模擬戦

 自分の屋敷の訓練場の方で。


「よぉ、二人とも。ちゃんとやっているかな?」


 剣を持って一生懸命素振りをしていたアセレラとシスの二人へと僕は声をかける。


「……ッ!?ノア様っ」


「わ、わわ、なんでここにいるんですか……っ!?」


 僕の姿を見た二人は驚愕の表情を浮かべる。


「ちょろっと君たち二人の様子を見に、ね?」


 二つの実剣を持ちながら近づく僕は二人に笑顔を見せながら口を開く。


「よっと」


 そして、そのまま二人へと自分が盛ってきた実剣を投げて渡す。


「おっと」


「っとと」


「よし、受け取ったな?」


 投げ渡した実剣を受け取った二人を見て僕は笑みを浮かべる。


「それじゃあ、楽しい楽しい模擬戦と行こうかっ!君たち二人の、現在地を教えてくれると助かるな」


 実剣を手に持ちながら、困惑の表情を浮かべている二人に対して僕は不適な笑みを浮かべながら告げる。


「い、いいんですか……?ノア様は武器を持っていないんですけど」


「そ、それに私へと渡されたのは実剣ですしぃ……」


 それに対して、不満そうな表情を浮かべる。


「素手でも問題ない。それに、必要ならすぐに作れる」


 困惑する二人に対して僕は軽く拳を握りながら構える。


「いくら、君たちが成長しようとも……届くことのない貴族の高みを見せてやろう」


「……えぇ?」


「ほ、本気なんですか?」


 それでも、二人は困惑の表情を隠そうともしない。


「ふふっ。拒否権はないけどね?」


 だけど、どれだけ二人が粘らうとも僕は端からやるつもりなのである。

 平民が貴族に逆らうなどほぼ不可能なのである。


「「……ッ!?」」


 僕は自身にある魔力を爆発すると共に地を蹴り、たった一歩で距離を詰め……まず狙うのはアセレラである。

 

「がふっ!?」


 僕に対して、慌てて防御態勢を取ろうとするアセレラではあったが、間に合うことはなかった。

 僕の拳は違えることなくアセレラの腹を打ちぬき、その体を宙へと浮かす。


「おぇっ!?」


 吹き飛ばされたアセレラはそのまま地面を転がって口から涎を垂らして喘ぐ。


「……ッ!」


 それを見たその瞬間、シスが一瞬で切り替えて動き出して僕の方へと全力で斬りかかってくる。

 本当に一瞬。

 何処かゆるふわな雰囲気を纏っていたシスの雰囲気は一瞬で修羅の物へと。


「へぇ」


「……嘘っ!?」


 想定外。

 剣聖はやはり剣聖、その評価はまさに正しかった。


「かなり動きが良いじゃないか……まさか、ここまでとは」

 

 シスが振り下ろした剣を片手で受け流し、そのまま彼女の姿勢ごと崩して転ばせた僕は、彼女の想像以上の剣の腕に笑みを浮かべるのだった。

 

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