出立
竜を殺し、鉱山も再び運営を開始出来るようになった。
大魔の森林における問題も片付き、飢餓の問題も当面の間は問題ないであろう。
しっかりと農民も暮らせていけるように、彼らの作った農作物は我が家の方で適正価格の元で買い上げているので、無料で食料を配布したことによるデメリットは今のところなし。
「……はぁー」
半年も経たぬ間に領地の状況がかなり持ち直してきた中で、父上は面会を求める貴族たちの対応に追われていた。
こちらは辺境伯だと言うのに、明らかに格下の貴族であっても舐めくさった態度で来るので、交渉する父上も一苦労である。
産業不足と食糧問題も解決した我が領は単独で国として独立できるほどに強力なのにそれでも舐めてくる相手がいるとは……三世代と続く衰退が齎す影響力の低下は著しいのだと改めて感じさせられる。
「父上」
疲れ切った様子で椅子の上に座りこむ父上へと僕は声をかける。
「お、おぉ……これはこれは。ノア様や。如何なさいましたか?」
「ちょっとした頼みごとがあってな」
「おや?なんでしょうか?」
僕は自分の子供に見せる対応とは思えない丁寧な口調で喋る父上を相手に言葉を交わしていく。
「少しばかり領地を離れる。ここでやることももはやあまりない。未だ僕が当主というわけでもないしな」
「生前退位は少しばかり揉めますからね」
「そこらへんは別に良い……とりあえず、僕は領地を離れて戦力をかき集めてくる」
「戦力、ですか」
「あぁ。うちの領地はかなり多くの人材が流出してしまっているせいで、大した人材がいないからな。僕が現地を回って強そうな人材をヘッドハンティングしてくる」
「そういうことでしたか。ノア様であれば問題ないと思いますが、どうかお気をつけてお向かいください。これは、親としての、切実な願いにあります」
「あぁ、もちろん。無事に帰ってくるとも。別に助けはいらない」
「承知いたしました」
「それで、僕がいない間についてだけど……まず、鉱山経営に関しては軌道に乗るかわからないからと言い訳してどんな契約も断っといてくれ」
「わかっております。初めからそのように」
「それと、しっかりと街中で演劇と音楽を続けるように頼むぞ。愛国心……というより、我が領地への愛着を持てるようにしといてくれ」
「了解しました」
「それじゃあ、またしばらく」
「はい……いってらっしゃいませ」
僕は深々と頭を下げている父上のいる応接室から退出するのだった。
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