主人公

主人公

 荒れ狂う嵐の夜。


「あー、あー、あー、なんと、なんと哀れな人の子か」


 血を流して倒れる一人の女性に縋りつく一人の少年に向かって僕は声をかける。


「……ッ、な、なんだっ!お前っ!」


 いきなり声をかけられた一人の少年はこちらへと敵愾心に満ちた視線を向けてくる。


「その服、高位の貴族だなっ!俺たちに何の用だ!」


 そして、そのまま少年は僕へと殺意に染まった声をぶつけてくる。

 その間、少年は血を流している女性の体を力強く抱き寄せていた。


「そう、強く抱いてやるな。虫の息の先にいるその女が今にも死にそうだぞ」


「ハッ!?お、お姉ちゃんっ!?」

 

 僕の言葉に少年は強く反応し、ゆさゆさと血を流している女性のことを揺らし始める。

 そうすれば、さも当然と言うべきか女性の身体から溢れ出す血の量も増えていく。


「……だから、揺らすなと」


 僕は地面に膝をついて座り込んでいる少年を蹴り飛ばす。


「いてっ!?何すんっ!?」

 

 そして、その少年の代わりに女性の側に膝をついた僕は彼女の傷の具合を確認した後、魔力で作り出した糸でもって手早く傷口を縫い付けていく。


「……血が足りないな」


 それに付随して自分の血も女性の静脈の中に注入していき、一緒に魔力も流しこんで彼女自身の生命力と再生力も底上げしていく。

 

「な、何をして」


「治療行為だ。まだ心臓が止まっていたわけでも、呼吸が止まったわけでもない。残り僅かな魔力で致命傷に耐えているような状況だったから。このまま治療すれば治せるだろうな」


 僕の血は誰にでも輸血できる稀血。

 黄金の血とも呼ばれることのある血である。このまま大量に輸血を続け、魔力で再生力をあげていけば自ずと回復するだろう。

 既に傷口から入り込んでいた雑菌は殺してある。


「な、治るのかっ!?」


「もちろん」


 僕は少年の言葉に頷きながら、それでも女性への治療行為を中断して立ち上がる。


「なっ!?」


「さて、少年。僕であれば女性を助けられる。助けてほしいか?」


「も、もちろん!」


「何の対価もなしに、か?」


「お、俺に出来ることなら何でもっ!命だって捧げてみせる!だから、どうか!お姉ちゃんを助けてくれぇ!」


 少年は縋りように声を張り上げる。


「ふっ、僕の靴でも舐めて生涯の忠誠を誓え。さすればお前の姉を助けてやろう」


「……ッ!それで、お姉ちゃんを助けてくれるなら!俺は、貴方に永遠の忠誠を誓います」


 それに対して、意地の悪い笑みを浮かべながら己の靴を差し出した僕に対して、少年は何の躊躇もすることなく舌を伸ばすのだった。

 

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