事情

 僕が転生したゲーム『オルタナメモリー』。

 そのゲームのストーリーの主軸としては唯一の肉親であった愛する姉を失い、天涯孤独となったスラムの主人公がヒロインである一国のお姫様と共に、世直しの旅に出るというものである。


 政治腐敗に貧富の格差、近づく戦争の足音など。

 数多の問題がある世界を変えるべく立ち上がった一国の姫が、法外な才能を持つ主人公と出会うところから物語が始めるのだ。

 前半は現代の風刺とも言えるような内容が続き、後半では魔王の復活などのファンタスティックな物語が広がる。

 そんなゲームが『オルタナメモリー』なのである。


「存分にくつろいでくれたまえ」


 ゲームについて少しばかり回想していた僕は先ほど、出会ったばかりのアセレラとシスの二人へと声をかける。

 今、僕はその二人を自分の屋敷に招待し、もてなしている最中であった。


「こ、こ、……こ、れは……俺たちが座って?」


「ど、どうすればいいのでしょうか?お、お、お貴族様の方だったり?」


 そんな僕の言葉に対して、声をかけられた方の二人はおどおどとした態度で困惑の表情を見せていた。

 それもそうだろう。

 住む家もまともにないスラム生まれの二人がいきなり、小さいとはいえ貴族が使うような屋敷に招待されているのだ。


「一応貴族家に連なる者ではあるね。だが、だからと言ってそこまで委縮することもない。別に僕はそこまで力を持っているわけではないからね」


 そんな二人へと安心するように僕は声をかける。

 ここはルリック領から離れ、我らが大国であるライヒ帝国の帝都ミスタリタ。

 辺境伯という立派な地位にあるにも関わらず、我らを軽視している中央の貴族ばかりである帝都だと、僕は大した力を持っていないので嘘は言っていない。


「安心したまえ。僕はね、君たち二人を高く買っているのだ。まぁ、いきなり言われても困るとは思うけどね」


 ゲームにおいて絶大な才能を持ち、まさに最強と言えるだけの実力を持っていた主人公。

 それこそが自分の目の前にいるアセレラなのだ。


「それでも、とりあえずは僕の前に座って欲しいな……ふふ、どうしても座りたくないなら貴族としての強権も発動して座ってもらうけど、どうするかな?」


 生憎と、僕はこれっぽちもゲームのストーリーを守るために行動するつもりはなかった。

 ヒロインであるお姫様が出会うよりも更に前。

 主人公が最愛の姉を失う前に接触し、しっかりと姉を助けた僕はその二人を前に、笑みを見せながら、ソファに座るよう促すのだった。

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