第51話 クレーンゲーム




 美咲と壮絶な戦い(圧勝)を遂げた後、俺はほかの生徒会メンバーが集まっているクレーンゲームの前に到着した。

 後ろから恐ろしい形相で追いかけてきた美少女を無視して、話に入った。


「なかなかこのぬいぐるみ取れませんね…誰か手伝ってくれませんか。」


 いや、そこは頑張って一人でとるから楽しいと思うのだが、気のせいだろうか。


『え!私やってみた~い!』


 こいつに本当にできるのだろうか。

 さっきからゲーム初心者の俺にことごとく負けている美咲さんである。

 むしろできないことが目に見えている。


「舞山はやらない方がいい。さっきから散々椎名に負けてるじゃんか。」


『でも、クレーンゲームはできるかもしれないじゃん!ほら!取れた!』


「あ、ありがとうございます。でも私がほしかったのはあっちの猫さん…」


 会長本当に会長ですか?

 マジで未だに信じられない。あのすぐ切れる会長がクマのぬいぐるみをアイコンにしていて、それに加えてぬいぐるみの入ったクレーンゲームを前に目をキラキラとさせている。

 本当に別人でしかない。


「響也!俺たちはあっち行こうぜ!」


「ハイハイ、分かったよ優。」


 これでドヤ顔をして自慢してくる美咲を回避できる。

 せめて俺も何かを取らなければ面目がたたない。


「くっそー全然取れね~これ本当に楽しいのかよ…」


「あはは。確かに取れないと楽しくないのかもね。でもほら、取れるとやっぱ楽しいよ。」


 クソイケメンだなこいつ。クレーンゲームもできるのかよ。

 やっぱ世界は美男美女に能力と特権を与えすぎだと思う。


『あの~この抱き枕どうしてもほしいんですけどどうしても取れなくて…』


「行けっ!藤室!クレーンゲーム操作だ!」


「ハイハイ、分かったよ」


「ねえ?使い回しの返事したよね?やっぱり俺のこと適当に扱いすぎじゃない?」


「うるさい優は後回しにして、でどの抱き枕ほしいの?」


『この真ん中の豚さんの奴が欲しいです。』


「豚っておいしいよな~っげふ、急に殴るなよ響也痛いんですけど?」


「せっかくの楽しい雰囲気が台無しだ。少しは空気を読んでくれ。」


「え?だって水族館のマグロ美味しそうとか、鮫うまそうだな~とか思わないの?」


「普通の人はな。少なくともそんなこと言われたら大体の人の気分が下がるぞ。」


(し、知らなかった…マジか。普通の感覚だと思っていた。だって水槽にいるのといけすにいるのって変わらないじゃん。どうしてそれで美味しそうという発想に至らないのかが本当に理解できない。理解できないがそういうものなんだろうな…)


「とりあえず、優は無視しよう。えっとこの真ん中のやつか…難しいな、一回やってみるよ。」


『お、お願いします!』


__________________________


「ごめんね。これきつそう。アームが弱くて…相当うまくやらないと無理そうだ。」


『そ、そうですか…』


 どうしたのだろうか。きっと響也ならもう取ってあげたんだろうな。


「お~い!無視すんなって。で取れたのか?」


「残念ながら取れなかったよ。アームが弱くてね。どうやってもきつそうだった。何回でも調節できるタイプだったからできると思ったんだけどね。」


「ふ~ん。ちょっと俺にやらせて。」


「できないとは思うけど、やってみるだけやってみるなら試しに残りの回数でとったら?俺はもう諦めたから。」


 何回でもできるんだろ?周りに店員もいない。こうなればこっちのもんだ。

 あまりこういうのはよくないかもしれない。

 事実これをやった友達は出禁になったらしい。

 それでも俺はやる。

 全ては美咲を見返すためになあ!


「これを繰り返してっと、よし奥の崩れた!ほら入ったぞ!なんかめっちゃ手に入っちゃたけどどうする?」


「優は常識って知ってるかい?」


 そんなの当たり前だろ。


「いや?知ってるよ。何急に。」


「知ってる奴はそんな奇想天外なことはしない。」


 いやまあそうだけれども。知っててやったんですよ。別に俺に常識が無いわけではない、あえて常識とは違ったアプローチをしただけである。


「でも取れたからいいじゃん!それにしてもこの量よ。全員で分けるか。」


「それしかないだろうな…」


「佐伯さんもハイ。これほしかったんだろ?と言っても響也のお金でとったから勝手には渡せないよな…響也!これ佐伯さんに渡していいか?」


「別にいいよ。優がとったんだから優の好きにしていい。それとも何か条件つけたほうがよかったか?」


「いや助かる。ほら豚さんのぬいぐるみだぞ~ どうぞ」


『それ聞いてたんですか!?恥ずかしいです…でもありがとうございます。』


「全然いいよって、げっ美咲が来た。」


『人の顔見て嫌がるとか失礼だと思うな!それよりもさ見て見て~!沢山とったの!』


「ふっ。俺もだ。」


『これじゃあ同点じゃん。つまらないの~』


 俺としてはむしろ平和的結果だった気がする。


「あ、俺こんなにいらないから全員一つずつ持っていってくれ。」


 危ない、危ない。

 こんな大量の抱き枕を持ち帰る羽目になるところだった。

 

「いいのでしょうか。それなら私はこのくまさん…熊のをもらいます。」


(今くまさんって言ってましたよね?誤魔化し方下手なんですか会長!)


 そんなこんなで初めてのゲーセンは予定よりも意外と楽しく過ごせたのだった。

 ただ一人不満そうな美咲を除いて…


(本当にすまないみんな、美咲を不機嫌にしたの俺だったわ…雲行き怪しくしてごめん!)

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