新当主

 堂々たる態度で言い放った僕に対して、ロロ子爵家の当主はこちらを憎々しい表情で睨みつけている。


「こ、こんなことをして!許されていると思っているのか、若造……我は国王陛下に仕えし貴族だぞっ!」


 そして、そのまま口を開く。

 だが、その口より語られる内容にも、憎々しい表情を伝う冷や汗も、それらの全てが彼を小物へと仕立て上げていた。


「それは辺境にいようが中央の小さき屋敷に住んでいようと変わらぬ」


「……っ」


「聞いてわからなかったか?子爵家と辺境伯と格が違う。命令は大人しく聞き給えよ。去れ、僕はそう言ったんだよ?」


「我ら中央貴族をただの子爵家と同等にするかっ!」


「そんなものに何の意味がある。領地も持たぬハイエナが、あまり偉そうな口ぶりで語るなよ?」


 僕はどれだけ睨みつけられようとも一切引くことなく毅然とした態度を崩さない。


「な、長らく領地を停滞させた分際で」


「今は浮ついた。僕の手によってな。その功績で当主に立つのだ。何が不満だ?言ってみろ」


 大魔の森林にいる魔物の間引き。

 領土内の民衆に肉を配ることで餓死者の数を劇的に改善。

 長らく使えていなかった鉱山を再開にまでこぎつけ、鉱山を守る土地神まで連れてきた。

 今も水質改善の為、川で悪さをする魔物を倒してくれる冒険者を募集して大量に金をばら撒いている。

 そして、大金を手にした冒険者が後先考えずにすべてうちの領地で落としていってくれていることもあって今は絶好の好景気を迎えている。

 まさに完璧な功績だ。


「ぐぬぬ……」


 それに文句をつけられる者などまずいないであろう。

 それだけ完璧な、輝かしい功績である。


「他者の、利益を奪い取るハイエナ風情が……っ!」


「そんなもの何一つとしてないな」


「……ただの、幼き餓鬼がここまでの功績を一人で上げられるわけないだろうっ!」


「それは、貴族家の当主が嘘をついている……ということでよいかな?であるのだとしたら、名誉侵害で訴えることになるが」


「うっ……!?」


「いい加減。こちらも限界だぞっ?」


 僕は更に一歩。

 ロロ子爵家の当主と距離を一歩詰め、彼を全力で睨みつける。

 その際、魔力と殺意を込めることもしっかりと忘れない。


「ここで、無様に食われぬうちにさっさと引き下がれ……それが身の為であるぞ?ロロ子爵閣下」


「……くそがっ!?」


 僕の圧に耐え切れなくなったのだろう。

 ロロ子爵家の当主はどこまでも情けない姿を見せながら、逃げるように僕の前から去っていくのであった。

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