第17話 団役員の仕事




 金曜、今日は団役員の打ち合わせがあるらしい。

 というわけで朝から体育館にいる。

 時間厳守と書いてあったので、15分前にいち早くきてたのだが、どうやら早すぎたらしい。

 時間を持て余していると、藤室さんがやってきた。コイツは真面目らしい。ちゃんと10分前行動するタイプのようだ。


「おはよう。椎名くん早いね。いつから待ってたの?」


「いや、そんな待ってないぞ。言うて5分前だし。」


「そっか〜、椎名くんってさ普通に話しやすいのにどうして嫌われてたの?」


 こいつシンプルになおかつ悪意なく人の精神を蝕んでくるタイプの人間だったのか。

 俺とは相性が悪い。すぐに倒されそうだ。


「知らん。気づいたらそうなってたってだけ。」


「ほんとに?そっか…あのさ前の学校のこととか聞いていい?ほらさ椎名頭いいじゃん。どんな感じだったのかなって」


「頭の良さとそれは関係なくないか?まあいいや。普通に友達とバカ言い合って、それなりに充実した学校生活を送ってたよ。細かいとことかはあんまり聞いても新鮮みないと思うけど。」


「いいから、いいから」


「オッケーそれで…」


______________


 藤室に昔話を語っているうちにいつの間にか全員が集まっていた。

 数秒経って先生が入ってきた。何と…イケメン先生である。今日も芸術品のような美貌が冴え渡っているようだ。そんなことを気にする間もなく、先生は説明を始めた。

 団役員の仕事はまず、ダンスと型を覚えて、他の団員に教える。

 自分たちの学年の並びを調整する。

 閉会式、開会式で列の先頭を務める。

 そして応援合戦で団役員だけの特別なダンス、型を踊ることらしい。

 ちなみにパネル係はパネルを書くだけで他に役割はないらしい。

 大体前の学校と同じだな。

 昼にダンスの練習をするらしい。

 やりたくないな。でもやらなきゃいけないのか。


_______


 昼休みになった。

 ダンスと型をまず見せられた。

 流石にまだ3年の先輩たちの動きもぎこちないようだ。

 次は実践して見るらしい。

 よしここは小学生のときにダンスを母親にやらされていた俺がお手本を見せるとしよう。

 でしゃばってしまった。

 一人だけキレキレで覚えていたら驚くよな普通。

 俺だって多分驚くもん。

 しかも俺、何なら今ダンスと型覚えたばっかりだし。

 引かれるのも当然か。


(それはそうとして何で3年の先輩じゃなくて俺が教える係になっちゃったの?何なら3年の先輩にまで教えてるし。でしゃばらなければよかったよホント。)


 そして放課後。

 また同じ目にあっている。

 3年の先輩に2年の団役員が教えるって何?と思わずにはいられない。


「椎名ってすごいんだな。」


「急にどうした藤室?」


「いやさ、嫌なことを率先してやれるところとか、ダンス教えるのうまいとことかさ。」


「普通じゃね?そもそも前者は帰りたかっただけだし。」


「それにしてもすごいさ。普通にできることでもないと思うしね。」


「はっ。お前やっぱイケメンかよ」


「さてどうだろうね。そういえば椎名って部活とかやってる?」


「いーや。やってない。そもそもこの状況でやれると思うか?ムリムリ。このほうが気楽だし別にいいよ」


「じゃあさ、生徒会入ったらどうかな。あそこなら君を卑下するような人は少なくともいないと思うよ。」


「信用ならないな。そもそも生徒会とかクソ面倒くさそうだから興味ないね。あと、お前足止まってんぞ。練習なんだからサボるな。」


「ごめんごめん。あはは、それにしても振られちゃったね。」


「腐女子が誤解するような言い方はやめてくれ。頼むから。」


「分かったよ。でも考えといてね。」


「考えるだけならなっと。」


 放課後の練習が終わった。

 こういうのって大体女子とのイベントがあるのがラブコメの通説ってやつじゃんか。

…俺は何を言っいてるのだろうか。

 自分のことをラブコメの主人公だとでも思ったのか?

 全く自意識過剰過ぎて自分が嫌になった。

 それはそうとして何でイケメンとのイベントなんだよ

…まあこんな機会滅多にないし役得っちゃ役得か。


_______



 たまたま舞山さんと(残念なことに)帰宅時間が被ってしまった。

 どうやら舞山さんはパネル係らしい。

 休日も来ないといけないのか…可哀想に。

 俺もパネル係の経験があるが、大事な大事な休日が潰れると思うと同情をせざるを得ない。

 ただ、同情している俺とは裏腹に彼女はそこまで気にも留めていないようだ。


(本人が気にしてないならいっか。)


『パネル係になっちゃった〜。休日潰れるのかな…嫌だなー っていうか休日潰れたら勝負の報酬受け取れないじゃん!!」


「ほう。それはこちらとしては好都合だな。」


『そんなこと言わないでよ〜』


「でもまだ構想とか決まってないんだろ?それなら休日出勤はないんじゃないか?」


『休日出勤?会社じゃないし学校だし。』


「はいはいお前は冗談もわからないのかよ」


 何だかんだ俺はこの学校生活に満足しているのかもしれない。

 不本意だが舞山がいなければ、前回のテストのときに本気を出す決心はつかなかったかもしれない。

 そう思うと自然と感謝が溢れてくる。

 それにしてもこれから毎日指導しなければならないと思うと億劫である。

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