転生

 1945年8月。

 ソ連からの本土上陸が決め手となった枢軸国最後の交戦国たる大日本帝国がポツダム宣言を受け入れたことによって第二次世界大戦は無事に終了した。

 戦後、北にはソ連影響下の日本社会主義共和国が、南にはアメリカ影響下の日本共和国が建国。日本は分断される憂き目にあった。


 そこから時が流れること、1962年。

 突如として日本社会主義共和国が日本共和国へと宣戦布告。

 冷戦下において始まった日本内戦においては、奇襲を敢行した日本社会主義共和国が一時的には戦線を押し上げて優勢を保ったものの、すぐさま行われた日本共和国の反抗作戦によって呆気なく日本社会主義共和国は戦線を崩壊させ、日本共和国が自国の優位性を絶対的なものにした。

 

 元より日本社会主義共和国の領土は北海道と東北地方だけであり、重要な工業拠点を持ち合わせていなかったのだ。

 そんな中で、日帝時代の工業力を変わらずにアメリカの支援を受けながら戦後復興を進め、東西冷戦の最前線として再軍備を進めていた日本共和国に、日本社会主義共和国が勝てるわけもなかった。

 

 戦闘勃発から一年足らずで日本共和国は本土統一を成し遂げた。

 そして、本土統一を成し遂げた日本はそれだけに終わらずソ連にも逆侵攻を開始。

 ソ連直轄領であるクリル諸島や樺太にまで自軍を差し向けた。

 そんな日本に同調し、西ドイツも自国の統一を目指して軍事侵攻を開始。

 日本への対応を行っていたソ連はドイツへの対応が後手に回ることとなった。


 時が進むにつれて戦禍は広がり、旧枢軸国である日独は快進撃を見せた。

 日本は中国領となっていた台湾と朝鮮へと再び侵攻して、占領。更に沿海部への強襲上陸まで成功させて進撃を続けている。

 大躍進政策で混乱の広がる中国を相手に大戦果を挙げてみせ、ソ連との戦線においても有利を保ち続けていた。

 ドイツも既に東ドイツを占領して当初の目的であった本土統一を成し遂げるどころか、更に東へと進んでかつてのプロイセンの領土までもを取り戻している。

 アメリカやイギリス、フランスなどもソ連へと軍事的な牙を剥き始め、本格的な第三次世界大戦が勃発すると言った中で。

 ソ連が核兵器を日本軍による侵攻下にあったウラジオストックへと投下。

 核の恐ろしさを世界に見せつける中で、ソ連が停戦を提案。

 その日本とドイツの二国へとかなり譲歩した停戦案に二国が了承。

 日本内戦に端を発した第二次世界大戦後最大規模の戦争は本格的な世界大戦へと発展する前に終わるのだった。


 ■■■■■


 時が進んで現代、2020年。

 日本国に自国領であった朝鮮並びに台湾だけではなく、沿海部まで割譲させられ、未だなお中国共産党と地方軍閥が内戦状態を維持し続けている中国。


「あぁぁぁぁぁ……だるぅ」


 そんな中国の湖北省武漢市にある建物の一角で、一人の少年がうめき声を漏らしていた。


「なぁーんで、僕が中国なんかに来なきゃいけないんだ」


 そして、少年はそのまま言葉を続ける。


「こらっ!なんかとは、なんだ!なんかとは!」


 それに対して、椅子に座っている少年の側に立っていた男性が憤りの声を上げる。


「今は停戦中と言えども、何時再び戦争になってもおかしくない場所なんて嫌だよ。別に僕はお父さんたちの世代としては違って差別感情はない。状況を忌み嫌っているのさ。高校生が来るようなところではないでしょ」


