


「お前の言い方なんかムカつくな」


「ムカつくってなんだよ。」


「いや?ムカつくってだけだけど?」


「おい。」


「ごめんごめん」


『ゆう君いる?あっいた!ゆう君一緒に食べようよ!ね?いいでしょ?』


 舞山が急にウチのクラス入ってきて、爆弾発言をかましてきた。

“ゆう君”と言ってきたのだ。

 クラスの目線が一斉にこっちに向く。

 すっごい気まずい。

 久しぶりの気まずさだった。とはいえ昨日ぶりだけれども。


「おっま〜え。これはどういうことだ?言い逃れはできないぞ。あ?」


 桐山がキレ気味で訪ねてくる。

 マズイ、本当にマズイ、俺は今の状況でどうすればいいのだろうか。

 俺は頭を抱えた。

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