邂逅

 マジか、こいつ。

 本気で舐めている。

 

「……こ、これで治してもらえるんだよな!?」


 僕は半ば冗談で言った自分の言葉を躊躇なく実行した少年にちょっとだけ引く。

 まぁ、良いか。それはつまり、この子は想像以上に素直で従順だ。


「ふっ。ごめんね?靴なんか舐めさせて」


「……えっ?」


「お姉ちゃんのことなら任せてよ。しっかりと治してみせるから」


 再び片膝をついて少年のお姉ちゃんである女性へと触れ、完全に回復させていく。

 特に意味もない魅せるためだけの、可視化出来るまでに濃密に編み込んだ魔力を解放しながら。


「……終わったよ」


 しっかりと女性の傷を後遺症もなく治して見せた僕は立ち上がって術の終わりを申告する。


「……えっ?あ、あれ……」


 それと共に、少年の姉が目を覚まし、自分の意識がはっきりとしていることに驚愕の表情を浮かべる。


「お姉ちゃぁーんっ!」


 そんな女性へと少年が涙を流しながら勢いよく抱き着く。


「わっ!?アセレラ……っ、ごめんね。心配かけて」

 

 涙を流しながら自分に抱き着いている少年の頭を優しく撫でながら女性は口を開く。

 

「……」


 しばし、二人の会話を眺めていた僕は。


「感動の再会をしているところ、良いかな?」


 ある程度落ち着いたところを見計らって二人へと声をかける。


「えっ!?あっ……えっと、貴方は……?」


「お姉ちゃんを治してくれた人だよ!」


「えっ!?」


「お姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとうっ!!!おかげで、おかげでっ!」


「わわっ、貴方が私のことを治してくれたんですかぁ?ありがとございます!」


 僕に向かって二人が勢いよく頭を下げてくる。


「いやいや、全然。これくらい大丈夫だよ」


 それに対して、一生引きずるくらい感謝していろ。

 そんな本心を隠しながら僕は言葉を続ける。


「おっと、そんなことより、だ。そちらの女性の傷が深刻だったがゆえに自己紹介をしていなかったね。僕のノア。お二人は?」


「あっ、そうですね。私の名前はシスと申します。命が危ないところを助けていただきありがとうございます。おかげで何とか助かりました。それで、こちらが私の弟であるアセレラにございます」


「あぁ!俺はアセレラだ!お姉ちゃんを助けてくれてありがとう!本当に、助かったよ!」


「なるほど。シスに、アセレラね。二人ともよろしく頼むね?」


 ゲームの主人公として活躍するアセレラ。

 そして、作中では一度も出ることなく故人として登場するその姉、シスの二人へと僕は出会うのだった。


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