「……待て?俺たちも別に朝鮮人や中国人への差別感情はないぞ?」


「でも、東日本大震災の時も朝鮮人や中国人が水に毒を盛ったなどという世迷言を口にしていただろう?関東大震災の時とまるで変わらない」


「い、インターネット黎明期には色々と過激な人も多くてだなぁ」


「僕たち以上に過激な人がいるかねぇ?」


 男性の言葉に少年は苦笑しながら視線を己のいる部屋の隅へと送る。

 その瞳に映るのは椅子の上で拘束されている五人の男女。全員が血まみれで気を失っている。


「俺たちだからこそだ。朝鮮人も中国人も、この世界に存在するありとあらゆる人種的な際はさほどない。どんな人種であれ、侮るわけにはいかぬ。侮りは足元を掬う」


「わぁーているとも。別に僕は差別感情とか持っていないよ」


 椅子に腰かけていた少年は立ち上がり、手元で回していた針を気絶している中国人の手の平に突き刺す。


「ただ、必要なら手も血に染める。それだけだからね」


 刺されても目を覚まさない中国人の返り血が自分の手元に降りかかる中でも眉一つ動かすことのない少年は淡々と言葉を話していく。


「さて、そろそろ起こそうか。中国の武漢で研究されている新型生物兵器に関する調査をさっさとまとめないといけないし……お父さん、約束通りこれが終わったら僕が展開している事業の拡大に政府の方から手を回してよ?」


「あぁ、わかっているとも」


 薄暗い建物の中。

 中国人に対しての調査を繰り広げていた少年と男性が、休憩時間を終わらせて再び動きだした中。


「なら良い……それじゃあ、尋問のつッ!?」


 唐突に二人がいた建物の壁が勢いよく破壊される。

 

「拯救我們的弟兄們!」


 凄まじい衝撃と共に破壊された建物の壁。。

 それに少年が素早く反応して視線を送ると共に、破壊された壁から数名の武装した中国人が侵入してくる。


「死ね」


 そんな事態にも慌てず、すぐさま反応した少年は腰から引き抜いた拳銃を発砲。

 抜群の射撃能力で確実にまず一人を撃ち殺すと共に、その身を物陰へと隠す。


「警備班は何していたんだっ!?」


 少年は中国人の手にある作りの悪い銃から発泡される弾丸からその身を守りながら、自分たちを守っていたはずの警備班への憤りの声を上げる。


「ご無事ですかっ!」


 そんな中で襲撃を仕掛けてきた中国人に遅れる形で日本兵が登場し、中国人を殲滅していく。


「ふぅ……終わッ!?」


 それを受けて一息つき、ゆっくりと少年は立ち上がる。

 そんな少年に向けて、これまで拘束されていたはずの中国人が走り出す。拘束具は弾丸を受けて破壊されており、解放された中国人の手には何処に隠し持っていたのか、その手には一つの槍が握られている。


「ぐふっ……く、そがぁ」


 少年も素早く反応したものの、回避は間に合わなかった。

 腕の中。手術の果てに無理やり腕の中へと槍を隠し持っていた中国人の一撃で少年は心臓を貫かれた。

 それでも、少年は己を心臓を貫いた中国人の頭に鉛玉をぶち込む。

 少年に出来たのはここまでであった。


「……これは駄目だな」


 頭に弾丸を受けて崩れ落ちる中国人の上に重なる形で、少年も体を倒す。

 その少年の意識は徐々に暗く染まっていき、その身が堕ちていく───


 

 ■■■■■

 


 心臓を貫かれた体はずの身体は小さな赤ん坊となり。

 自分の目の前にはこちらを憎んでいるであろう中国人から、涙を流している二人の男女へと。


「あ、あぁぁ……」


「ど、どうしましょう。貴方、本当に、本当に産んでしまったわ」


「なんたること、だ。あぁ。ここまで来たら我らに出来るのはただ、祈るのみ……どうか、どうか」


 そして、一度は完全に闇の底へと沈んだはずの意識はこれ以上ないほど明瞭に澄んで、冴えわたっている。

 

「ばぶっ、ばぶーっ(どーなっているんや)」


 そんな状況を前に少年は途方に暮れながら困惑の声を漏らす。

 

 反アメリカの動きも強くなる複雑化する国際情勢の中で、大日本帝国の時以上の繁栄と領土を享受する現代の日本国の諜報員の息子として生まれた少年。

 死と共に生まれ、死と共に育ってきた少年が今日。

 此度は異世界へと生まれ変わるのであった。

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