交代
ロロ子爵家の当主が、逃げ帰った後。
「よ、良かった、のか……?」
父上が僕へと敬語もなしに声をかけてくる。
「お、お前は……まだ、若い。もう少し、私に」
そちらの方に視線を向けて見れば、非常に複雑そうな表情を浮かべて口を開いている父上の姿があった。
「……父上?」
「お前は、特別な子だ。我ら一族が求めた逸材だと言っていい……だが、それでも。今少しは遊んでいても良いのだぞ?」
「ふっ」
僕は今になった、父親としての姿を……いや、おそらくはずっと持っていたであろう父親としての葛藤を見せてくる彼の姿に笑みを浮かべる。
「貴方は、僕にとって間違いなく自分の父だよ」
前世だろうが、今世だろうが、僕にとって父親とは厄介ごとを持ってくる存在なのだ。そして、父親がもってきた厄介ごとをこなすことで僕は実力と自信を身に着けるのだ。
「だからこそ、任せてくれよ。僕はこの程度で止まるほど弱くはないさ」
「……ノア」
「僕は誰よりも自由で、誰よりも傲慢だ。そんな僕が落ちることなど一度たりともない。あるはずがない」
前世の僕は色々なものに縛られていた。
だからこそ、今世は自由に生きる。
その理念を曲げるつもりは毛頭ない。
「安心してよ。うまくやるからさ……自分はただ、あんな小物に頭を下げたくも、自分の親が下げていることも見たくなかっただけなのだから」
「そう、か……やはり、強いな。ノアは」
「まぁねぇ」
父上は知るはずもないことだが、僕には前世からの貯金があるからね。
「すべてを任せよう。元よりそのつもりであった。今すぐにも当主の座を譲れるような準備は前もってしてある」
「おぉ」
「故に乱雑な書類仕事は私がやっておきます……ノア様は、見回りの方をよろしくお願い致します」
「わかったよ。それじゃあ、後のことは色々とお願いね?」
「承知いたしました」
父上が僕の言葉に頷いたのを見て、自分は部屋から出るための扉の方へと向かっていく。
「今までお疲れ様、父上」
そして、部屋から出る前に、自分の父上の方に僕は一声かける。
「いえいえ、むしろすま……いや、ありがとう、だな」
「ふっ、あぁ」
僕は父上と言葉を交わした後、執務室から出ていく。
何だかんだで、どうしようもないほどに親失格で、ダメダメな父親に僕はかなり愛着を持っているのだ。
「ふふふ……僕たちに喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるよ」
先に、弓を引いてきたのはあちら側なのだから。
せいぜい後悔してもらうこととしよう。
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